- 特集
第45回日本川崎病学会学術集会 ランチョンセミナー4-講演1
第45回日本川崎病学会・学術集会
ランチョンセミナー4
開催日:2025年10月18日(審J2603291)
講演1
その発熱、川崎病かも? -多様な年齢層における鑑別アプローチ-
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 小児科学分野 講師 上野 健太郎 先生
本講演では、年齢で変わる川崎病の顔つきや特徴と、不全型川崎病の軽微なサインを見逃さないポイント、心エコーの活用法について解説する。
原因不明の小児発熱では、常に川崎病を鑑別に置くことは小児科医の大前提である。一方で、診断を固定せず、治療不応時は常に鑑別を見直すことも重要となる。また、川崎病以外の症状にも留意し、心エコー検査では周波数やゲインの調整により見え方が大きく変わることを理解する必要がある。
川崎病の診断は、主要症状が5項目、6項目ある場合は難しくない。しかし、主要症状が4項目以下の場合は、不全型川崎病についてしっかりと見極める目を養う必要がある。第27回川崎病全国疫学調査のデータによると、不全型の主要症状4項目以下の割合を見ると、乳幼児早期(0~5カ月)と5歳以上で主要症状が3項目以下の症例が多く、診断・鑑別に悩む事例が多いことが判明している1)(図1)。
乳児期の川崎病の特徴について、米国、韓国および本邦からの報告をみると、主要症状の発疹、眼球結膜充血、口唇・口腔所見はいずれも約9割にみられるが、四肢末端の変化や非化膿性リンパ節腫脹、免疫グロブリン(IVIG)不応例の割合は報告によりばらつきがある2~4)。
患者数の変動を見ると、2019年にガイドラインが改訂されて以降、定型例と診断される症例が増加している。しかし、約2割の症例は依然として不全型であり、患者数は全体として減少しているものの、不全型、特に主要症状3項目以下が34%を占め、鑑別・診断に悩む事例は相当数存在すると推察される1)。
主要症状が少ない症例を見逃さないためには、①軽微な臨床症状を認識する、②複数の目で診る、③微妙な冠動脈所見を正確に評価する、④『川崎病診断の手引き改訂第6版』に記載されている参考条項を活用することが重要であると考えている。鹿児島県のデータ(2011~2016年)では、入院治療を受けた川崎病患者383例のうち、明確な主要症状が3項目以下で抗菌薬治療が初期に開始された30例を検討した結果、口唇・口腔所見が比較的見逃されやすいことが明らかになった5)(図2)。
海外の報告でも、アメリカ7施設とカナダ1施設における診断の遅れに関する検討で、頸部リンパ節腫脹、口腔粘膜変化、眼球結膜充血について施設間で差があることがわかっている6)。
乳児期の川崎病の特徴として、大腿部や下腹部(会陰)など柔らかい部位に発疹が多く認められる。また、薄くて注意深く観察しないとわからないこともあるが、臍の紅斑も乳児期の特徴の一つとして重要視される7~9)。
乳児期に鑑別を要する疾患として、いずれも数%程度ではあるが、四肢の紅斑や手掌・足底の紅斑を呈するアデノウイルスやRSウイルス感染症がある10~14)。これらは川崎病と類似した症状を呈するため診断に迷うことがあるが、随伴する上気道炎や呼吸器症状により鑑別が可能である。興味深いことに、フランスの疫学調査では、アデノウイルス、RSウイルス、ノロウイルスなどの感染のピークに少し遅れて川崎病が発症していることが示されており、川崎病は感染(環境)因子、宿主の感受性、自然免疫経路が複雑に絡み合うことによって発症することを示唆している14)。
鹿児島県のデータ(2011~2016年、383人入院)で、初診時に川崎病と診断した事例を除き、初期治療が開始された62人を分析すると、年齢が高い症例では頸部リンパ節炎が圧倒的に多く、月齢の低い症例では不明熱や尿路感染症が多いことが判明している5)(図3)。また、頸部リンパ節の腫脹の多くは胸鎖乳突筋深部の上深頸(Level Ⅱ)に検出されるため、そのことを念頭に置いておくと診断の参考となる15)。われわれの施設では、川崎病を疑う際の重要なアプローチとして、心エコー検査の実施と併せて頸部リンパ節エコーも積極的に行い、診断の精度向上に努めている。
頸部リンパ節腫脹は、化膿性リンパ節炎との鑑別が必要になる。川崎病ではリンパ門部から血流が認められるのも特徴である。一方、化膿性リンパ節炎では一般的に単一優位の腫大リンパ節が多く、境界不明瞭・内部不均一となり、壊死やリンパ門消失を伴いやすい。カラードプラでは、内部の不均一病変や低エコー域に血流を認めない所見がみられる9, 15~17)。
成人発症川崎病は、日本(1991年)18)とフランスからの報告19~21)によると、平均発症年齢は20代後半から30歳くらいで、診断が遅れる傾向にある。発疹や結膜充血、口腔所見は比較的認められるが、診断が遅れる影響で冠動脈瘤として後にフォローされる事例が比較的多い。初期症状として消化器症状や肝機能障害、肝逸脱酵素の上昇、関節症状で発見される事例も多いことが特徴である。
しかし、小児科医であるわれわれは、成人を診る機会がほとんどない。また、成人発症Still病の鑑別診断において川崎病は一般的に想起されにくく、内科医における疾患認知度も十分とは言えない状況である。そのため診断までに時間を要し、冠動脈瘤が形成されている症例も多いのが現状であり、啓発が必要である。
