Heart Hospital

関西医科大学附属病院血液腫瘍内科 診療部長 教授 野村 昌作先生

包括医療の意義について

血友病の診療に関わるようになったきっかけを教えてください。

野村先生私は血小板が専門で、血友病を含めた凝固異常に関わるようになったのは2010年に関西医大内科学第一講座に主任教授として着任してからです。当院の小児科は非常に多くの血友病患者さんを診療しており、小児科と血液内科とが共同で診てきました。当時から血液凝固因子製剤の補充療法を行っていました。

通院されている患者さんの数、症状・地域性について教えてください。

野村先生成人領域なので、生活習慣病を伴う血友病の患者さんを多く診ています。補充療法で血友病の出血症状は抑えられている一方、脂質異常症や高血圧症、糖尿病といった一般的な生活習慣病があり、血栓症のリスクもあります。当院のある大阪府の北河内エリアでは、成人の血友病を診る施設が少なく、地域基幹病院から紹介の患者さんも来られます。患者数は血液内科全体で7~8名、関西医科大学総合医療センターを合わせると12~13人です。抜歯など特別なことがある際に受診される方が多いです。

血友病診療の特色、現在の体制に至る経緯を教えてください。

野村先生AYA世代※1についてしっかりと連携を取る必要があると考え、3年ほど前から小児科、血液腫瘍内科の医師、看護師に参加してもらって小児科との合同セミナーや研究会を始めました。そこで整形外科、歯科口腔外科を含めた包括医療の必要性の議論に発展し、今年5月に関西医大として初の包括外来を行いました。奈良医大をお手本にして血友病包括診療がようやく始まってきた状況です。頻度としては年間3回程度、半日ですべてに対応できる体制を考えています。

※1 AYA世代:Adolescent and Young Adultの略。15~39歳の思春期・若年成人を指す。

吉岡先生これまでもやってこられたことだと思いますが、本格的に始められたのですね。他科との連携はスムーズですか。

野村先生小児科、血液内科、整形外科がセミナーで症例を出し合い、さらに歯科口腔外科が非常に熱心に取り組んでくれています。整形外科ではリハビリテーションが重要だということで、幸い今年4月に関西医大にリハビリテーション学部ができましたので教授に推薦していただいた若手の方に入ってもらっています。産婦人科の医師が遺伝カウンセリングとしてご家族の中で保因者となる娘さんへの説明も行いました。将来の妊娠・出産についても熱心に聞いておられたということです。産婦人科は女性医師にフォローしてもらう体制にしています。

自己注射の指導についてはいかがでしょうか。

野村先生成人の方はほとんど自分で自己注射できます。最近は、血液凝固第Ⅷ因子代替製剤による新しい補充療法もあり、それによって自己注射の管理がしやすくなったという患者さんもおられます。

吉岡先生血液製剤は、国内自給(国内で使用される血液製剤が原則として国内の献血により得られた血液を原料として製造されること)が確保されることを基本とすることが、日本の法律(安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律)に書かれています。国内献血で得られた血漿から製造する凝固因子製剤やバイパス止血製剤、加えて第Ⅷ因子製剤代替製剤についても我が国で開発できたことで、基本的な考え方に近づけたといえます。

野村先生新型コロナウイルス感染症のワクチンの問題でも「自国で賄えること」は非常に重要だと再確認しました。今後、注意しなければいけないのは血栓の問題ですね。成人の領域では、生活習慣病が重なってくることがあり、これまで血友病患者さんに血栓の心配をしたことはなかったのですが、治療法が非常に進歩し、平均寿命も一般の方と変わらなくなってきたことで、動脈硬化等による血栓症のリスクが出てきます。

小児科から内科へのトランジット

小児科の患者さんが内科を受診するのは何歳ぐらいが目安でしょうか。

野村先生15歳~18歳ぐらいの高校生ですね。ただ、もっと早い段階の小児も内科に来てもらって、「この先生が将来診てくれるんだよ」と、納得してもらう部分も必要と考えています。いわゆるAYA世代は、成人領域の方で診ていかないといけないと思っています。

後天性血友病の診療についてご教授ください。

野村先生文献では100万人に2~3人というイメージですが、実際の臨床現場ではその10倍位はおられ、重症の方が多いです。1回コントロールできたらとんでもない出血症状になることは少ないものの、抗体がなかなか消えなくてAPTT※2が延長するケースは結構あります。当院でこの10年間に診療した後天性血友病について論文を投稿する準備をしています。

※2 APTT:内因系の血液凝固能力(凝固時間)を測定する検査で、内因系に関わる血液凝固因子のいずれかが不足したり機能が低下したりするとAPTTが延長します。

今後、目指したい診療体制について教えてください。

野村先生包括医療を進めるとともに、重要なのは小児科から内科へのトランジションですね。我々が今とにかく言っているのは「とりあえずキャッチボールしようよ」と。小児科から来ると内科の先生が怖いというお子さんもおられ、小児科に戻りたいというケースもあるかもしれないので、そういう時には小児科の先生に顔を出してもらうとか。少しずつ慣れてもらう診療体制を作っていこうと話しています。

吉岡先生「トランジション」は預けてしまうこととか、小児科を卒業して内科にいってしまうように捉えがちですけど、医療は継続ですから「キャッチボール」の感じはこれからも大事にしていただければありがたいですね。

(2021年7月記)
審J2107087

野村 昌作先生
野村先生
関西医科大学附属
所在地
〒573-1191
枚方市新町2丁目3番1号
TEL:072-804-0101(代表)
http://www.kmu.ac.jp/hirakata/

奈良県立医科大学名誉教授・前学長 吉岡 章先生からひとこと

大学病院の血液(腫瘍)内科が血小板や凝固・線溶領域を専門とすることは数少ない中で、関西医大では野村教授のご指導の下、広く血栓止血、血栓症に力を入れてくださっています。近年、血友病包括外来を開設され、各科の若手医師も参加してくださり、益々発展しています。また、重篤な後天性血友病の治療経験も豊富で心強いですね。