第2回 血漿交換の基礎~アフェレシス療法をもっと身近に~
東京女子医科大学 血液浄化療法科 准教授
花房 規男 先生
(審J2412214)
「警告・禁忌を含む注意事項等情報等についてはDI頁または電子化された添付文書をご参照ください。」
東京女子医科大学 血液浄化療法科 准教授
花房 規男 先生
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血漿交換療法は体外に血液を取り出し、その血液から病因物質を除去し、体内に戻す治療法です(図1)。
自己免疫疾患では自己抗体の産生を抑制するため、ステロイド、免疫抑制薬、リツキシマブが使用されます。しかし、IgGの血中半減期は約3週間と長く、仮に体内でIgGが作られなくなっても、血中から除くには時間を要し、血漿中濃度が1/8になるには理論上2ヵ月以上の期間が必要となります。
一方、血漿交換療法では、1回の施行で血中のIgGをほぼ半減することが可能で、理論的には3回連続で施行することにより、数日のうちにIgGをほぼ1/8程度まで減少させることが可能です。このため、自己免疫疾患の急性増悪では、免疫抑制薬の効果が発揮されるまでの期間を短縮するために、血漿交換療法がしばしば用いられます。
図1 血漿交換療法の意義と方法
血漿交換には、単純血漿交換(PE)、二重濾過血漿分離交換(DFPP)、血漿吸着(PA)、免疫吸着(IAPP)があります。DFPP、PAでは血漿分離器で分離した血漿を更に血漿成分分離器や血漿吸着器で処理し、より特異的な病因物質を除去することを目的としています。そのため、DFPPでは血液製剤の補充量を減量することができ、PAでは血液製剤の補充が不要となります。一方、PEの変法である選択的血漿交換(SePE)は凝固因子の低下が少ないことが特徴で、近年注目が集まっています。
血漿中に存在するすべての病因物質が除去対象となります。このため、病因物質が明らかでない場合、あるいは複数の病因物質が関与している場合にも適応されます。原則的に処理する血漿と同じ量のアルブミン溶液、FFPが置換液として必要になります。
DFPPで用いられる二次膜を血漿分離膜として使用する治療法です。血漿分離膜の小孔径(篩の目)を、フィブリノゲン(分子量約32万)とIgG(分子量約16万)との間の大きさに設定した膜を用いることで、フィブリノゲンや血液凝固第13因子(FXIII、分子量約32万)を血漿中に留めながらIgGやIgGより小さい分子量の物質を除去するもので、凝固因子の除去が抑えられるという利点があります。
図2 PE・SePE
血漿分離膜で分離された血漿をさらに目の細かい(小孔径が小さい)分離膜(血漿成分分画器)で2段階に処理する治療法です。血漿成分分画器では大きな分子量の物質は濾過されませんが、分子量が小さいアルブミンは濾過されます。濾過されなかった部分を廃棄し、濾過されたアルブミンを体内へ戻し、置換液を少量にした治療法です。PEと比べて必要とされるアルブミン量が少ないという利点があります。
図3 DFPP
最も特異的な治療法であり、血液製剤の補充が必要ありません。しかし、PAでは目標とされる除去物質に対応する吸着体を使用する必要があるため、除去目標とされる病因物質の特定が必要となります。PAのうち、免疫グロブリンなど、免疫に関連するタンパク質を吸着するものを免疫吸着(IAPP)と呼びます。
吸着ではカラムの飽和現象がみられるため、1つのカラムには処理量の上限があります。IAPPで使用されるトリプトファン固相化カラムではIgGが除去されますが、サブクラスによりその吸着性能は異なり、IgG4が病因物質である場合には有効性が低くなります。また、吸着カラムでは血管拡張作用のブラジキニンの活性化が生じます。アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)はブラジキニンの分解を抑制するためにブラジキニンの貯留による血圧低下が生じます。ACE阻害薬は使用禁忌となります。
図4 PA
除去目標となる病因物質の特性は治療法の選択に非常に重要です。これら特性に基づいて治療法(モダリティ)の選択をします(図5)。
図5