年齢により症状が異なる理由については、微生物や病原体関連分子パターン(PAMPs)、ならびに組織障害に伴って放出される障害関連分子パターン(DAMPs)は、パターン認識受容体を介して自然免疫系を活性化し、サイトカイン・ケモカイン産生と炎症増幅のシグナルを誘導することで、冠動脈病変や冠動脈瘤の形成に関与すると考えられている。一方、新生児期から乳児期早期では、パターン認識受容体、とくに Toll-like receptor(TLR)を介する自然免疫応答は年長児に比べて量的・質的に未熟で、単球・好中球系の炎症応答にも年齢依存的な制御が存在するため、川崎病においても主要症状が典型的に揃いにくい可能性がある。幼児期から学童期にかけてはこれらの応答が成熟し、主要症状がより明瞭に出現しやすくなると考えられる13, 22~24)。
自治医科大学の研究によると、初診時の心エコーで冠動脈病変が検出された事例について、主要症状3項目以下の103,222例を対象とした解析では、3,707例(3.6%)で初診時に冠動脈病変(CAL)が検出され、U字型の分布を示している。特に6カ月未満で多く、60カ月以上で再上昇している。また、発症6日以降で冠動脈病変の検出率が漸増している25)。
以上のことからも、乳児や不全型では初診時の心エコーが鍵になってくる。とはいえ、乳幼児だけでなく、どの年齢区分においても心エコーは重要であり、とくに成人期は疾患啓発も必要である。
その他、治療開始前の最大冠動脈Zスコア(preZmax)が2.0を超えている初診患者は約5.9%存在する26)。発症5日以降のpreZmaxが2.0を超えているかは、早期冠動脈病変の有用な指標となるとともに、不全型川崎病の早期診断にも有用である。
川崎病の早期診断のポイントをまとめると、①原因不明の小児発熱では常に川崎病を鑑別に置く。②年齢ごとの特徴を理解する。年齢により川崎病の特徴は異なるため、軽微なサインを見逃さず、迷った際は複数の目で診る。③判断に迷ったら心エコーを行う。
川崎病は単一の疾患でありながら、臨床医のみならず基礎系研究者、疫学・環境、データサイエンスを専門とする多くの研究者が一堂に会して病因究明と冠動脈病変ゼロを目指している貴重な疾患である。All Japanでの冠動脈病変ゼロに向けた取り組みを通じて、より良い診療体制の構築が期待される。
【参考文献】
1)屋代真弓, ほか. 小児科診療. 87: 367-372, 2024.
2)Salgado AP, et al. J Pediatr. 185: 112-116, 2017.
3)Yoon YM, et al. Korean Circ J. 46: 550-555, 2016.
4)花山隆三, ほか. 広島医学. 64: 24-26, 2011.
5)Nomura Y, et al. Rheumato. 2: 24-33, 2022.
6)Minich LL, et al. Pediatrics. 120: e1434-e1440, 2007.
7)高山順, ほか. 日小児会誌. 86: 567-572, 1982.
8)Uehara R, et al. Pediatr Infect Dis J. 29: 430-433, 2010.
9)日本川崎病学会編. 川崎病診断の手引きガイドブック2020. 診断と治療社, 東京, 2020.
10)Chuh A, et al. Acta Derm Venereol. 97: 354-357, 2017.
11)De Crem C, et al. Belgian Journal of Paediatrics. 123: 308-313, 2021.
12)Hara T, et al. Clin Exp Immunol. 186: 134-143, 2016.
13)Hara T, et al. Clin Transl Immunol. 10: e1284, 2021.
14)Valtuille Z, et al. EClinicalMedicine. 61: 102078, 2023.
15)Nozaki T, et al. Pediatr Int. 58: 1146-1152, 2016.
16)Park BS, et al. J Cardiovasc Imaging. 26: 238-246, 2018.
17)日本川崎病学会編 川崎病学 改訂第2版. 診断と治療社, 東京, 2021.
18) Tomiyama J, et al. Jpn J Med. 30: 285-289, 1991.
19)Sève P, et al. Semin Arthritis Rheum. 34: 785-792, 2005.
20)Fraison JB, et al. Autoimmun Rev. 15: 242-249, 2016.
21)Gomard-Mennesson E, et al. Medicine(Baltimore). 89: 149-158, 2010.
22)Ulas T, et al. Nat Immunol. 18: 622-632, 2017.
23)Viemann D. Front Immunol. 11: 688, 2020.
24)Wang Y, et al. Pediatr Investig. 6: 271-279, 2022.
25)Ae R, et al. J Am Heart Assoc. 10: e019853, 2021.
26)Fuse S, et al. Circ J. 82: 247-250, 2017.

