- 特集
『心臓移植後の抗体関連型拒絶反応の治療』講演2
第61回日本移植学会総会ランチョンセミナー10
開催場所:ウインクあいち
開催日付:2025年10月11日
2026年6月作成
審J2606064
座長
東京女子医科大学 心臓血管外科 布田 伸一 先生(講演当時のご所属)
演者1
東京大学医学部附属病院 循環器内科 網谷 英介 先生(講演当時のご所属)
演者2
国立循環器病研究センター 心不全・移植部門 移植医療部 渡邉 琢也 先生(講演当時のご所属)
「ヴェノグロブリンIHの警告・禁忌を含む注意事項等情報」等、また各薬剤の使用にあたっては、最新の電子化された添付文書をご参照ください。
講演2
心臓移植後の抗体関連型拒絶反応に対する免疫グロブリン療法~薬事承認後の期待と位置づけ~
演者:国立循環器病研究センター 心不全・移植部門 移植医療部 医長 渡邉 琢也 先生(講演当時のご所属)
心臓移植に携わる循環器内科医にとって、抗体関連型拒絶反応(AMR)は理解が難しい分野である。その理由を以下に挙げる。
①日本と海外における心臓移植環境の違い
移植前のリスク評価において、海外ではバーチャルクロスマッチが主体である1)一方、国内では移植希望者の血清とドナーリンパ球を用いた補体依存性細胞傷害作用(complement-dependent cytotoxicity:CDC)法によるダイレクトクロスマッチで移植実施の評価が行われてきた2)。こうした環境の違いから、移植先進国でのエビデンスを外挿することが困難である。
②診断と治療介入の複雑さ
AMRは心臓移植後のグラフト不全、長期予後、冠動脈硬化症の進行に影響すると言われている3)4)。国際心肺移植学会(ISHLT)によるAMRの病理学的診断基準5)は1990年、2000年、2013年と改訂されてきたが、免疫抗体反応が組み込まれた近年の診断基準におけるpathological AMR(pAMR)と臨床経過との関連性は十分に検討されていない。pAMR 3は治療適応となるが、pAMR 1~2に対しての治療適応は依然としてcontroversialである。無症候・無治療のAMRは生命予後には影響を及ぼさない一方で、冠動脈硬化症の発症率が高まるという報告もあり6)、診断基準に基づいて治療方針を判断することが難しい。
③抗体評価検査の意義が確立していない
以前はFlow%PRAでの評価が主流であったが、LAB ScreenⓇやC1qScreenTMの登場により、単一抗体の同定およびC1qやC4dといった補体との結合能を有する抗HLA抗体の検出が可能となった。しかし、これらの臨床的意義は確立していない7)。
④多様な抗体評価検査の臨床的定義
抗体評価検査の臨床的定義には様々なものがあり(表1)、例えばPanel Reactive Antibody(PRA)は>10%で陽性とする定義がある一方、>50%で中程度のリスク、>80%で高リスクとされ、Luminex single antigenの平均蛍光強度(normalized mean fluorescent intensity:nMFI)は>1,000で陽性とされているが、>3,000や>5,000をlow risk、>8,000や>10,000をhigh riskとするなど、臨床的に意味があるとする定義については施設により様々である5,8-11)。
一般的に、ISHLTのガイドラインでは移植前から存在する、当該ドナーのHLA抗原に対するドナー特異的抗HLA抗体(DSA)はpreformed DSAと定義され、移植後に初めて確認されたDSAがde novo DSAと定義されている。一方で、米国のThe Sensitization in Transplant: Assessment of Risk (STAR)ワーキンググループは、移植後3ヵ月以内に同定された新規のDSA(移植前には確認されていないDSA)もde novo DSAとせずpreformed DSAに含めることを提案している11)。補体(C4dやC1q)結合能を有するDSAを陽性とするnMFI値も確立していない。さらには、抗non HLA抗体と呼ばれる抗HLA抗体以外の抗体も報告されているが、臨床的意義は依然として明確ではない12)。
Mehta A, et al. JACC Heart Fail. 2025;13:102614、Kobashigawa J, et al. J Heart Lung Transplant. 2025;44:e1-e20、Kobashigawa J, et al. J Heart Lung Transplant. 2018;37:537-547、Velleca A, et al. J Heart Lung Transplant. 2023;42:e1-e141
Lefaucheur C, et al. Am J Transplant. 2023;23:115-132を参考として演者作成
海外のガイドラインでは、AMRに対する治療として、ファーストラインとしてステロイドパルス療法、血漿交換、IVIg、セカンドラインとしてリツキシマブなどが推奨されている5)。なお、日本のガイドラインである「臓器移植抗体陽性診療ガイドライン2023」13)では、下記のとおり推奨されている。
日本移植学会 臓器移植抗体陽性診療ガイドライン策定委員会・編. 臓器移植抗体陽性診療ガイドライン2023.
