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Vol. 1 アルブミンの性状と作用
アルブミンは、血漿タンパク質の主成分で、単に膠質浸透圧を維持するだけではなく、さまざまな生理作用を持つ重要な物質です。近年の研究では、アルブミンの新たな側面や臨床的な意義が次々と明らかにされ、その応用範囲は広がりをみせています。
Vol.1では、アルブミンの基礎的な特性についてご解説いただきました。


監修 浜松医科大学 麻酔・蘇生学講座 教授 中島芳樹 先生
所属学会
日本麻酔学会、日本臨床麻酔学会、日本集中治療医学会、日本蘇生学会、日本ペインクリニック学会
日本心臓血管麻酔学会 評議員、医学シミュレーション学会 理事、米国麻酔学会 (ASA)、ヨーロッパ麻酔学会 (ESA)
専門医・認定医
日本麻酔科学会指導医
※各製剤の使用にあたっては、電子化された添付文書をご参照ください
1. はじめに
アルブミンは血液中に最も多く存在するタンパク質であり、私たちの健康を維持するために重要な役割を果たしている。血液中の水分を血管内に保つ膠質浸透圧の維持作用をはじめ、薬物や脂肪酸などの様々な物質を体内で運ぶ運搬機能、体内で発生する有害なフリーラジカルを除去する抗酸化作用、そして血液のpHバランスを整える酸塩基平衡の調節などの役割も担う。
医療現場においては、出血性ショック、熱傷、低アルブミン血症を伴う病態など、多くの臨床状況において、アルブミン製剤が重要な役割を担っている。重症の低アルブミン血症は、循環動態の不安定化、栄養状態の悪化、感染リスクの増加、術後合併症の増加をもたらすため¹⁾²⁾、その適切な管理は臨床医にとって重要な課題である。
2. アルブミンの基本的な性状
2-1 分子構造と特性
アルブミンは585個のアミノ酸から構成された分子量約66,500のタンパク質である(図1)³⁾。等電点はpH 4.7で、生理的pHでは負電荷を帯びている。17個のジスルフィド(S-S)結合により特徴的な三次元構造を形成しており、この構造が安定性と機能性の基盤となっている⁴⁾。非常に水溶性が高いアルブミンは、pH 4〜9の広範囲で安定性を維持しており、60℃程度までの熱処理にも耐性を示す⁵⁾⁶⁾。この安定性は製剤化において重要な特性であり、保存や滅菌処理における変性を最小限に抑えることが可能となっている。
図1. アルブミンとは

2-2 血漿中のアルブミン濃度
血清アルブミン濃度の正常値は、4.1〜5.1 g/dLであり⁷⁾、この値は年齢、性別、栄養状態、基礎疾患などにより変動する。特に高齢者や妊婦では低値を示すことがある。また、日内変動も認められ、運動や立位により一時的に高くなることも知られている。
アルブミンは肝臓で合成され、一日あたり約6〜15gが産生されている⁸⁾。前駆体であるプレプロアルブミンからペプチドが除去されてプロアルブミンとなった後、さらにペプチドが切断されてアルブミンとなる。肝臓での合成後、直ちに血中に放出され、体内で14~18日間(半減期)働いた後、筋肉や皮膚で分解されるのを繰り返す⁹⁾。
3. アルブミンの主な作用
3-1 膠質浸透圧の維持
アルブミンは、血管内に水分を引き寄せる力(膠質浸透圧)を持つ主要なタンパク質であり、その役割の約80%をアルブミンが担っている⁹⁾。血管壁のアクアポリンという小さな穴は水分子のみを通過させ、大きなアルブミン分子は通過できない。このため、水分子はアルブミン濃度の低い組織間液から濃度の高い血管内へと移動し、適切な血液循環を維持するのである。水分移動理論の詳細は、「Vol. 2 アルブミンと修正starling・血管透過性について」で後述する。
低アルブミン血症が生じると、血管内の膠質浸透圧が低下し、水分が血管外へ漏出する。その結果、全身性の浮腫や腹水などの症状が現れる。特に肝硬変、ネフローゼ症候群などでは、その症状が顕著であり、循環動態の不安定化をもたらす。このように、アルブミンによる膠質浸透圧の維持は、生体の水分分布と循環動態の恒常性において重要な役割を担っている。
3-2 物質の運搬機能
アルブミンは、多様な物質と結合して体内の各部位へ輸送する役割を担っている。脂肪酸はアルブミンの主要な結合物質であり、エネルギー源として各組織へ運搬される。甲状腺ホルモンやステロイドホルモンなどの脂溶性ホルモンもアルブミンと結合し、標的組織へ輸送されている。ビリルビンはアルブミンと結合することで毒性が緩和され、安全に肝臓へ運搬される。
また、多くの薬物もアルブミンと結合しており、その薬物動態はタンパク結合率により大きく異なる。タンパク結合率の高い薬物は血中で結合型として存在し、血管外への移行が制限されるため、生体利用率が低下する。遊離型のみが生物学的活性を持ち薬理効果を発揮するため、低アルブミン血症では薬物の遊離型濃度が上昇し、副作用リスクが高まる可能性がある¹⁰⁾。このようにアルブミンは薬物動態を調節する機能も担っている。
3-3 抗酸化作用と緩衝作用
