橋口裕樹先生を演者にお招きし、臓器移植におけるAMR(抗体関連型拒絶反応)をより深く理解する上で重要となる検査について解説いただいた。 ※各薬剤の使用については、電子添文をご参照ください。
抗ドナー抗体陽性腎移植における術前脱感作 Web講演会 記録集
臓器移植における抗体関連型拒絶反応をより深く理解するために
福岡赤十字病院 移植センター 移植細胞研究課長
橋口 裕樹 先生
【所属学会・研究会】 日本組織適合性学会(理事、認定制度委員会委員長)、日本移植学会(代議員、移植関連検査委員会委員、ガイドライン策定委員)、日本臓器移植ネットワーク (移植検査委員会委員)、九州腎移植研究会(幹事)、日本臨床腎移植学会、日本肺および心肺移植研究会、日本輸血・細胞治療学会、日本超音波検査学会、日本医学検査学会
(審J2410167)
はじめに
当移植センターは、昭和56年10月の福岡赤十字病院地方腎移植センター開設時に前身である組織適合検査室が整備されたのが始まりである。平成13年より(公)日本臓器移植ネットワークの移植検査センターとして臓器提供の検査に携わり、平成30年の組織改編で移植センターに名称を変更し現在に至る。当移植センターでは、西日本地区で脳死・心停止ドナー(臓器提供者)の多岐にわたる検査を技師2名で24時間365日対応の検査体制を構築している。また全国の大学病院をはじめとして多くの移植関連病院と提携し、移植前後の組織適合性検査を実施している。なお、2022年度の外部からの検査の実績は、HLAタイピング1,060件、抗HLA抗体検査1,440件、クロスマッチ1,157件であった。
HLA(Human Leukocyte Antigen:ヒト白血球抗原)
HLAの大きな役割は、「自己」と「非自己」の識別に関与することであり、白血球に限らずほぼすべての有核細胞表面に分布する。HLAは特に移植医療において大きく関与し、輸血では血液製剤中に含まれる抗HLA抗体が患者のHLAと反応し、TRALI(輸血関連急性肺障害)を発症する場合がある1)。また、頻回の血小板輸血では血小板表面に発現しているHLAに感作され、抗HLA抗体が産生されると輸血不応の原因となり2)、造血幹細胞移植ではドナーとのHLA適合が重要となる。本日のテーマである臓器移植においては、抗HLA抗体がAMR(抗体関連型拒絶)に大きく関与する。
抗HLA抗体産生の原因
抗HLA抗体産生の原因は臓器移植、輸血及び妊娠であり、他者のHLAに感作されることにより抗体が産生される。患者の感作歴を確認することは、抗体産生の原因を知る上で重要な情報となる。
[輸血]
輸血において抗体産生のリスクが最も高いのは血小板製剤である。血小板には表面にHLA Class I(-A、-B、-C)を発現しているために、感作源としては強い3)。また、RBC(赤血球製剤)中の白血球の混入は以前の血液製剤と比較すると少なくなっているがゼロではないので、抗体産生の原因となるので注意が必要である4)。FFP(新鮮凍結血漿)についても限局的であるが献血者由来の抗体が入る可能性は否定出来ない5)。
[妊娠]
妊娠では、夫のHLAに対して妻が感作されることによって抗体産生する可能性がある。したがって、夫婦間移植において夫がドナーになる場合、夫に対するDSA(Donor Specific Antibody : ドナー特異的抗体)を妻が保有しているとハイリスク症例となる。また親子間移植の場合、子は父親のHLAの半分を遺伝するため、子から母への移植ではリスクのある組み合わせになる場合がある。
臓器移植における抗HLA抗体検査の意義
臓器移植後のAMRは移植臓器の機能不全や廃絶の主たる原因である6)。AMRの発症に抗HLA抗体は関与することから、移植前にはpreformed
DSAの有無を検査し、DSAかnon-DSAかを把握する必要がある。術前に抗体検査を実施することで、検査結果に応じて脱感作療法を施行し可能となる移植もある。
移植後に抗体検査を行う目的は大きく2つある。第一に、preformed DSAの推移の確認、第二に移植後の新たなDSA(de novo
DSA)産生の有無の確認である。これら2つが移植後の抗体検査の主な目的と考える。抗体検査は採血で手軽に検査可能であり、早期にDSAの状況を把握することはAMRの診断、治療にもつながるので、定期的な検査に加え、イベント時に速やかに実施することも重要である。
組織適合性検査
臓器移植と組織適合性検査
