腎移植においては、免疫抑制療法や腎移植術、移植腎の病理検査、ドナー特異的抗体(DSA)の検査、脱感作療法などが進歩したことで、移植腎予後および生命予後は向上している。一方で、難治性の拒絶反応を来す患者もおり、腎移植における拒絶反応は、移植腎機能低下や移植腎廃絶の主な原因となっている。
拒絶反応は発症機序によりT細胞関連型拒絶反応(TCMR)と、液性免疫による抗体関連型拒絶反応(AMR)に分類される。TCMRは、免疫抑制薬や免疫学的検査の発達により予後良好となったが、ヒト白血球抗原(HLA)などに対するDSAが引き起こすAMRの克服には、多くの課題が残されている。
腎移植における術前脱感作療法と抗体関連型拒絶反応(AMR)治療
東京女子医科大学 移植管理科 教授
石田 英樹 先生
【資格】 東京女子医科大学 医学博士、日本泌尿器科学会 専門医・指導医、日本透析医学会 専門医・指導医、日本臨床腎移植学会 認定医、日本移植学会 移植認定医、日本外科学会 認定医
【所属学会】 日本泌尿器科学会、日本透析医学会、日本外科学会、日本移植学会、日本組織適合性学会、日本腎臓学会、日本臨床腎移植学会、アメリカ移植学会、国際移植学会、日本免疫学会
(審J2503393)
DSA陽性腎移植における術前脱感作療法
DSAは輸血や妊娠、過去の移植などで自己とは異なるHLAに曝露することで産生される。DSAには移植前から存在しているpreformed DSAと移植後に現れるde novo DSA(dnDSA)があり、preformed DSAによるAMRに比べ、dnDSAによるAMRは治療抵抗性で移植腎予後が不良となる可能性がある1)。
AMRには急性と慢性があり、急性AMRはpreformed DSAによって引き起こされ、急激な腎機能悪化や移植腎廃絶につながる2)。慢性AMRは、DSAが持続的に産生されることによって、血管内皮細胞を長期にわたって傷害する病態である。血管への傷害は不可逆的な血管の肥厚変化を及ぼし、最終的には移植臓器の線維化をもたらし移植臓器不全となる。
preformed DSAを有する場合、術前脱感作療法を行うことでその力価が低下しAMRの発現抑制が可能となる3)。クロスマッチ(リンパ球交差試験)である補体依存性細胞傷害試験(CDC)やflow cytometry crossmatch(FCXM)で陽性を示すDSA高感作患者には、血漿交換による抗体除去や高用量IVIG投与などによる脱感作療法を、腎移植前に実施する必要がある。
一方、CDC、FCXM共に陰性かつmean fluorescence intensity(MFI)で低力価のDSAを認める患者に対する脱感作療法の要否については、コンセンサスが得られていない。このような患者に脱感作療法を行わないとAMRの発現率が高いとする報告4)と、脱感作療法をしなくてもAMRの発現率や5年生存率は、クロスマッチ陰性およびDSA陰性レシピエントと有意差がないという報告5)もあり、現在も結論は出ていない。
脱感作療法における治療薬として、2019年12月に献血ヴェノグロブリンIHに対し「抗ドナー抗体陽性腎移植における術前脱感作」の適応が承認された。2023年12月には、リツキシマブが「臓器移植時の抗体関連型拒絶反応の抑制及び治療」の適応を取得し、脱感作療法を行う環境が整いつつある。
警告・禁忌を含む注意事項等情報等については電子添文をご参照ください。
脱感作療法と高用量IVIGの作用機序
「臓器移植抗体陽性診療ガイドライン 2023」では、脱感作療法について「血漿交換、リツキシマブ、IVIGを単独または併用で脱感作療法が施行される。」と記載されている(推奨グレード 強、エビデンスレベル A)6)。血漿交換には単純血漿交換(PE)と二重膜濾過血漿交換法(DFPP)があり、一般的には血漿交換を実施後に、IVIG投与が行われる。
同ガイドラインでは、クロスマッチ陽性症例に対する脱感作療法として、図1に示すような治療法が推奨されている。
高用量IVIG投与は網内系をブロックし、補体活性を抑制し、抗体の合成を減少させる免疫調節作用のある治療法として理解されている。ほかにも想定される作用機序として、FcRn飽和による病因抗体の分解促進、抗イディオタイプ抗体による病因抗体の中和、Tregitopeを介したTreg細胞の調節によるT細胞およびB細胞の免疫応答の阻害、Fc受容体の遮断、B細胞受容体シグナル伝達の阻害などがある7)。
高用量IVIG投与では、輸液による過負荷を避けるため、数回に分けて投与することが望ましい。また、投与時に多く観察される副作用には、投与後の頭痛があり、ショック、アナフィラキシーなどにも注意が必要である。
