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『心臓移植後の抗体関連型拒絶反応の治療』講演1

第61回日本移植学会総会ランチョンセミナー10
開催場所:ウインクあいち
開催日付:2025年10月11日
2026年6月作成
審J2606064

座長
東京女子医科大学 心臓血管外科 布田 伸一 先生(講演当時のご所属)

演者1
東京大学医学部附属病院 循環器内科 網谷 英介 先生(講演当時のご所属)

演者2
国立循環器病研究センター 心不全・移植部門 移植医療部  渡邉 琢也 先生(講演当時のご所属)

「ヴェノグロブリンIHの警告・禁忌を含む注意事項等情報」等、また各薬剤の使用にあたっては、最新の電子化された添付文書をご参照ください。

講演1

心移植後の抗体関連型拒絶反応の治療概論―IVIgの位置づけ―

東京大学医学部附属病院 循環器内科 網谷 英介 先生(講演当時のご所属)

日本における心臓移植の成績

 国内における心臓移植の成績は欧米と比べて良好で、移植後5、10、15年の生存率はそれぞれ92.9%、88.8%、79.7%と報告されている1)。一方、日本では心臓移植に至るまでの待機期間が長く、90%以上の症例で補助人工心臓(VAD)が装着されている。VAD装着は抗HLA抗体産生のリスクと言われ、抗体関連型拒絶反応(AMR)の一因となることが示されている2)
 心臓移植後の予後に関しては、感染症、悪性腫瘍等の心臓以外の死亡が比較的多く報告されているが、拒絶反応、心不全、不整脈といった心臓関連の死因も2割程度発生している3)。これらの症例に対していかに対応し、救命していくかが課題と言える。特に、心臓移植後のAMRの頻度は多くはないものの、重要な予後規定因子であり、遭遇した際の治療法を常に念頭におくことが大切である。

心臓移植後AMRの発症機序

 AMRの機序の根幹となるのがドナー特異的抗体(donor specific antibody:DSA)である。心臓移植後、ドナー心臓がもつヒト白血球抗原(HLA)に対する抗体であるDSAが産生され、この抗体が抗原抗体反応を惹起する。血管内皮細胞にDSAが結合すると、補体が活性化され、炎症細胞の浸潤が生じて血管内皮障害が起こり、最終的に組織障害に至るというのがAMRの機序である(図1A)4)。こうした機序から、AMRの診断の一部として、補体であるC4dの沈着を確認することになっている。また、血管への炎症細胞の集積も、AMRの病理的特徴として認められる(図1B)4)

図1 抗HLA抗体を介したAMRの発現機序および病理的特徴

Valenzuela NM, Reed EF. J Clin Invest. 2017;127:2492-2504.

晩期のAMR

 移植後晩期に発症したAMRは、患者の予後に影響するといわれている。移植後1年以降にAMRを発症した症例の600日の生存曲線は、50%以下に低下することが示されている(図2)5)。その要因として、AMRが冠動脈血管障害(CAV)と密接に関連することが報告されている。こうした関連が心機能障害やグラフト不全につながるといわれているが、これらに対する継続治療については確立されたエビデンスがない。

図2 新規AMR診断後の生存率(n=15)

Hodges AM, at al. Transplantation. 2012;93:650-656.

AMRの診断

 AMRの診断は、病理学的診断、心機能障害、DSAの有無の3つで行われる6)。病理学的診断が高度の所見で、心機能低下を認め、DSA陽性の場合はほぼAMRと断定できるが、これら全てを満たさない場合もある。心機能低下のみが認められ、他の所見を認めないといった場合も、AMRを念頭に置き、心不全に対して強心薬や機械的循環補助(mechanical circulatory support: MCS)も含めて適切な対応を行い、なるべく早期に免疫抑制薬の強化を検討する必要がある6)
 病理学的診断については、国際心臓肺移植学会(ISHLT)より下記のとおり4段階のグレード分類が提案されている7)

pAMR 0:病理学的AMR陰性
pAMR 1(H+):組織病理学的AMR、pAMR 1(I+):免疫病理学的AMR
pAMR 2:病理学的AMR
pAMR 3:重度の病理学的AMR

 pAMR 0で組織学的および免疫病理学的所見を認めず、pAMR 1は組織学的所見として血管内皮の浮腫や血管内に単核球を含めた炎症細胞が集積した像を示す(図3)8)。これらに加え、前述のとおり補体反応を見るためのC4dの免疫組織化学染色や、単球マクロファージのマーカーであるCD68の陽性所見も、診断における重要な所見となる。重症例では血管の破綻による出血が生じることや心筋まで障害が及ぶことがあり、最も高グレードのものがpAMR3と分類される。

図3 心臓移植におけるAMRの代表的な組織学的および免疫学的所見

Mehta A, et al. JACC Heart Fail. 2025;13:102614.