臓器移植ではDSAの有無や特異性を確認することを目的として組織適合性検査が実施される。臓器移植に関わる組織適合性検査は「抗HLA抗体検査」、「HLAタイピング」、「クロスマッチ」の3つがあり、これらの検査でDSAを正確に判断する。抗HLA抗体検査では抗HLA抗体の有無や特異性を確認する。HLAタイピングではドナーとレシピエントのそれぞれのHLAのタイプ(型)を検査する。HLAが不一致でも移植は可能であるが、HLAが一致するということは、移植において感作される抗原が少なくなる、すなわちDSAを産生するリスクが少なくなることを意味し、移植において好条件といえる。クロスマッチでは、in vitroで事前に抗体の存在を確認することができる場合がある。それぞれの検査について詳細に解説する。
抗HLA抗体検査
抗HLA抗体検査とは
抗HLA抗体検査には、Class IとClass IIの抗HLA抗体の有無を検出する「抗体スクリーニング検査」とドナーのHLA特異的な抗体を同定する「抗体特異性同定検査」がある。現在、多くの施設でLuminexを用いた抗体検査が行われている(図1)。Luminexの検査の原理は、精製HLA抗原を付けたマイクロビーズと患者血清を反応させ、精製抗原ビーズと抗HLA抗体の反応をMFI(蛍光強度)という形で数値化している。スクリーニング検査の、LABScreen Mixedは抗体の有無を調べる試薬であり、LABScreen PRAは抗体の有無とおおよその特異性を推測できる試薬である。抗体特異性同定検査では、1つのマイクロビーズに1種類の精製HLA抗原を付けることで、抗体の特異性を検出できるようになっており、商品名であるがSingle Antigenが通称となっている。
抗体スクリーニングの結果の解釈
Class I陽性とはHLAのA、B、Cローカスの抗体が陽性、Class II 陽性とはDR、DQ、DPが陽性であることを意味する(図2)。%PRAは試薬内に含まれる数十種類の抗原ビーズの内、陽性になった抗原ビーズの割合を%で示した値である。抗原ビーズの種類、数が均一でないために、この%PRAは大雑把な表現として捉えていただきたい。また%PRAが高い=DSAが存在するという意味ではなく、多くの抗原と反応していると解釈いただきたい。
特異性同定検査の解釈
特異性同定検査では、HLAのアレル(もしくはHLA型)に対するMFI(蛍光強度)の結果を報告する(表1)。MFIは数字で報告するが、10,000を超えたあたりからプラトーとなる場合があり、必ずしも抗体量を反映していない。また使用する特異性同定検査の試薬によってもMFIが異なることにも注意が必要である。以上のことからMFIは定量性が乏しく、おおよその目安として捉えていただければと考える。
特異性同定検査の結果に影響を及ぼす因子
感作歴がない患者であっても特異性同定検査を実施すると抗体を検出する場合がある。これは自然抗体の影響が考えられる。自然抗体は食物やワクチン、ウイルス等による感作によって産生されると考えられており、その他に試薬自体の非特異的反応も少なからず認める。したがって感作歴がない患者で抗体を検出した場合は、感作歴の再確認、クロスマッチ結果との整合性を見て、結果を解釈する必要がある。
移植で使用される薬剤の中には組織適合性検査の結果に影響を及ぼすものがある。B細胞をターゲットとするリツキシマブの投与後にはB細胞を使用したCDC(Complement Dependent
Cytotoxicity:補体依存性細胞傷害試験)-BやFCXM(Flow Cytometry Cross
Match:フローサイトメトリークロスマッチ)-Bが偽陽性になる場合があり7)8)、T細胞をターゲットとするサイモグロブリンの投与後にはCDC-TやFCXM-Tが偽陽性になることがある9)。また静注用人免疫グロブリン製剤(IVIG)投与直後から概ね1カ月は抗体検査で偽陽性となることにも留意いただきたい6)。
HLAタイピング
DSAを予測する上で、ドナーとレシピエントのHLAタイピングは極めて重要な情報となる。患者に抗HLA抗体が存在するとき、その抗体の種類がドナーのHLAに含まれるかでDSAか否かの推測を行う6)。従ってドナーのHLAタイピングは必須で検査を行う必要がある。
HLA遺伝子は第6染色体短腕上に位置しており、コードされるタンパク構造、機能、遺伝子の位置領域の相違から大きくClass I、Class II、Class
IIIに分けられている(図3)。
臓器移植においては従前よりHLA-A、-B、-DRの遺伝子座(ローカス)を調べていたが、近年においては、これらに加えて-C、-DQ、-DPまでを調べることがある。これは抗体検査の技術の進歩で多くのローカスの抗体を検出できるようになり、それに伴い、抗原であるHLAも調べるようになった経緯がある。
HLAハプロタイプ
