TOP 指導医向け、研修医向けコンテンツ 悩める指導医へのあるある辞典 第16回 救急混雑の真犯人は?・・・決して軽症患者ではない

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第16回  救急混雑の真犯人は?・・・決して軽症患者ではない

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005060)

忙しさを理由に重症者を取りこぼすなんてできない!
常に過酷な状況にあるERを救う手段とは!?

「高熱が出た」と訴える母親に抱かれている赤ん坊、交通事故で救急搬送されたけが人……。軽症者から重症者まで多くの患者さんが入院できずに待機しているERはまるで、人でごった返す野戦病院のよう。“救急”なんていっても、結局は2~3時間待ちなんてざらだし、挙句の果てには救急車での患者さんのたらい回しまで引き起こしてしまう。そんな日本の救急混雑の原因は、いったい何なのだろう。軽症者を引き受けるから?救急病院が少ないから?今回は、ERが抱える問題点とその解決法を探ってみよう。

原因は患者さんではなく、ベッド数など病院側にあり

救急混雑の原因って何だろう? 「救急車をまるでタクシー代わりに使っている」「家で対処できる軽症なのにわざわざ救急にやってくる」……。そんな嘆きの声をよく耳にする。確かに、1990年代前半の海外のスタディでは軽症者や非保険者、コンビニ的な頻繁利用者などの“input”が救急混雑の原因だと認識されていた。ところが2000年代になるとこのinputそのものは大きな要因ではなく、むしろ、患者さんの需要に見合うだけのスタッフ人員や入院させるベッド数が足りないことの方が問題だと指摘されるようになったのだ。

そもそも、救急が混雑するとどんな弊害が起こるのか冷静に考えてみよう。まず、本当に緊急な医療を必要とする重症患者の待ち時間が長くなってしまうことが挙げられる。また、忙しさのあまり、病歴聴取が疎かになる、対応そのものがぞんざいになるなどし、医療訴訟を引き起こしかねない状況を生むことも。

それを考えたら、今すぐ救急混雑を改善させなければならない。そのために救急隊に重症者だけを搬送するようにと言える?まして医学に関して素人である患者さんや家族に、軽症か重症かの判断を任せられる?問題は患者さんにあるのではない。問題は病院全体にあるんだよ。実際、忙しい時間帯にスタッフの人数を増やすことで、患者さんの滞在時間が35分も短縮できたという報告もある。欧米などでは、救急からの入院ベッドを確保しておくことは経営的にプラスになるというのは半ば常識。入院ベッドの90%も入っていればERが回らなくなってしまって当然という。あなたの病院経営者ははてさてどう考えているのかしらン?入院患者のうち即時退院させてもいい患者さんを逆トリアージ(軽症や慢性患者を取り扱う病院へ紹介転院)してでも、入院ベッドを空けることが提唱されているというのも事実なんだよ。

忙しいときこそスタッフや入院ベッドの数が足りているかなどER全体を見渡してマネージメントしていく能力も必要なんだよね。

看護師なども共有できるマニュアル整備を早急に

オーバートリアージOK、ベッドコントロール、マニュアル整備 混雑のなかから簡単に重症患者を見極めて、適切な治療順序を決められたら、どれほどラクか……と、つぶやきたくなるのは何も新人だけではない。比較的元気に歩いて病院に来たのに、実はとんでもない重症状態にあったというケースは0.2~0.7%あるというのだから、これを見極めるのは難儀。そこで、見落としがちな人間の目に変わって多いに役立つのがモニターだ。モニターはいわば第三の救急スタッフ。混雑しているときこそ、モニターを活用して症状の悪化をいち早くキャッチするべし。

重要なのは、忙しいときこそ、重症になる患者さんを取りこぼさないトリアージを行なうこと。看護師などのスタッフには「オーバートリアージはOK」と繰り返し伝えることもお忘れなく。このセリフひとつで逆にアンダートリアージを減らす効果が期待できるんだ!そして、ERからスムーズに入院に回せるように、ベッドコントロールを行なう専任の看護師を配置できればベスト。尚、緊急避難的な措置として外来ベッドを入院扱いにし、保健所に申請しているベッド数の10%までなら一時的に上回ってもかまわないと厚生労働省が通達を出している。

万が一、重症者を取りこぼして裁判になった場合、そのときに救急が混雑していたからという理由はまかり通らないのだ。だからこそ、ベッドコントロールを含め、マニュアル整備は必須!救急が混雑した場合はどのように対応するのかを示したマニュアルが患者さんも医者も病院も救ってくれることに。

医者の心身の負担を軽減することも重要

医者たるもの24時間365日不眠不休で患者さんを救うべく身を削って奉仕しろって???そんなの神様でも無理だよ。疲労でフラフラしていては適切な判断ができないし、モチベーションも下がって、モラルだってどこかに吹っ飛んじゃう。医者がそんな状態で最も危険な立場に立たされるのは患者さんでしょ。マスメディアは医者バッシングが大流行で、心が折れて現場を立ち去る医者も増えてしまった。おかげで余計急患を診てくれる医者が減ってしまった。でもそんなことが話題になるぐらい医者はミスが少ないのも事実だ。日常茶飯事ならニュースにはならないではないか。こんな過酷な環境で頑張っている我々はエライ!と思えばいいんだ。

過酷な状況から医者も患者さんも救うには医者の数を増やすことが一番なんだけど、今すぐというわけにはいかないのは、よくわかる。それなら、せめて夜勤シフトの整備を行なうなどの配慮をぜひとも病院やお上にお願いしたいところ。と、同時に医者である我々だって自分たちでこの過酷な状況を乗り切る手段を考えなければ!

まず、夜勤の最大の敵は睡眠不足。これを防ぐ僕なりの方法をお教えしよう。
(1)夜勤前に2~4時間寝ておく。
(2)夜勤中は可能な限り40分程度の仮眠をとる。
(3)眠くなったら眩しいくらいの灯りを浴びる。
(4)夜勤後は朝のうちに睡眠をとる。
(5)3交代制なら深夜を1週間ほど連続勤務にする。
え?三交代制なんて夢の夢だって?そうだよねぇ~。でも長生きするためにガンバレ!不眠不休で働くスーパーマンが一人いるより、ヘタレで交代制勤務の医者が30人いる方が、多くの患者さんを救うんだよ。

そして、研修医もベテランもワークライフバランスを大切にしてほしい。忙しさが連続して気力も体力も消耗した結果、burnout(燃え尽き症候群)になってしまった医者の話を僕は何度も聞いたことがある。そんな悲しい結果にならないためにも、しっかりと休んで私生活も大切にして欲しいんだよね。仕事以外に趣味や友人、自分だけの時間をもつことは快適なドクターライフのためには必要不可欠。疲労に敏感になって、ストレスを認知し、ガス抜きもしっかり行なう。これだけで混雑から引き起こされる疲労、そして危険から回避できるはず。

そして、つらい時こそ笑おう!最前線に立つ医者がつらくても笑っていれば職場全体が明るくなる。笑顔の多い職場のスタッフはみんなつらくてもいい仕事をするものだ。トリアージミスや治療手順のミスなどを見つけた時は、次回どうしたらそんなミスを防げるか「How」を問うべきであり、「どうしてこんなことになったんだ!」と「Why」と問い詰めるような職場環境ではみんなおどおどして余計ミスが増えてしまう。つらいERではひたすら笑おう!

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