Vol.3 エキスパート版 線溶反応の基本を理解する
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用語解説1.線溶反応
サマリー
線溶反応は、プラスミンがフィブリン血栓を分解する反応です。血管内皮細胞のWeibel-Palade小体から放出される
t-PA
t-PA:tissue-type plasminogen activator
組織型プラスミノゲンアクチベータ。プラスミノゲンを活性化する線溶系の開始因子。
がプラスミノゲンをプラスミンへ変換し、プラスミンがフィブリン血栓を分解します。フィブリン血栓が分解されることでフィブリン分解産物であるD-ダイマーが増加します。フィブリン血栓の関与なしに産生されたプラスミンがフィブリノゲンを分解する反応を一次線溶、フィブリン血栓依存性に産生されたプラスミンがフィブリンを分解する反応を二次線溶と言います。過剰なプラスミンによる線溶反応に対しては、
PAI-1
PAI-1:plasminogen activator inhibitor-1
t-PAと結合して不活性化する線溶抑制因子。
・α2-アンチプラスミンがプラスミン産生を抑制する線溶抑制反応が起こります。
フィブリノゲンとフィブリンの和名は線維素原と線維素です。線維素原分解で線維素が形成され、線維素を溶解する反応が線維素溶解反応で、略して線溶反応となりフィブリン分解を意味します。線溶反応は血管内皮細胞Weibel-Palade小体(あるいはsmall storage granule)(本シリーズでは混乱を避けるためにWeibel-Palade小体で記載を統一します)に貯蔵されているt-PAの血管内放出で開始され、放出刺激はフィブリン血栓下血管内皮細胞の低酸素・虚血と産生されたトロンビンです。放出されたt-PAと血中のプラスミノゲンはフィブリン血栓上で会合しt-PAがプラスミノゲンをプラスミンへ変換し、プラスミンがフィブリンを分解します。これに伴いフィブリンのC末端にリジン残基が露出しますが、リジン残基にt-PAとプラスミノゲンがおのおのの
LBS
LBS:lysine binding site
リジン結合部位。t-PA、プラスミノゲン、プラスミンに存在しフィブリンのリジン残基に結合する。プラスミンはα2-アンチプラスミンのリジン残基にも結合する。
を介して結合します。この結合によりプラスミン産生が数百倍に加速されてフィブリン分解が進行し、フィブリン分解産物のD-ダイマーが増加します。
血中に逸脱したt-PAはPAI-1と複合体を形成して不活化されます。同時に余剰のプラスミンはそのLBSを介してα2-アンチプラスミン(別名はα2-プラスミンインヒビター)のリジン残基と結合して不活化されます。トロンビンはフィブリン血栓形成の主役ですが、t-PAを放出して線溶亢進も起こします。さらにトロンボモジュリンと結合して
TAFI
TAFI:thrombin activatable fibrinolysis inhibitor
トロンビン/トロンボモジュリン複合体で活性化され、線溶阻害に働く。
を
TAFIa
TAFIa:activated TAFI
活性化TAFI。フィブリンのリジン残基に結合してプラスミン産生を阻害する。
とし、TAFIaがフィブリンのリジン残基を分解し、t-PAとプラスミノゲンのフィブリンへの結合を阻害してプラスミン産生を抑制します。このようにトロンビンは凝固と線溶をともに亢進させる作用があります。
プラスミンがフィブリンを分解する線溶反応を二次線溶と言い、換言するとフィブリン依存性のプラスミン産生による(プラスミン産生にフィブリンが補酵素的役割を担う)フィブリン分解が二次線溶です。通常、二次線溶ではフィブリノゲン分解は起こりません。しかし、放出t-PA量が PAI-1量を凌駕する場合や産生されたプラスミンが消費性にα2-アンチプラスミンを極度に減少させる場合(60%未満といわれます)には、過剰なt-PAによるプラスミノゲン/プラスミン変換が亢進し、α2-アンチプラスミン阻害を受けないプラスミンが血液中に逸脱します。このプラスミンがフィブリノゲンを分解するために、過剰な二次線溶ではフィブリンとフィブリノゲン分解が起こり、D-ダイマーとFDPが増加します。
フィブリンの関与なしに産生されたプラスミンがフィブリノゲン分解を起こす反応を一次線溶と言いますが、上述のフィブリノゲン分解は一次線溶と言いません。すなわち、一次・二次線溶の相違はフィブリノゲン分解の有無ではなく、プラスミン産生にフィブリンが関与するか(二次線溶)、しないか(一次線溶)で区別します。健常人にt-PAを静注すると純粋な一次線溶、フィブリン分解のないフィブリノゲン分解が起こりますが、健常人にt-PAを静注することはありません。臨床では、t-PAを多量に含有する脳組織が損傷されて(頭部外傷)t-PAが血中に逸脱する場合や、ショックなどで血管内皮細胞が低酸素・虚血に陥りWeibel-Palade小体からt-PAが放出される場合などに一次線溶が起こり、フィブリノゲンが分解されます。しかし、いずれの場合もトロンビン産生とフィブリン血栓形成があり二次線溶も同時に起こることに注意してください。