図1 「臓器移植抗体陽性診療ガイドライン 2023」 CQ3-4
IVIG:intravenous immunoglobulin、ATG:antithymocyte globulin
注)ATG、ボルテゾミブ、エクリズマブは腎移植における術前脱感作の保険適応がありません。詳細は各製剤の最新の電子添文をご参照ください。
当院におけるDSA陽性レシピエント腎移植基本戦略
高用量IVIGは血漿交換やリツキシマブとの併用により、クロスマッチ陽性を示すDSA高感作患者に対する有用性が示されている8)。
そのため当院でも高用量IVIG投与を中心とした様々な免疫抑制療法を組み合わせた脱感作療法を実施している(図2)。このプロトコールに則った脱感作療法により、高感作のDSA陽性レシピエントに対する腎移植が可能となり、移植腎生着率は4年で85.6%となっている9)。
図2 東京女子医科大学 移植管理科の「抗ドナー抗体陽性腎移植」の基本戦略
提供:東京女子医科大学 移植管理科 教授 石田英樹先生
記載の薬剤については、承認外の内容が含まれていますので、最新の電子添文をご参照ください。
基本戦略のポイント
- 免疫抑制薬の3剤は、移植日の約1ヵ月前から外来にて投与を開始する(保険適応外)。
- 移植手術2週間前より入院治療とし、透析と血漿交換を交互に施行する。
- 手術の1週間前よりIVIG 2〜4g/kg(総投与量)を投与する。
- リツキシマブは計500mgを2回に分けて投与する。
- 移植前日には透析、血漿交換、IVIG投与をすべて行う。
献血ヴェノグロブリン10%静注における「抗ドナー抗体陽性腎移植における術前脱感作」に関する電子添文(2025年10月時点)の記載事項 一部抜粋
- 4. 効能又は効果
- 〇抗ドナー抗体陽性腎移植における術前脱感作
- 6. 用法及び用量
- 通常、人免疫グロブリンGとして、1日あたり1,000mg(10mL)/kg体重を点滴静注する。ただし、患者の年齢及び状態に応じて適宜減量する。なお、総投与量は4,000mg(40mL)/kg体重を超えないこと。
- 7. 用法及び用量に関連する注意
- 7. 8 本剤は投与開始から7日間以内を目安に投与を完了するが、患者の年齢及び状態に応じて適宜調節すること。
- 8. 重要な基本的注意
- 8. 15 大量投与に伴う水分負荷を考慮し、適切な水分管理を行うこと。
移植前のDSAの発現状況と移植後の予後について
脱感作療法が移植後の予後に与える影響を検討することを目的に、当院にて高用量IVIG、PE、リツキシマブによる脱感作療法を施行した腎移植実施症例を対象に、DSAの発現状況と移植後の予後について解析した9)。DSAの発現状況はLuminex single antigen beads assayとクロスマッチ(CDC・FCXM)で確認し、患者をそれぞれDSA-/CDC・FCXM-、DSA+/CDC・FCXM-、DSA+/CDC・FCXM+の3群に分けた。
移植後90日の移植腎生検における急性AMRの発現率は、それぞれ1.3%、19.4%、60.0%で有意差があった(p<0.001、log-rank test)。CDC・FCXM陽性症例は脱感作療法を施行してもAMRの発現率が高いことが認められたものの、4年時における移植腎生着率は、それぞれ96.9%、97.2%、86.7%で有意差はなかった(図3)。
なお、感染症などの有害事象については、高用量IVIGを含む脱感作療法を行った群と行わなかった群で、有意な差は見られなかった。
本研究では免疫リスクの高い症例を対象としたが、腎移植後1年以内のAMRの発現率は、2000〜2008年の10.8%から、2014~2021年には6.1%に低下しており10)、2012年より実施しているわれわれの脱感作プロトコールの有効性が示されている。
図3 Kaplan-Meier推定法による移植腎生着率(死亡は除外)
※本研究の限界・後ろ向き観察研究かつ単施設の研究である
・症例数が限られている
・クロスマッチの定義は施設によって異なることから、結果の解釈には注意が必要である
海外の報告では、脱感作療法後に腎移植を受けた90症例を対象に、移植前後のDSAの有無に基づきDSA-/-、DSA-/+、DSA+/-、DSA+/+の4群に分け、AMRの発現率が検討されている。その結果、dnDSAを発現したDSA-/+の症例におけるAMRの発現率は70%で、DSA+/+(45%)、DSA+/-(11%)、DSA-/-(10%)よりも有意に高かった(p<0.001、Kruskal-Wallis test)(図4)11)。移植後にDSAが持続する症例やdnDSAが発現する症例は、AMR発現のリスクが高いといえる。