HLAハプロタイプとはこのHLA遺伝子座6つ(A、B、C、DR、DQ、DP)で構成され、父母からそれぞれ受け継いだ遺伝子の1対(セット)のことを呼ぶ(図4)。HLAの数字で表記されるが、数字の大小に特段の意味はなく、多くは登録された順に数字を羅列して表記されている。
両親から1本ずつのハプロタイプを遺伝するため、父親と母親のハプロタイプが分かれば、おのずと子のハプロタイプを推測できる(図5)。
家族内でのハプロタイプが一致する確率について説明する。親子間では必ず1つはハプロが一致する。両親が同じハプロタイプを有している場合、稀に親子間でも完全に一致することがある。同胞間で、HLAが完全に一致または不一致の確率は1/4、半分だけ一致する確率は1/2となる。なお、一卵性双生児間であればHLAは完全に一致する。他人の場合では、完全一致する確率は数百分の1から数万分の1と言われている。
[HLAハプロタイプの特徴]
HLAハプロタイプの特徴として、人種・地域によって発生頻度が異なるという点がある。日本は島国であるため、大陸つながりの海外と比較すると、ある意味人種の交流が少ない環境であり、HLAの種類は少ない傾向にあった。ただ近年では国際結婚も一定数あり、今まで日本では見かけなかったハプロタイプを身近に遭遇することも増えてきている。HLAローカス、ハプロタイプの組み合わせによって数万通りに及ぶことから、ABO血液型に比べると、HLAは比較できない程の多型性があることが大きな特徴の一つである。
HLAローカス・区域はどこまで調べるべきか
抗体がDSAであるか否かを確認するためには、ドナーの抗原(HLA)を調べる必要があり、特に生体間移植では、HLA-A、-B、-C、-DR、-DQまでは検査することが望ましいと考える。区域については第2区域(アレル型)までは臨床的に重要とされている(図6)。これは第2区域まではエクソン内のアミノ酸配列が異なり非同義置換であることが理由である。アレル型まで調べることで抗体検査はより詳細に解析が可能となり、アレルレベルでのDSAを確認する意味でも第2区域まで検査する必要があると考える。
HLAタイピングの意義
クロスマッチ陰性であれば移植可能であることや、免疫抑制剤の進歩により、必ずしもドナーとレシピエントのHLAについて重要視されない時期があり、HLAタイピングを実施されていないこともあった。しかしながら、臓器移植後にAMRを発症してレシピエントに抗体が検出されたとしても、ドナーのHLAが不明であれば、DSAと判断することはできない。近年、ドナーは高齢の方が多くなっており、ご存命でない場合には追加でドナーのHLAタイピングができないこともある。DSAの診断をするためにも術前にドナーとレシピエント双方のHLAタイピングは必須で実施すべきだと考える。
クロスマッチ(リンパ球交差試験)
クロスマッチはドナーリンパ球(HLA抗原)とレシピエント血清(抗HLA抗体)を反応させDSAの有無を調べる検査である。クロスマッチにはCDC法とFCXM法の2つの方法がある。CDC法はリンパ球細胞傷害試験であり、目視で判定する検査であり検査者の主観が判定に影響し、IgMの影響も受け、低感度な検査法である。一方、フローサイトメーターを使ったFCXM法は高感度な検査法であり現在は、FCXM法が多く使用される。いずれの方法もDSA検出を目的としているが、CDCは移植の可否を判断する際の指標、FCXMは脱感作療法検討の指標となる場合が多い。
FCXMで用いる細胞
クロスマッチではTリンパ球とBリンパ球、2種類の細胞を用いる(図7)。Tリンパ球の表面にはHLAのClass I(A、B、C)が発現している。一方のBリンパ球の表面にはA、B、Cに加えてClass II(DR、DQ、DP)も発現している。より多くの抗体を検出できることからBリンパ球のFCXMは重要である。Tリンパ球とBリンパ球ではHLAの発現している種類を考えるとTリンパ球陽性の場合、Bリンパ球は必ず陽性になる。
CDCとFCXMの結果の乖離
表2は当院で実施した脳死・心停止移植検査50症例、2,491件のCDC、FCXMの結果であり、陽性率の差をみたものである。心臓、肺、肝臓、膵臓移植のいずれにおいてCDC陰性/FCXM陽性は約10%あり、腎移植では19%であった。CDCとFCXMでの陽性率には約10〜20%の差があることに留意する必要がある。
抗体検査とFCXMの検出感度
クロスマッチはどの程度からDSAを検出することが出来るかであるが、当院での検査においては、Single AntigenのnMFIが、1,500~3,000程度でFCXM法は陽性になる。CDC法は10,000を超えると陽性になることが多い。このようにクロスマッチの方法により感度差があることに留意しておく必要がある(図8)。
症例提示
より生体移植検査への理解を深めるために症例を提示する。