アルブミンは、抗酸化物質としての働きも有しており、自らが酸化されることで体内の酸化ストレスを抑えている。健常成人の血中では、還元型と酸化型アルブミンが約3:1の比率で存在し、酸化ストレスに曝されると還元型が酸化型に変換されることで、抗酸化力を発揮する³⁾。手術侵襲、敗血症などの重症病態や加齢においては、酸化型アルブミンの割合が増加することには留意すべきである。
また、アルブミンは血液のpH調整機能も担っている。人体のpHは通常7.4付近に維持されており、pH7.2未満になると細胞機能障害から生命を脅かす状態に陥ることがある¹¹⁾。アルブミンは分子内に多数のイオン化可能な残基を有しており、過剰な水素イオンや水酸化物イオンを結合・解離させることで血液pHの維持に貢献している。
4. 臨床での応用
4-1 アルブミン製剤の適応と使用法
アルブミン製剤は血漿タンパク質の補充や膠質浸透圧の維持を目的として臨床で広く用いられている。低アルブミン血症への補充療法は、一般に急性低タンパク血症では血清アルブミン値が3.0g/dL未満、慢性低タンパク血症では2.5g/dL未満が目安とされているが、明確なエビデンスは乏しい。血清アルブミン値を正常化することを単に目的とするのではなく、血漿膠質浸透圧を維持し、循環血漿量を確保するために行われる¹²⁾。
出血性ショックに対しては、循環血液量の50%以上を喪失した場合にアルブミン製剤の使用が考慮される。また、重症熱傷では、熱傷部位が体表面積の50%以上あり、細胞外液補充液では対処しきれない場合にアルブミン製剤が用いられることがある。さらに、肝硬変に伴う難治性腹水に対しては、利尿薬との併用や大量腹水穿刺後の循環血液量の維持を目的として用いられる。特に、腹水穿刺排液量が4L以上の場合には循環不全予防のためにアルブミン投与が推奨される¹²⁾。
4-2 アルブミン製剤の種類と特徴
アルブミン製剤には主に5%製剤、20%製剤、25%製剤があり、病態に合わせて使い分けることが重要である。5%製剤は、血漿と同じ濃度に調整されている。等張液のような動きを持つことから、主に循環血液量の維持・回復を目的として使用される。一方、20%製剤と25%製剤は、血症の4~5倍ほどの濃度で、高張である。血管内に水分を引き込む効果が強いことから、主に低アルブミン血症に伴う浮腫や腹水の治療に適している。
4-3 副作用と注意点
アルブミン製剤の投与に伴う重大な副作用として、ショック、アナフィラキシーショック(いずれも頻度不明)が報告されている¹³⁾。投与直後から数十分以内に発症することが多いことから、投与開始時には患者の状態を十分に観察する必要がある¹⁴⁾。その他の副作用として報告されている、顔面潮紅、蕁麻疹、紅斑、発疹、発熱、悪寒、腰痛にも十分に注意する¹³⁾。また、急速投与や大量投与による循環器への過剰な負荷も重要なリスクである。特に心機能低下例や高齢者では、肺水腫や心不全を引き起こす可能性があり注意を要する。
2025年5月掲載
審J2503411
【参考資料】
1) Gounden V, et al. Hypoalbuminemia. [Updated 2023 Aug 28]. In: StatPearls [Internet].
2) Soeters PB, et al. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2018; 43: 181-193.
3) Lucía T,et al. Journal of Chromatography B. 2009; 877: 3384-3392.
4) Baler K, et al. J Phys Chem B. 2014; 118: 921-930.
5) KAI O. PEDERSEN. nature. 1931; 128: 150-151.
6) Ross PD, et al. Vox Sang. 1984; 47: 19-27.
7) 日本臨床検査標準協議会「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲-解説と利用の手引き-」
8) 桑波田 雅士. 日本栄養・食糧学会誌. 2011; 64: 215-219.
9) 日本血液製剤協会 血液製剤について アルブミン製剤
http://www.ketsukyo.or.jp/plasma/albmen/alb_01.html(参照:2025年3月11日)
10) 榎園 淳一ら. 日薬理誌. 2009; 134: 78-81.
11) 伊藤 恭彦ら. 日内会誌. 2006; 95: 853-858.
12) アルブミン製剤の適正使用(血液製剤の使用指針 厚生労働省医薬・生活衛生局:平成31年3月)
13) 献血アルブミン5%静注「JB」電子添文
14) 厚生労働省. 重篤副作用疾患別対応マニュアル アナフィラキシー(令和元年9月改定)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1h01_r01.pdf(参照:2025年3月11日)