敗血症・低γグロブリン血症Web講演会レポート (開催日:2022年9月9日) 敗血症の診断・病態・治療UP TO DATE
J-SSCG2020からの課題 -低γグロブリン血症に対するIVIG療法-札幌医科大学医学部 集中治療医学 教授
升田 好樹 先生
※Web講演会開催時のご所属
2023年1月掲載2025年3月更新
(審J2503373)
はじめに、札幌医科大学医学部集中治療部(ICU)についてお聞かせください。
升田先生: 当科は、主に院内発症の臓器障害を伴う重症例、高侵襲手術後や併存症のある術後、機械補助など特殊な治療を必要とする患者さんを対象とし、全身状態の回復を目指して治療する診療科です。各診療科と密に連携して、専従の集中治療専門医を中心とし、看護師・臨床工学技士・病棟薬剤師などの多職種が連携します。最先端の医療技術も積極的に取り入れ、closed ICUの形態の下に24時間体制で診療にあたっています。また、一般病棟での重症化リスクのある患者を早期に覚知し介入する迅速対応システム(rapid response system :RRS)の中心的な役割を当診療科が担い、早期対応による重症化の回避、救命率の向上を実現しています。さらに、ICU退室後も多職種での移行ケアプログラム(transitional care program: TCP)をICU退室後回診の形で行っており、重症患者のICU退室後の不必要なICU再入室を軽減するという効果を得ています。
敗血症の現状
敗血症による死亡率について教えてください。
升田先生:
2010年のデータでは敗血症による死亡者数は世界で年間280万人であり1)、数秒に1人が敗血症で亡くなると言われる死亡率の高い疾患です。ICUに入室する患者さんの約20%が敗血症で2)、全入院死亡に対する割合は約40%との報告もあります3)。先進国では、高齢化に伴って敗血症患者さんが増加しており、敗血症の予防、診断、治療の推進は世界的な課題となっています。当科には年間約250人が入室し、そのうち約40人が敗血症です。当院で亡くなる患者さん中には、敗血症でも終末期のため集中治療に至らない患者さんも含まれており、敗血症による死亡率は高いと感じています。
2017年のWHO総会では、敗血症診療に対し、医療従事者のみならず、政府・市民そして製薬会社も含めた社会全体の取り組みが必要であることが緊急提言されています。
敗血症診断の変遷について教えてください。
升田先生: 1992年に作成されたSepsis-14)では、敗血症・重症敗血症・敗血症ショックが定義され、初めて診断基準が統一された点が画期的でした。2004年には、敗血症や敗血症性ショックの治療標準化をめざし、Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)が作成されました5)。その後、SSCGは新しい知見に基づいて4年ごとに改訂が行われています。一方、本邦でも2012年に日本集中治療医学会による日本版敗血症診療ガイドラインが作成され、4年毎に改訂されています。本ガイドラインは2016年からは日本集中治療医学会と日本救急医学会合同で作成され、現在両学会の合同委員会で2024年版に向け作成が進められているところです。敗血症の診断基準は2001年にSepsis-2へと改訂されたものの、ほぼSepsis-1が25年にわたり使用されましたが、2016年に大きく改訂されSepsis-36)となりました。Sepsis-3では感染症に伴う臓器障害と再定義され、臓器障害はSOFAスコア2点以上の上昇で評価し、より現状に即したものになりました。
敗血症はどのように定義されていますか。
升田先生:
Sepsis-36)では、敗血症とは何らかの感染症あるいは感染が疑われる状況であり、それに起因したと考えられる重篤な臓器障害が引き起こされている状態と定義されています。ただし、単に臓器障害を伴った感染症ではなく、感染症に対して制御不能な宿主反応が起こったことによる臓器障害であるという点が重要です。病原微生物が体内に入ると、それを排除するために自然免疫が働きます。しかし、免疫応答反応が過剰に活性化すると、生体反応が制御不能となり種々のメディエーターが産生され臓器障害が引き起こされます。したがって、敗血症の治療には、病原菌や微生物感染だけではなく、生体反応の暴走も制御することが重要です。