AMRの機序を考えると、形質細胞が抗体を産生し、その抗体が炎症反応を引き起す機序には、T細胞の活性化がB細胞を活性化して形質細胞に作用して抗体が産生されるのであり、DSAの中和、T細胞活性の抑制、サイトカイン産生の抑制、B細胞の活性化の抑制、さらには形質細胞の活性化の抑制という多因子的なアプローチが必要であると考えられる(表2)5)。 IVIgの作用機序については様々な議論があり、補体活性の抑制、Fcγ受容体を介したB細胞の抑制、サイトカインや抗原提示細胞の抑制という様々な効果が期待されている14)。しかしながら、ガイドライン2)に記載のある薬剤は基本的に日本では保険適用外であった。このような中で献血ヴェノグロブリンIH10%静注に対して臓器移植における抗体関連型拒絶反応の治療の適応がこの度承認された。これにより、治療が実施され、治療方法の統一化につながることが期待される。
Mehta A, et al. JACC Heart Fail. 2025;13:102614より改変
*1 献血ヴェノグロブリンIH10%の静注の臓器移植における抗体関連型拒絶反応の治療の用法及び用量は「通常、人免疫グロブリンGとして、1日あたり1回1,000mg(10mL)/kg体重を2回点滴静注する。ただし、患者の年齢及び状態に応じて適宜減量する。なお、必要に応じて追加投与する。」です。
*2ボルテゾミブ及びトシリズマブについては、臓器移植におけるAMR治療の適応はありません。
以下に、IVIgの保険適用以降にAMRを発症して治療した1例を紹介する。
紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様の結果を示すわけではありません。
症例
【症例】40歳代女性(心臓移植時)拡張型心筋症
【現病歴】6年前に妊娠し体重増加と下腿浮腫、出産(帝王切開)後に心不全を発症。退院3カ月後に心不全増悪。臓器障害を伴う心原性ショックとなり当院搬送。心臓移植を要すると判断され、植込型左室補助人工心臓(LVAD)で待機。6年の待機期間を経てドナー情報を受け、心臓移植目的に入院。
【心臓移植時リスク因子】腎機能障害なし、ドナー・レシピエント性、体格マッチングに問題なし、ドナー心機能良好、虚血時間許容内
本症例はHLAミスマッチが3つ認められたものの、移植直近の2年前、1年前、移植直前の抗HLA抗体の評価により、本ドナーに対するDSAは認められず、ダイレクトクロスマッチも陰性であった。なお、6年前のLVAD装着時および5年前の抗HLA抗体を確認すると、A11がnMFI値4,870、B51がnMFI値17,342、DR4がnMFI値16,434であり、ドナー特異的抗HLA抗体を有していた(図1、2)。
Day 3にASTとALTが上昇。心臓移植後の経食道心エコーで下大静脈が狭窄していることを指摘されていたことから、うっ血肝を疑いながら、Day5にカテーテルを施行した。心エコー検査では、明らかな心機能の低下は認められなかった(図3)。
Day 5の心筋生検の結果はpAMR 2(H+、I+)であった。血管内皮細胞の腫大と血管内にマクロファージの集積を認め、免疫染色で血管内皮にC4dの沈着もみられた。追加検査を実施するとA11、B51、DR4が上昇しており、B51とDR4においては補体結合能を有するDSA(C1q-DSA)も陽性であった。そこでステロイドパルス療法を行い、IVIgをDay5とDay6にそれぞれ1 g/kg投与したが、nMFIはさらに上昇し、心拍数も増加したため血漿交換を追加した。血漿交換後もnMFIの下がりが悪く、3回実施した後もnMFIの低下は認められなかった。
Day 10の心筋生検ではpAMR 2(H+、I+)のままであり、心係数(CI)が1.4と低下していたことから、セカンドラインのリツキシマブを投与した。さらに、IVIgをDay10とDay12にそれぞれ1 g/kg投与した。その後はnMFIが下がりはじめ、Day 21でpAMR 1(H-, I+)となり、CIも改善した。Day 42にはpAMR 0(H-, I-)となり、DR4は、C1q-DSAを含めてまだ陽性であったが、A11とB51は低下した。