D-ダイマーはFXIIIaを介して架橋結合した安定化フィブリンの分解産物ですが、FDPはフィブリンとフィブリノゲン分解産物(FgDP)の総称です。D-ダイマーは分解した安定化フィブリンのD分画二量体(DD)とE分画を1単位としたDD/Eの集合体で、FgDPは分解したフィブリノゲンのX、Y、D、E分画の集合体です。α2-アンチプラスミンは常時血中に存在しますが、PAI-1遺伝子は炎症性サイトカイン、低酸素などで発現が誘導されることも記憶するとよいでしょう。
2.カリクレイン/キニン経路、エラスターゼと線溶反応
サマリー
t-PAだけでなく、 FXIIa・カリクレインもプラスミノゲンをプラスミンに変換します。FXIIはDNA/RNAやコラーゲン、ポリリン酸などの陰性荷電物質との接触により活性化され、
高分子キニノゲン(HMWK)
HMWK:high molecular weight kininogen
Fitzgerald factorとも呼ばれる。
上でFXIIaによりプレカリクレインからカリクレインが生じます。FXIIaとカリクレイン/キニン経路は線溶反応亢進だけでなく、炎症反応亢進にも関与します。さらに好中球エラスターゼが基質非特異的にフィブリンを分解することも知られていますが、その正確な臨床的意義は明らかではありません。
FXIIは内因系凝固反応とともにカリクレイン/キニン経路を活性化させる働きがあり、この経路を介した線溶反応も確認されています。FXIIは組織損傷時に血管内露出するコラーゲン、組織損傷・偶発的細胞死(ネクローシス)に伴い放出されるDNAとRNA、NETosisで放出される
NETs
NETs:neutrophil extracellular traps
好中球細胞外トラップ。DNA、ヒストンで構成され、好中球エラスターゼなどが付着するクロマチン網。
構成成分のDNA、血小板が放出するポリリン酸と細菌に含まれるポリリン酸などの陰性荷電物質に接触して活性化します。高分子キニノゲン(HMWK)はプレカリクレインと複合体を形成して存在しますが、FXII同様に陰性荷電物質に結合します。この結果、陰性荷電物質表面でFXII、HMWK、プレカリクレインが会合し、HMWKを足場(scaffold)としてFXII→FXIIaが進み、FXIIaがプレカリクレインをカリクレインに変換し、さらにカリクレインがFXII→FXIIa反応を促進するポジティブフィードバックが起こります。つまり、HMWKは内因系凝固反応とカリクレイン/キニン反応の両者に重要な役割を担います。
FXIIaはプラスミノゲンに作用してプラスミンを産生し線溶反応を亢進させ、PAI-1を不活化して線溶を補助する作用を併せ持ちます。カリクレインもプラスミノゲンをプラスミンに変換する作用があります。さらに、カリクレインはHMWKを切断・分解してブラジキニンが生じますが、ブラジキニンはブラジキニンB2受容体(B2R)を介して血管内皮細胞Weibel-Palade小体からt-PAの放出を促進しプラスミノゲンからプラスミンが形成されます。つまり、FXIIaとカリクレイン/キニン経路は線溶反応亢進に関与します。ブラジキニンはB2Rを介して炎症反応(血管拡張、血管透過性亢進)を起こし、発痛作用で炎症の存在を生体に認知させ、
B1R
B1R:bradykininB1
ブラジキニンB1受容体。
に作用して白血球活性化も起こします。このように、ブラジキニンにより炎症反応の三徴(血管拡張、透過性亢進、白血球活性化)が揃い、これらが侵襲局所で「発赤、腫脹、疼痛、熱感」として認識されます。炎症が全身に広がると、「頻脈、頻呼吸、発熱、白血球増多」となり、これを
全身性炎症反応症候群(SIRS)
全身性炎症反応症候群(SIRS:systemic inflammatory response syndrome)
炎症性サイトカインが優位となる病態で、SIRSが抗炎症性サイトカインによって制御されると代償性抗炎症反応症候群(compensated anti-inflammatory syndrome; CARS)となる。
と呼称します。ブラジキニン代謝産物
DABK
DABK:Des-Arg⁹-Bradykinin
アンギオテンシン変換酵素(ACE)によるブラジキニン分解産物。
は炎症により発現が増強するB1Rに作用して慢性炎症反応に寄与しています。このように、FXIIaとカリクレイン/キニン経路は線溶亢進と炎症反応亢進という2つの機能をもっています。
好中球アズール顆粒はエラスターゼ、カテプシンG、ミエロペルオキシダーゼ、プロテイナーゼ3などのプロテアーゼを含有し、好中球活性化過程でこれらが放出されますが、NETsにもこれらのプロテアーゼが付着しています。このなかでエラスターゼは基質非特異的に多くの蛋白を分解し、フィブリンを分解することも知られています。プラスミンがフィブリンの特定部位を分解するのに対して、エラスターゼはいわば無秩序に多部位を切断します。
エラスターゼ依存性フィブリン分解産物(eXDP)
エラスターゼ依存性フィブリン分解産物(eXDP:neutrophil elastase-derived fibrin degradation product)
好中球エラスターゼによる架橋化フィブリン分解産物。
の測定系が確立し、敗血症、外傷などでeXDPの動態が明らかになってきました。プラスミンによるフィブリン分解を補完する目的で侵襲時に炎症反応増強に合わせてエラスターゼがフィブリン分解を起こすと思われますが、正確な臨床的意義は明らかではありません。
(審J2603256)

