第7回 病院でのコミュニケーションスキル
福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
審J2501266(2025年3月更新)
医療とは決して医師ひとりでできるものではない。多くのコ・メディカルとのチームワークに支えられて医療は成り立っている。応援に駆けつけてくれた医師や手伝ってくれるコ・メディカルと円滑なコミュニケーションが図れてこそ、いい医療が展開できるというもの。だからと言って飲みニケーションだけに頼っていてはダメだよん。
福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
審J2501266(2025年3月更新)
医療とは決して医師ひとりでできるものではない。多くのコ・メディカルとのチームワークに支えられて医療は成り立っている。応援に駆けつけてくれた医師や手伝ってくれるコ・メディカルと円滑なコミュニケーションが図れてこそ、いい医療が展開できるというもの。だからと言って飲みニケーションだけに頼っていてはダメだよん。
臨床力が身につくまでは、研修医にとって上級医の助けは必須。まず所見に迷ったら、プライドを捨ててすぐさま専門医にコンサルトを求めるのは基本。もちろん自分の所見にそこそこ自信はあっても、やっぱり専門医の意見を聞いておきたいときはあるもの。「なぁんだ。結局この医者は自分ではわからないんだ。」と、患者さんに思われて自分の面子がつぶれるのが嫌で、コンサルトを躊躇してしまう人はいないかな?その際には、ぜひ「自分はこう思うが、念のために専門医にも診てもらって意見が同じか確認しましょう」と、言ってみてはどうだろうか。“不安だから聞く”のではなく“ダブルチェック”のために専門医や上級医を呼ぶという表現を使うのだ。そうすれば、患者さんも念入りな確認作業だと安心させることができる。もちろん、呼んだ側は次回のコンサルトに生かせるようにしっかりと診察方法や診断の仕方を学ぶ姿勢が大切。コンサルトは次回同じ症例が来た時に一歩成長するためにあるのであって、患者さんの引継ぎに終わってはいけない。上級医を呼びつけたらすぐにその場を離れてしまうようであれば、二度と満足のいくコンサルトが受けられないと覚悟すべし。
逆に、コンサルトしても来てくれない上級医もさらに輪をかけた困り者。自分の所見に自信がなくて、夜中に仕方なく助けを求めている研修医に対し、患者を診察せずに電話口で指示を出すような上級医は、いらない存在になってしまうことを忘れずに。電話コンサルトではその内容には限界があるし、研修医が見逃している所見は決して語られない。当直室のベッドの中にいる上級医に電話コンサルトし、口頭で「患者さんに○○の薬を出して帰しておけ」と指示をもらって、半信半疑で患者さんを帰してしまい、後で実は悪い病気だったという場合は目も当てられない。患者さんはいい加減な判断に腹を立て、電話指示した上級医は「そんなに悪いのならきちんと言ってくれないといけないよ。これとこれの所見があるとわかっていたらすぐに行ったのに・・・きちんと所見を伝えないのはコンサルトをした研修医の責任だ」と、結局責任は研修医に擦り付けられてしまう羽目に・・・。実際に患者さんを診察していない場合は、患者さんへの責任は移譲できない。患者さんのために、上級医に直接診察してもらうように電話口で食い下がる勇気を持つことも肝心だ。電話口で散々文句を言った挙句でてきた上級医でも、いざ患者さんの前に来ると、うそのように愛想のいい医者を演じるものだ。恐るべし、さすが上級医。
研修医にとってみれば、現場での臨床研修こそ役にたつのだから、自分で判断がつかない場合や迷った場合は、上級医のコンサルトをどんどん受けるべき。ただし、ここで間違ってはいけないのが“丸投げ”。いくら上級医のコンサルトを待つとはいえ、コンサルト医が聞くまできちんと報告しない、カルテも書かずに「あとはヨロシク」状態では、そんな研修医はいらないと言われてしまう。研修医は勉強をさせてもらうのが半分、雑用半分であって、研修を受ける権利は当然あるものの、雑用を嫌がるようではいけない。
コンサルトとは患者さんを引き渡して初めて成立するもの。コンサルト医が到着するまでは自分の責任と心得て、「ホウ・レン・ソウ」つまり「報告・連絡・相談」を軸に患者さんを引き渡す準備を。コンサルト医がかけつけてくれたら、まずは感謝の気持ちを伝え、主訴、年齢、性別などの基本データと自分なりの鑑別診断を的確に伝える。病歴や身体所見、検査結果を並べるだけではコンサルトとは言わない。それではコンサルトといいながら、結局上級医に全部考えてもらっているだけで、自分は伸びない。あくまでも自分の思考過程を明らかにして、自分の疑う診断名を上級医に話し、それを訂正してもらってこそ臨床力がつくのだ。
コンサルト医に指導を受けたら、「なるほど・勉強になります・おっしゃる通りです・確かに・またご指導お願いします」の“なべ・おたま”を合言葉に相づち上手になろう。真夜中であればあるほど、コンサルト医の好みや興味のある話題から話しかけるとうまく行く。いかにコンサルト医に気持ちよく働いてもらうかもコンサルト上手に必要な技術だ。
患者さんの訴えをそのままコンサルト医に伝えるだけの“伝書鳩くん”や患者さんの責任をもとうともせず人に丸投げする“スルーパスくん”にだけはくれぐれもならないでね。
優秀な医師というのはなにも手技や知識が豊富な人を言うのではないということはもちろん分かっているよね。医療はチーム医療が基本中の基本。患者を治すために医師がひとりで戦っているのではなく、看護師、レントゲン技師、検査技師、受付事務員など複数のスタッフがひとつのチームとして協力しあってこそ医療行為ができるのだという認識が重要。ところが、中には新人、ベテランに限らずそれをとんと忘れてしまっている人たちがいるから困る。
実は、患者さんというのは医師よりも看護師を身近に感じて体調や心配事を話しているものなんだ。看護記録にはかならず目を通し、看護師が報告する内容にもしっかりと耳を傾けることは想像以上に重要なんだ。そんな患者さんの日常の変化に敏感な看護師の意見を簡単に無視したり、自分のプライドを優先して看護師からの指摘に素直に耳を貸さないなんて言語道断。看護師が助けてくれなければ、残圧計を持たずに海に潜るに等しい、時計を持たずにカップラーメンを作るに等しい、懐中電灯を持たずに肝試しに挑戦するに等しい・・・もういいかしらン?
放射線技師や検査室、薬剤師も含め多くの人が医療には関わっている。お山の大将ヨロシクいばっているばかりの医者ではいい仕事はできない。ちょっとした時に素直に「ありがとう」と言おう。コ・メディカルのいいところを1日1回誉めるように注意してみてみよう。チームのいい点が見えてきて、人を誉めることがすんなりとできるようになれば、素晴らしいチームができあがるはずだ。
正しい診療を行うためにも看護師やコ・メディカルとの協調性は必須。それができない上級医も研修医も必要ない!
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