移植後2年目の現在は心機能が改善し、拒絶反応の再燃やDSAの再上昇もなく、現時点では冠動脈病変の進行もみられていない。
症例報告者:渡邉 琢也先生
症例報告者:渡邉 琢也先生
献血ヴェノグロブリンIH10%静注における「抗体関連型拒絶反応の治療」に関する電子添文
(電子添文2025年10月改訂より一部抜粋)
6.用法及び用量
通常、人免疫グロブリンGとして、1日あたり1回1,000mg(10mL)/kg体重を2回点滴静注する。ただし、患者の年齢及び状態に応じて適宜減量する。なお、必要に応じて追加投与する。
7.用法及び用量に関連する注意
7.9 本剤は投与開始から10日間以内を目安に2回の投与を完了するが、患者の年齢及び状態に応じて適宜調節すること。
AMRに対する免疫グロブリン療法の日本における薬事承認は、臨床ガイドラインと実臨床応用のギャップを埋める大きな一歩であり、AMRに対して臨床ガイドラインに即した適正な治療を提供できる可能性がある。今後の適正使用の推進と臨床的有用性の評価の蓄積が期待される。
質疑応答
Q:渡邉先生の施設では、ドナー血の採血でA、B、DR以外の検査をされているか?
渡邉先生:CローカスとDQを測定している。Cローカスの陽性率が高い印象がある一方で、それが拒絶反応を起こしているかについては、今後調べてみる必要がある。
Q:C1qは毎回参考にし、傷害性があるか判断しているのですか?
渡邉先生:C1qに関してはまだ研究段階と理解しているが、DSAを有するレシピエントの心臓移植において、移植前にダイレクトクロスマッチ陰性に加えてC1q-DSAが陰性であることが確認されれば、安心感があり、陽性歴があれば注意するという位置付けである。一方で、nMFI値が非常に高いDSAを有している場合(例えば1万以上)に、ダイレクトクロスマッチ陰性で、C1q-DSAが陰性であったとしても、脱感作療法を含めた移植前の対応は検討せざるを得ないというのが現状である。
クロージングリマークス 東京女子医科大学 心臓血管外科 布田 伸一 先生
AMRに対するIVIgは、世界でもわが国でも費用的な観点から使用が制限されている状況であった。献血ヴェノグロブリンIH10%静注に対してAMR治療の保険適応が承認されたことは、わが国の心臓移植治療成績がより良好になるということが期待され、とても評価できる。IVIgの明らかになっていない機序については、今後オールジャパンで解明していきたい。
参考文献
1. Sullivan HC, et al. Am J Transplant. 2025;25:2048-2056.
2. 日本循環器学会, 日本心不全学会, 日本小児循環器学会. 2025年改訂版 心臓移植に関するガイドライン.
3. Colvin MM, et al. Circulation. 2015;131:1608-1639.
4. Berry GJ, al. J Heart Lung Transplant. 2013;32:1147-1162.
5. Mehta A, et al. JACC Heart Fail. 2025;13:102614.
6. Wu GW, et al. J Heart Lung Transplant. 2009;28:417-422.
7. Rodriguez ER, et al. Am J Transplant. 2005;5:2778-85.
8. Kobashigawa J, et al. J Heart Lung Transplant. 2025;44:e1-e20
9. Kobashigawa J, et al. J Heart Lung Transplant. 2018;37:537-547
10. Velleca A, et al. J Heart Lung Transplant. 2023;42:e1-e141
11. Lefaucheur C, et al. Am J Transplant. 2023;23:115-132.