血漿交換療法の各モダリティには、それぞれ利点・問題点があり、血液製剤の補充は不要であるIAPPを第一優先として、適応できない場合は、DFPP、PEと順番にモダリティを選択します(図6)。
図6
血漿交換の適応疾患は、①自己抗体の除去が治療目的となる疾患、②それ以外の分子量の大きな病因物質の除去が目的となる疾患、③血漿タンパクの補充が目的となる疾患に大きく分けられます。さまざまな疾患が保険適応となりますが、多くの自己免疫疾患がその中に含まれます(表1)。
表1 血漿交換の適応疾患
血漿交換療法では、PA/IAPP以外は置換液が必要となります。DFPPではアルブミン溶液が使用されますが、PEではアルブミン溶液と新鮮凍結血漿(FFP)の双方が使用されます。FFPには、未知のウイルス感染、アレルギー、輸血関連急性肺障害(TRALI)といった輸血関連副作用があると考えられるため、凝固因子の補充を必要としない血漿交換療法の場合は、アルブミン溶液を使用しています。一方、血漿交換療法では、凝固因子・免疫グロブリンなどの正常なタンパク質も除去されてしまいますがFFPには凝固因子、免疫グロブリンが含まれます。このため、凝固因子が低下している肝障害・肝不全、ADAMTS13の補充が必要となる血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)では、FFPが絶対的な適応となります。さらに、出血傾向があり、血漿交換療法によって凝固因子が除去されることがリスクを伴う場合にもFFPが選択されます。
一般的に血漿中に存在する病因物質をPEで除去する場合、体内での産生・血管内外の移動がない場合、血漿交換以外の除去がない場合には、病因物質の治療後の濃度は、以下で表されるシングルプールモデルに従います(図7)。この考え方は、すべての血液浄化療法に当てはまる根幹となる考え方です。
途中に指数関数は入っていますが、①治療前の濃度と、②血漿全体の量*と比較して、何倍の血漿を交換したかによって、治療後の病因物質の濃度が決まるというものです。
*体の中で病因物質が含まれる部分の容積、ここでは血漿蛋白を考えているので、血漿の量となります。
CT = C0 ×e –Ve/V
CT:治療後濃度 C0:治療前濃度 V:血漿容量 Ve:交換血漿量
図7
交換血漿量を血漿容量〔体重(kg)÷13×(1-ヘマトクリット値)〕で除した値をもとにすると、治療前後の濃度変化は図8に示すとおりになります。
図8
このため、体内血漿量を基準とした交換血漿量を考えると、治療後の病因物質の濃度が標準化され経過の予測が容易になります。
一般的には、1.5PV(Plasma Volume;血漿容量)以上交換しても減少率はわずかのため、1~1.5PVの血漿が交換(処理)されます。
保険適応に基づいた治療を行いますが、重症の場合には自己抗体を早期に低下させる必要があるため、連日などの頻回の治療が必要なります。アルブミンを置換液としたDFPP、PEではフィブリノゲンや血液凝固第XIII因子といった凝固因子が低下するため、モニタリングが必要です。少なくとも治療前のフィブリノゲンは100mg/dLを下回らないようにします。これ以下にフィブリノゲンが低下する場合、治療間隔を空けてフィブリノゲンの回復を待つか、FFPを補充します。さらには、IgGが病因物質の場合、選択的血漿交換への変更も検討します。アルブミン置換の血漿交換を週2回以上行う場合、3~4回継続すると凝固因子が低下するため、対応・対策が必要となります。
血漿交換療法には、PE、SePE、DFPP、PAがあります。対象疾患の重症度、病因物質が特定されているか、凝固因子の低下が懸念されるかが治療法の選択において重要となります。治療条件は個別化する必要があります。
参考文献:Norio Hanafusa.Theoretical basis of pathogenic substance removal during plasmapheresis.Ther Apher Dial 2011;15:421-430.
花房規男.血漿浄化-単純血漿交換,二重濾過血漿分離交換,血漿吸着-Clinical Engineering 2017;28:375-382.
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