心臓移植後AMRに対する治療法

 AMRに対する治療法に関しては、以前は2015年に米国心臓協会(AHA)のステートメント(図4)6)を参考に治療が行われていたが、最近では、2025年に米国心臓病学会(ACC)より新しいステートメント8)が発表されているので参考にされたい。

図4 臨床所見と病理学的所見の組み合わせに基づく治療戦略

Colvin MM, et al. Circulation. 2015;131:1608-1639.

 AMRが疑われる症例では心機能低下を合併している場合が多く、循環を維持するための治療がAMR治療の大原則である9)

AMRをきたした場合には心機能低下による心不全に陥ることも多く,場合によっては強心剤や昇圧剤,IABPなど機械的循環補助を必要とする場合もある.

 
日本循環器学会, 日本心不全学会, 日本小児循環器学会. 2025年改訂版 心臓移植に関するガイドライン. 

 そのうえで、活性化した免疫反応を抑制するための治療が必要となる。まず、急性の炎症反応を抑制するための高用量ステロイドを投与し、場合によって抗胸腺細胞抗体製剤を投与する場合もある。さらに、抗体を標的とした治療も有効と考えられ、その代表的なものとして血漿交換が挙げられる。ただし、血漿交換では血中の抗体を除去できるが、組織上の抗体には作用しにくい。抗体への作用が期待される治療としては高用量IVIgが挙げられる。大量の免疫グロブリンを投与することによって、免疫グロブリンのFc領域へのDSA結合を阻害したり、抗イディオタイプ抗体がDSAの作用を減弱させたり、炎症反応を抑制する効果があることが示唆されている10)。さらに、抗体を産生する免疫細胞に対するアプローチとして、本邦ではリツキシマブが使用可能である。しかし、リツキシマブは抗体を産生する形質細胞を直接抑制することはできない11)ため、効果発現までに時間を要することに注意が必要である。

AMRの治療について
■抗体関連型障害の軽減を目的として
① 高用量ステロイド
② 抗胸腺細胞・リンパ球抗体製剤[抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン]

■抗HLA抗体を減らし、あるいは再活性化を抑える
① 血漿交換
② 抗体吸着
③ 高用量IVIg

■抗HLA抗体を減らし、あるいは再活性化を抑える
① 血漿交換
② 抗体吸着
③ 高用量IVIg

■AMRの再発リスクを減らすために追加
リツキシマブ


日本移植学会 臓器移植抗体陽性診療ガイドライン策定委員会. 臓器移植抗体陽性診療ガイドライン2018/2023を参考に演者作成 

 2023年に公表されたISHLTのガイドラインにおいても、血漿交換、IVIg、リツキシマブが治療法として挙げられている12)。また、血行動態が安定しているか破綻しているかにより治療法を選択するアルゴリズムも提唱されている(図5)8)。実臨床においても、血行動態が安定している場合に、病理学的に所見が認められれば治療は行うが、血漿交換は行わないといった場合が多い。血行動態が破綻している場合には、血漿交換とIVIg、必要に応じて抗胸腺療法を行う。エクリズマブやボルテゾミブは日本では適応がないため、リツキシマブの追加を考慮することになる。
 血行動態が崩れたAMRは治療を判断しやすい一方、病理学的所見のみ認められる場合やDSAのみ陽性であるといった場合の治療は確立していない点が今後の課題である。症例ごとに治療を検討するとともに、エビデンスを積み上げ、どのような治療が患者の長期予後を改善するのかを検討していく必要がある。

図5 心臓移植におけるAMRの治療アルゴリズム

Mehta A, et al. JACC Heart Fail. 2025;13:102614.

*本図に記載されたエクリズマブ、ボルテゾミブ、ダラツムマブ、トシリズマブ、belatacept(本邦未承認薬)、カルフィルゾミブは、本邦においてにAMRに対して適応を有していません。

日本における心臓移植後のAMRに対するIVIg使用実態

※本調査には一部承認外の用法及び用量が投与された症例を含みます。本調査が承認時に評価されたデータであるため、承認外の用量が含まれる成績を掲載しました。
「ヴェノグロブリンIHの警告・禁忌を含む注意事項等情報」等、また各薬剤の使用にあたっては、最新の電子化された添付文書をご参照ください。

 2023年に実施した日本におけるIVIgの全国使用実態調査13)※では、AMRに対して免疫グロブリン製剤のみを使用した症例は僅かであり、多くは血漿交換やステロイドパルスなどと組み合わせた併用療法が行われ、数例ではリツキシマブが追加された(表)。本調査は2024年のIVIgの適応追加に際して1 g/kg体重の用量で承認される以前であっため、実際に1 gまで使用した症例は僅かであった。

表 IVIgの全国使用実態調査における治療法

本研究は一般社団法人日本血液製剤機構の資金により行われた。
網谷英介, ほか. 移植. 2023:58:389-398.

