筋炎診断における筋病理の重要性、意義と
筋炎の最新分類
国立精神・神経医療研究センター神経研究所
疾病研究第一部 部長
ゲノム診療開発部 部長
西野 一三 先生
(審J2409152)
国立精神・神経医療研究センター神経研究所
疾病研究第一部 部長
ゲノム診療開発部 部長
西野 一三 先生
西野先生:
英語ではいずれもpolymyositisですが、日本神経学会の用語では“多発筋炎”、リウマチ学会では“多発性筋炎”と呼びます。我々は病理所見で確定した厳格な定義に基づいたpolymyositisのことを“多発筋炎”と呼んでいます。一方、リウマチ内科の先生は筋炎の代わりにPM/DMという言葉を用いており、PM/DMで皮膚症状のないものを全て“多発性筋炎”と呼んでいます。
西野先生:
今、我々が多発筋炎を診断する頻度はかなり減ってきていますが、それは定義が厳格になったからです。しかし他科の先生方と話をすると話が噛み合わなくなってきます。
例えば、自験例で2012年に臨床的に筋炎が疑われた例が247例で、そのうち臨床所見でPMと診断されたのは35%です。しかし、実際の病理診断では4%、すなわち10分の1程度でした(図3)。また、病理診断で一番多いのはiNM(21%)でしたが、iNMは皮膚症状がほとんど発現しないため、臨床所見ではPMと診断されていました。2003年に出た論文でもPMが過剰に診断されており、実際にはそれ程存在しないということが報告されています4)。つまりPMと診断されている筋炎の多くはiNMであり、病理所見上の“多発筋炎”はかなり希少疾患である、という認識を持っていただくと良いと思います。
特に初期研修医の場合、色々な科をローテーションするため、混乱が生じます。実際、日本語の総説には「多発性筋炎の約20%はSRPが陽性」と書いてありますが、自験例ではiNMの41%がSRP陽性例、13%がHMGCR陽性例でしたので、我々が書くと「PMでSRP陽性例はゼロで、iNMに特異的な抗体」となり、話が全く変わってきてしまいます(図4)。前提が違うということをまず理解し、きちんと知っていただくことが大事だと思います。
図3 臨床所見(左)と病理所見(右)による診断名(2012年)
図4 iNM患者から検出された自己抗体(2012年)
西野先生:
基本的には自施設で筋生検、凍結固定まで行い、凍結した検体を宅急便で送っていただきます。クール宅急便を使う必要はなく、発泡スチロール箱にドライアイスを十分に詰め、絶対に溶かさないように梱包することが最も重要です。検体受け取り後、約1ヵ月で報告書と主な病理所見の写真を保存したCDを第1段階として返送します。その後、必要があれば免疫染色、抗体検査、遺伝子解析等を行い、最終的な報告書を半年~1年で返送します。詳しくはホームページ(http://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r1/diagnostic_service.html)をご覧ください。
西野先生:
筋炎に関しては発症機序、病因、病態が十分に解明されたとはいえず、分類にしても様々な解釈があり、過渡期が続いている状況です。例えば、DMでは典型的な線維束周囲性萎縮の病理所見がみられれば皮膚筋炎という診断になります。壊死性ミオパチーの場合には、SRPやHMGCRという2つの自己抗体が知られており、診断をする上では、病理所見だけではなく、抗体を測定しなければなりません。筋炎の診断に関しては、筋生検ももちろん必要ですが、それのみでは診断がつかないことも多く、ARSやJo-1抗体など筋炎関連自己抗体は全て測定し、様々な角度から検討することが重要だと思います。
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