図4 移植前後におけるDSA発現状況とAMRの非発生生存曲線(図A)、
およびAMRの関連性を示すフォレストプロット(図B)
dnDSAが移植腎予後に与える影響
一般的にHLA class I(HLA-A、HLA-B、HLA-C)抗体は女性、妊娠、輸血との関係が深く、HLA class II(HLA-DR、HLA-DP、HLA-DQ)抗体は、移植腎機能の悪化と関係が深いとされ、HLA class I、II抗体のいずれの抗体も陽性の場合は、腎機能廃絶に陥ることが多いとされる12,13)。
当院にて2000〜2015年に生体腎移植を施行し、解析可能であった145症例を対象に、dnDSA保有症例における移植腎生着率について検討した14)。dnDSA保有の47症例をHLA-DQ抗体を保有しているDQ dnDSA群(n=40)と保有していないnon-DQ dnDSA 群(n=7)の2群に分けて比較したところ、移植腎生着率の比較では、non-DQ dnDSA群に比べDQ dnDSA群の移植腎生着率が悪く、有意差が認められた(p=0.015、log-rank test)(図5)。
図5 移植腎生着率
慢性AMRの危険因子
慢性AMRの危険因子について、2014~2021年に当院で実施した894件の腎移植手術のデータを用いて検討したところ、危険因子はドナー年齢が59歳超の高齢であること、およびAMR診断時の微小血管炎症(MVI)スコアが4以上の重度の患者であった10)。また、移植糸球体症(糸球体のリモデリングと微小血管障害の結果)を特徴とする慢性AMRについても、現在の治療法では治癒の可能性は低いと考えられる10)。
そのため慢性AMRは予防することが重要となり、危険因子を持つ患者では、さらなる治療オプションを考慮する必要がある。
AMRの治療について
AMRの治療については、「臓器移植抗体陽性診療ガイドライン 2023」にて「ステロイドパルス療法単独やPE、高用量IVIG、ATGやリツキシマブ静注などを併用した治療が有効である。」と記載されている(推奨グレード 強、エビデンスレベル B)(図6)15)。ただし、確立した治療レジメンはなく、AMRに対するステロイドパルス療法は治療抵抗性を示すことが多い15)。
図6 「臓器移植抗体陽性診療ガイドライン 2023」 CQ4-7
注)ATG、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、エクリズマブ、アレムツズマブ、トシリズマブ、ベリムマブ、C1インヒビター製剤は、抗体関連型拒絶反応の治療に対する保険適応がありません。詳細は各製剤の最新の電子添文をご参照ください。
AMRに対するIVIG単独投与の効果を示すエビデンスは少ない。治療前の脱感作療法において、高用量IVIG単独投与よりも血漿交換やリツキシマブとの併用療法の方が有効性は高いことが報告16-18)されており、AMRの治療に関しても同様と考えられる。
AMRの新たな治療選択肢として、献血ヴェノグロブリンIH10%静注に対し2024年9月に「腎移植、肝移植、心移植、肺移植、膵移植、小腸移植における抗体関連型拒絶反応の治療」の適応が追加承認されたことから、今後はAMRの治療に対する臨床成績が蓄積されることが期待される。
AMRの治療評価の指標として、生検の実施とDSAのモニタリングがあるが、これらの指標だけでなく、臨床症状や血液検査結果などもあわせて総合的に評価すべきと考えられる。また、AMRの治療評価時期に関する一定の見解もないため、生検、臓器機能、DSAモニタリングなどを定期的に行い評価することが望ましいと思われる。
治療介入すべきAMRとIVIGの投与法
臨床の場では、治療介入すべき治療対象について苦慮する場面が多くある。通常のモニタリングでDSA陽性を検出するものの、移植腎機能が不変の場合の治療介入の是非である。このような課題に対して、2024年に注目すべき論文が発表された19)。この論文では、DSA陽性で臨床的に変化のない123例に移植腎生検を施行している。腎生検で慢性活動性AMRを示した患者19例中10例が、その後の治療にもかかわらず5年以内に移植腎廃絶となった(図7)。この論文では、全症例を対象に移植腎廃絶の病理学的な危険因子を同時に解析し、MVIを糸球体(g)や傍尿細管毛細血管(ptc)に多く認めた移植腎では移植腎廃絶率が高かった、としている(表1)。現在、われわれの施設では移植時、3ヵ月時、1年時に腎生検のモニタリングをしており、1年時にはDSAの変化も比較検討している。このように連続的に移植腎を観察することで、明らかな活動性、すなわちMVIの悪化を認めた患者に対し積極的な治療を高用量IVIGで行っている。多くの治療成績を重ねることで、さらに同治療の適応となる患者の病態が明らかになると考えられる。