 併用治療として、以下のような結果であった一方で、IVIgに伴う重大な有害事象は認められなかった。

心臓移植後の抗体関連拒絶治療の全国使用実態調査結果

■    AMRの転帰は、11例中9例(82%)はグラフト生着を維持できた一方で、2例はグラフト機能が廃絶した。

■   心機能の細かい推移について確認すると、左室駆出率は平均56.7±11.1%から64.9±5.4%まで改善した。

■    特に心機能低下症例についての推移は最も重要であり、治療前左室駆出率(EF)が50%以下に低下したのは4例あったが、そのうち3例は回復し、EFを経過観察できた2例では、38%(治療前)から63%(治療後)の改善、および13%(治療前)から62%(治療後)の改善が確認された。

■   B-type natriuretic peptide(BNP)値については、770.5±605.3 pg/ mLから239.8±298.4 pg/mLと改善傾向を認めたが、治療後も938 pg/mLなどの高値にとどまる症例もあった。

対象および方法
一次調査:11施設にアンケート調査を行い、移植経験およびIVIg使用経験を調査した。
二次調査:一次調査においてAMRに対するIVIgの使用経験が確認された6施設のうち5施設を対象に、2001年4月から2022年3月までにIVIgの使用が確認された11例のデータを収集し、解析対象とした。
評価項目:AMRに対する治療法、AMRの転帰、IVIgの投与状況、治療後の抗HLA抗体価の推移
本研究の限界:IVIgを使用した症例に限定して症例を集計したため、全体のAMR症例とは異なる。AMRにおいて得られた臨床効果はIVIgだけでなく血漿交換などの他の薬剤の効果を含む。抗HLA抗体検出については統一した方法を用いず、それぞれの医療機関での方法で得られた結果を集計し、DSA陽性の判断もそれぞれの施設での判断にゆだねており、統一された方法で評価されているわけではない。

 DSAの抗体価を見ても、治療後に低下することが示されている(図6)。この点からも、状態が悪化するケースが多いAMRの中で、ひとつの治療法として意義があるものとあると考えられる。
 IVIgは重症感染症に対する抗菌薬との併用においても適応を有しており、AMR診断後の細菌感染に対して保護的に作用することが報告されている14)。感染症のリスクを上げることなく、AMRの治療をサポートするという点においても意義があると考えられる。

図6 IVIg 投与前後での抗HLA 抗体価の推移

網谷英介, ほか. 移植. 2023:58:389-398.
本研究は一般社団法人日本血液製剤機構の資金により行われた。

献血ヴェノグロブリンIH10%静注における「抗体関連型拒絶反応の治療」に関する電子添文
(電子添文2025年10月改訂より一部抜粋)

6.用法及び用量
通常、人免疫グロブリンGとして、1日あたり1回1,000mg(10mL)/kg体重を2回点滴静注する。ただし、患者の年齢及び状態に応じて適宜減量する。なお、必要に応じて追加投与する。
7.用法及び用量に関連する注意
7.9 本剤は投与開始から10日間以内を目安に2回の投与を完了するが、患者の年齢及び状態に応じて適宜調節すること。

まとめ

 AMRは病理学的診断、心機能低下、DSAの有無の3つで診断を行い、これらすべての所見がそろわない場合も、常にAMRを念頭に置き、心機能低下や血行動態などの患者の病態に応じて最適な治療法を検討することが大切である。



> 「講演2」国立循環器病研究センター渡邉先生の記事と質疑応答はこちら

【参考文献】

1. 日本心臓移植研究会/日本心臓移植学会. 移植. 2024:59:237-241.

2. 布田伸一. 移植 2016:51:416-422.

3. 日本心臓移植研究会. 移植. 2023;58:209-217.

4. Valenzuela NM, Reed EF. J Clin Invest. 2017;127:2492-2504.

5. Hodges AM, at al. Transplantation. 2012;93:650-656.

6. Colvin MM, et al. Circulation. 2015;131:1608-1639.

7. Berry GJ, et al. J Heart Lung Transplant. 2013:1147-62.

8. Mehta A, et al. JACC Heart Fail. 2025;13:102614.

9. 日本循環器学会, 日本心不全学会, 日本小児循環器学会. 2025年改訂版 心臓移植に関するガイドライン.

10. Dalakas MC. Neurology. 2002;59:S13-21.

11. Pescovitz MD. Am J Transplant. 2006;6:859-66.

12. Velleca A, et al. J Heart Lung Transplant. 2023;42:e1-e141.

13. 網谷英介, ほか. 移植. 2023:58:389-398.

14. Perrottet N, et al. PLoS One. 2021;16:e0250829.

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