Sepsis-3では、SOFAスコアが敗血症のスクリーニングツールとして推奨されています。敗血症は一般病棟あるいは救急外来患者に存在します。したがって、これらの患者全てに対し、血液検査や動脈血のガス分析を毎日行い、SOFAスコアを評価することは非現実的です。そのため、一般病棟や救急外来で敗血症を簡便にスクリーニングするツールとして、qSOFAの使用が提唱されました。感染を疑い、収縮期血圧、呼吸数、意識の変化の3項目中2項目が該当した場合、敗血症を疑って血液検査や動脈血のガス分析を行うきっかけとなります。進行する臓器障害と死亡率の上昇を防ぐために、早期に敗血症を疑い、SOFAスコアの2点以上の上昇がみられなくても、ICUに入室せずにハイケアユニットなどのステップダウンユニットで、患者さんを厳重にモニタリングすることが重要です。
敗血症性ショックの定義が明確になったこともSepsis-3の特徴です。敗血症と診断されて輸液負荷や初期蘇生を行っても、平均動脈圧 65
mmHg以上(収縮期血圧90mmHg、拡張期血圧50mmHg以下を一つの目標とする)を維持するために循環作動薬が必要、かつ血中乳酸値が2mM(18mg/dL)を超えた場合は、敗血症性ショックと診断します。
敗血症とはどのような病態ですか。
升田先生:
敗血症の病態の説明に、Pathogen Associated Molecular Patterns(PAMPs)とDamage Associated Molecular
Patterns(DAMPs)という言葉が使われるようになりました。
PAMPsは、元来ヒトの身体に存在しない病原微生物由来の物質で、病原微生物が生体に侵入後に自然免疫細胞のtoll-like receptor (TLR)などのpattern
recognition receptor
(PRR)と結合してさまざまなシグナルが伝わる際のリガンドに相当する物質です。代表的なものとしてグラム陰性桿菌の産生するEndotoxinやグラム陽性球菌の産生する外毒素であるLipoteichoic
acid、Peptidoglycanがあります。一方、DAMPsとはPAPMsがPRRに結合し、産生放出される物質であり、核内に存在するHistone、Heat shock
protein、HMGB-1やサイトカインなどがあります。これらのDAMPsは細胞内でそれぞれ固有の機能を有していますが、一旦細胞外に出ると様相は一変し、非常に強力な炎症を惹起する物質へと大変身します。このようにDAMPsは本来の機能とは全く別の顔を持つ2面性を有する生体由来の物質の総称で、敗血症の病態進展のkeyとなる物質の一つと考えられています。
好中球は、炎症部位への遊走と活性酸素や蛋白分解酵素による殺菌という病原微生物処理だけではなく、自分の核内のDNAを網状に放出して病原微生物を捕らえ、殺菌するneutrophil
extracellular
traps(NETs)という機序も有することが明らかになっています。その際、核内蛋白であるHistonなどのDAMPsがNETsの網目から漏出し、血管内へ流入や血管内皮細胞に作用して強い炎症を惹起することで、臓器障害が起きると考えられています7)。
DAMPsを放出するもう一つの機序として細胞死があります。通常、自然免疫細胞はアポトーシスのようなプログラムされた細胞死により"綺麗な死に方"へ誘導されます。しかし感染した細胞では
細胞死の遅延やネクローシス、パイロトーシス、ネットーシスといった細胞内の物質をばらまく“汚い細胞死”が誘導されます。このような状況では、細胞死に伴って大量のDAMPsが放出されます。放出されたDAMPsは血中に入り、体内を巡って臓器障害を起こし、敗血症が進行することが考えられます7)。
敗血症とHistonにはどのような関連があるのでしょうか。
升田先生: 敗血症では、臓器障害が3つ以上の臓器に及ぶと、血中Histone濃度の上昇が示されています。また敗血症による臓器障害の有無別にHiston濃度を検討すると、凝固異常のある患者さんでのみ有意に血中Histone濃度が高いことが示されました。また急性期DIC診断基準でDICと診断された4点以上の患者では、スコアが高いほど血中Histone濃度が高いことが示されました(図1)8)。敗血症では、DAMPsによっても凝固異常が惹起され、臓器障害が起こるという機序が考えられ、このサイクルを抑制することが、今後、敗血症の治療の新たなターゲットになると考えられます。

方法:単施設観察研究。酵素結合免疫吸着法を用いて、患者の血清ヒストンH3値を測定し、循環血中ヒストンH3濃度と臓器不全、凝固障害、死亡率との関連を検討。 (Yokoyama Y et al.: Thromb. J. 17: 1, 2019.)