※以下の症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
※警告・禁忌等の注意事項情報等は、DI頁をご参照ください。
症例1:非特異反応の典型例の一例
男性、53歳、移植待機患者、感作歴なし。
感作歴が無いにも関わらず、ほとんどの抗原(ビーズ)に対し反応が見られた症例である。図9に示した横軸ひとつひとつが抗体の特異性を表している。このように全ての抗原に対して抗体を産生しているとは考え難く、患者自身のHLAタイプにも反応を示していることから、非特異的反応の可能性が示唆された。
またMFIが比較的均一な数値であることも非特異反応と判断する一つの指標となる。この症例のように、感作歴がないのに抗HLA抗体(DSA)を検出することもあり、その場合は感作歴を今一度確認すること、クロスマッチ、HLAタイピングの結果も踏まえ総合的に判断する必要があると考える。
症例2: Preformed DSA陽性患者へのIVIGによる脱感作例
女性、62歳、preformed DSA陽性、夫から妻への生体腎移植症例。
妊娠歴、輸血歴があり、夫に対してDRB1*15:02に対するpreformed DSAを認めたため、IVIGによる脱感作を実施(図10)。IVIG
1g/kg/日を4日間投与した後の抗体特異性同定検査では、すべての特異性(抗原ビーズ)に対して反応が検出された(図10、中段)。この反応は約1カ月半後には消失していた(図10、下段)。このように脱感作療法で投与したIVIGを抗体検査で検出してしまうことがある。IVIG投与は抗体検査に影響を与える、ということも重要なポイントである。
症例3: Preformed DSA陽性患者へのIVIGとリツキシマブ併用による脱感作例
女性、64歳、preformed DSA陽性、夫から妻への生体腎移植症例。妊娠歴あり。
preformed
DSA陽性、CDC陰性、FCXM陽性。検査結果を受けてIVIG、リツキシマブ、血漿交換による脱感作療法を実施(図11)。B細胞をターゲットとするリツキシマブを投与することにより、B細胞クロスマッチは陽転化する。この症例ではFCXM-Tが投与後に陰性化していることから、脱感作の効果としては確認できたが、B細胞で評価(DR、DQのDSAの場合)するDSAでは評価が困難となる。この症例も抗体特異性同定検査では、IVIGの影響を受けすべての抗原ビーズに対し反応が見られた。
IVIG投与後の評価方法
臓器移植抗体陽性診療ガイドライン2023では「IVIG投与での脱感作による術前の評価方法として今のところ有益なものはない」と記載があり、現時点では抗体の推移を評価することが難しい。過去の論文になるが補体の第一成分の一つであるC1qをターゲットにしたSingle Antigen(C1q Screem)はIVIGの影響を受けないことが報告されている。補体非結合性の抗HLA抗体は検出することはできないが、IVIG投与後の評価においてC1qがある程度有用である可能性がある10)。今後、C1qに関するデータ収集を検討したいと考えている。
ポイント
- 抗HLA抗体検査について、MFIに定量性はない。非特異反応もあり、多く薬剤の影響を受けるので、MFIは目安程度と考える。
- クロスマッチを実施し、抗体検査の結果と齟齬がないか確認する。
- HLAタイピングは抗体産生の感作源を知るために必須であり、全てのローカスの検査をお勧めする。
DSAをより正確に判断するために重要となる組織適合性検査を中心に解説した。
それぞれの検査結果を個別に見るのではなくて、検査部門と医師とのコンサルテーションの中で、総合的に判断することが重要である。
- 丸田豊明,ほか.日集中医誌.2010;17(4):535-536.
- 照射濃厚血小板-LR「日赤」添付文書
- 藤原孝記,ほか.日本輸血細胞治療学会誌.2021;67(6):573- 588.
- 照射赤血球液-LR「日赤」安定性試験成績 P2(2024年10月1日 閲覧)
- 西田祥子,ほか.津山中病医誌.2013;27(1):157-160.
- 一般社団法人 日本移植学会、臓器移植抗体陽性診療ガイドライ ン策定委員会編.臓器移植抗体陽性診療ガイドライン2023. ぱーそん書房、2023.
- 小林孝彰.日腎会誌.2013;55(2):102-111.
- 小林悠梨,ほか.医学検査.2023;72(4):492-498.
- Konvalinka A, et al. J Am Soc Nephrol. 2015;26(7):1489- 1502.
- Basta M, et al. Blood. 1991;78(3):700-702.