図7 移植腎生存率(死亡後打ち切り)
Group 1 (活動性AMR) 、Group 2 (慢性活動性AMR) 、Group 3a (臨床AMR*) 、Group 3b (AMRなし) *タンパク尿の増加または血清クレアチニン値の上昇を認める。移植腎生検により15例のうち4例は活動性AMR、11例は慢性活動性AMRであった
表1 長期の移植生存(死亡後打ち切り)に関連する因子(単変量および多変量Cox分析)
iDSA: immunodominant donor-specific antibody、MFI: mean fluorescence intensity、sDSA: sum of the donor-specific antibody、g:糸球体炎、ptc:傍尿細管毛細血管炎、i:間質細胞浸潤、t:尿細管炎、ci:間質線維化、ct:尿細管萎縮、cv:新生動脈内膜肥厚、cg:移植糸球体症
今後の展望
腎移植成績のさらなる向上のためには、AMRの制御およびその治療が重要となる。
高用量IVIGを用いた脱感作プロトコールは、DSA高感作症例にとって移植を成功に導く治療法の一つと考えられる。今後は、DSA高感作症例において移植後10年の長期的な成績についても解析が進むことが望まれる。
慢性AMRについては、上記のように病態の主体はMVIと考えられる。いまだ世界的にも有効な治療法は報告されていない。しかしながら、移植腎の最終像がAMRであることは多く報告20)されており、この解決こそが長期移植腎生着の福音になることは間違いない。今後さらなる高用量IVIGによる積極的な治療介入が必要とされる。
- 日本移植学会 臓器移植抗体陽性診療ガイドライン策定委員会(編). 臓器移植抗体陽性診療ガイドライン 2023. 東京, ぱーそん書房, 2023, p94-95.
- 堀田記世彦ほか. 臨泌 2024;78(11):826-832.
- 日本移植学会 臓器移植抗体陽性診療ガイドライン策定委員会(編). 臓器移植抗体陽性診療ガイドライン 2023. 東京, ぱーそん書房, 2023, p18-19.
- Patel AM, et al. Am J Transplant 2007;7:2371-2377.
- Adebiyi OO, et al. Am J Transplant 2016;16:3458-3467.
- 日本移植学会 臓器移植抗体陽性診療ガイドライン策定委員会(編). 臓器移植抗体陽性診療ガイドライン 2023. 東京, ぱーそん書房, 2023, p46.
- Hou YB, et al. Clin Immunol 2023;256:109782.
- 小林博人, 石田英樹. 日本輸血細胞治療学会誌 2020;66:687-694.
- Okada D, et al. Transpl Int 2018;31:1008-1017.
- Banno T, et al. Transpl Int 2024;37:11960.
- Vo AA, et al. Transplantation 2019;103:2666-2674.
- Mahanty HD, et al. Transplantation 2001;72:228-232.
- Campos EF, et al. Am J Transplant 2006;6:2316-2320.
- 古澤美由紀ほか. 移植 2017;52:51-59.
- 日本移植学会 臓器移植抗体陽性診療ガイドライン策定委員会(編). 臓器移植抗体陽性診療ガイドライン 2023. 東京, ぱーそん書房, 2023, p146-173.
- Vo AA, et al. N Engl J Med 2008;359:242-251.
- Vo AA, et al. Transplantation 2014;98:312-319.
- Stegall MD, et al. Am J Transplant 2006;6:346-351.
- Bertrand D, et al. Transplantation 2024;108:e204-e206.
- Sellarés J, et al. Am J Transplant 2011;11:489-499.