この論文は、Creative Commons Attribution 4.0 International Licenseの条件のもとで配布されています。
(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)
敗血症に対する免疫グロブリン(IVIG)療法
現在、敗血症に対してどのような治療が行われているのでしょうか。
升田先生:
敗血症の治療では、感染源を制御することが最も重要です。敗血症を疑った場合、速やかな血液培養のオーダーと経験的あるいはブロードな抗菌薬を早期に投与することが大切です。また、輸液による初期蘇生を行い血圧の安定を目指します。
臓器障害を合併した敗血症患者さんに対する治療は、輸液・抗菌薬・循環作動薬・感染巣対策などの治療をバンドル(束)にして、早期に同時に施行することが極めて重要です。
敗血症の良好な予後のためには、ICU入室前から退室後のフォローも重要です。市民や医療従事者への啓発活動に加え、救急外来などで早期に敗血症のスクリーニングを行い診断することで治療介入を早めることや、敗血症の診療体制が整った病院に搬送することは、良好な予後のための重要な戦略になると考えます。
敗血症の予後について教えてください。
升田先生:
患者数が増加しているなかでも、敗血症の予後は改善しています。オーストラリアとニュージーランドの報告では、敗血症による死亡が2000年は約35%であったのに対して、2012年には約18%に減少していることが示されています9)。改善の要因としては、治療の標準化や医療技術の進歩に加えて、敗血症の認知や啓発、RRSを用いた早期介入・早期治療システムが普及したことが挙げられています。本邦においても敗血症の予後は改善しており、敗血症での死亡率は、2010年が約25%であったのに対して2017年には約18%まで低下し、入院日数の減少も報告されています10)。
当科での敗血症死亡例の解析結果においても、敗血症のICU死亡率は2005年から2009年の5年間の平均では30.2%でしたが、2015年から2019年では12.1%、その後の1~2年は10%を切っています。28日死亡率も低下を続けており、2015~2019年では約18%となっています(図2)。ロジスティック解析の結果、ICU入室時にすでに多臓器不全状態であることと、血液悪性腫瘍による敗血症が、最も死亡に関与している要因であることが明らかとなりました。この結果から、多臓器障害に陥る前、またはSOFAスコア2点から3点の段階でICUに入室できることが生命予後を考える上で重要だと思います。臓器障害が2つ以上に進展する前にICUで治療を開始するには、敗血症を早期に認知して治療介入ができるRRSの導入が重要です。

ガイドラインにおけるIVIG療法の位置付けはどのようになっていますか。
升田先生:
本邦の敗血症の予後は海外と比較して良好です。その要因を探るために、J-SSCG201611)とSSCG201612)で推奨される治療法を比較した結果、IVIG療法やDIC治療薬、エンドトキシン吸着等の本邦で独自に記載されている項目がありました。その中でも敗血症の補助療法であるIVIGに注目しています。
ガイドラインでは、単にメタアナリシスにおける有意差の有無ではなく、RCTの信頼区間やRCTの結果がどのような傾向を示しているかという点を検討し、益と害のバランスを考慮し推奨が決定されています。IVIGは補助療法という位置付けです。そのため、標準的な蘇生治療ができている上で評価すべきだと考えています。しかしながら、検討されたIVIGのエビデンスは、Sepsis-1定義前の研究、すなわち敗血症の診断基準がまだ混沌としている時代の研究が多いことや治療が標準化されていないことから、敗血症による死亡率が高く、さまざまな治療を行っても有意差が出なかった可能性があることに留意して、IVIG療法を評価する必要があります。
J-SSCG202013)では、劇症型溶連菌感染(STSS)に対するIVIG療法の観察研究で予後改善傾向が示されていることを踏まえ、STSSに対するIVIG療法が弱く推奨されています。また、毒素性ショック症候群(TSS)に対しては、エビデンスが不十分のためIVIG療法を行わないことが弱く推奨され、STSSやTSSを伴わない敗血症に対しても、IVIG療法を行わないことが弱く推奨されています。こうした中でも、日本救急医学会と集中治療医学会によるSepsis
registryの結果では、敗血症患者さんの約40%でIVIG療法が行われていることが明らかになっています。
補充療法としてのIVIG療法の意義について、どのようにお考えになりますか。
升田先生:
J-SSCG202013)では、敗血症では産生抑制や漏出・消耗により、発症早期から血清IgGが低値となることが記されています。敗血症に伴う低IgG血症の発症機序として、感染症により抗体消費が亢進すること、さらに血管透過性亢進に伴うIgGの血管外漏出などが推測されています。また、SOFAスコアが8未満でIgG値が 407mg/dLを下回ると、死亡率が上がることが報告されています14)。このような知見を踏まえ、抗体量の絶対的な不足を考慮してIVIGを投与することは意味があるのではないかと考えられ、低IgG血症合併敗血症に対するIVIG療法の有効性の検証が求められていました。
そこで、2013年~2018年の間に当科に入室し、Sepsis-3で敗血症と診断され血清IgG値が得られていた患者さん238例を対象に、血清IgG値と生存の関連を検討しました。その結果、血清IgG値は生存者で非生存者に比べ有意に高値であることが示され(p=0.004、Mann-Whitney検定)、ROC曲線を用いた解析から血清IgGのカットオフ値670 mg/dLが算出されました。さらに患者を、ICU入室時の血清IgG値が670mg/dL未満群と670mg/dL以上群で比較した結果、血清IgG低値群では死亡率が有意(p<0.001、Mann-Whitney検定)に高いことが明らかになりました15)。
さらに、2015年~2021年の当科のデータ16)から、Sepsis-3で敗血症と診断され、血清IgG 670mg/dL未満の87例を抽出し、IVIG投与群47例と非投与群40例で、主要評価項目を28日死亡率、副次評価項目をIFD、VFD、RRT-FD、90日死亡率とした検討を行いました。患者背景として、IVIG投与群で血清IgG値が低い傾向にあり、ショックを合併した患者さんはIVIG投与群に多かったため、背景を調整するために、年齢、性別、SOFAスコア、免疫抑制状態の有無について調整するために、これらの背景因子とIVIG投与の確率との関係を傾向スコアとして算出しました。
その結果、傾向スコアを説明変数としたロジスティック回帰分析では、IVIG投与が28日予後(検証的解析項目)の改善と関連する独立した因子であることが示され、優越性が検証されました。(95% CI, 0.04-0.54;P=0.004、ロジスティック回帰分析)。また、ICU Free DaysやVentilator Free Daysは予後関連因子としては認められませんでしたが、IVIG療法は腎代替療法(RRT)を施行しなくて済む日数を延ばすことや(95% CI,1.01-1.11;P=0.025、ロジスティック回帰分析、名目上のP値)、90日予後についてもIVIG療法群で有意に低いことが示されました(95% CI,0.11-0.83; P=0.020、ロジスティック回帰分析、名目上のP値)16)。
まとめ
升田先生: J-SSCG202013)において、IVIG療法は、STSSやTSSを伴わない敗血症の治療としては推奨されていません。しかし、IVIG療法が有効な患者群はおそらく存在しており、今後、それらの患者群を同定することが、さらなる予後改善につながると考えています。低IgG血症は生命予後が悪いことが予測されたことから、IgG 670mg/dLをカットオフ値に定めて、後ろ向きにIVIG投与の効果を検討した結果、IVIG投与は生命予後改善の独立した因子であることが明らかになりました16)。こうした結果を踏まえ、低IgG血症の患者さんにIVIG補充療法を行うことは意義があるのでないかと考えています。また、IVIG投与を行っても十分にIgGが上がらない敗血症患者さんは、予後が悪い傾向があります。IVIGは半減期が長い薬ですので、投与のタイミングや投与量を検討するためにも前向きの観察研究を行う必要があると考えて、現在、医師主導のRCTを計画しています。
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