Heart Hospital

鹿児島市立病院小児科 新小田 雄一先生

血友病との関わりや診療状況

血友病を診るようになったのはいつからですか。

新小田先生2009年9月に鹿児島市立病院に赴任してからです。当時、多くの血友病患者さんの診療をなされていた川上清先生からご指導いただき、自然に私も一緒に診るようになりました。現在は血友病Aが19名、血友病Bが7名、インヒビターに対する治療は3名に行っています。通常10代後半になると小児科から血液内科に引き継ぎますが、一部の方は引き続き小児科で診療しています。

他科との連携はどのようにされていますか。

新小田先生年に1度ほど、整形外科の先生にも協力いただき、レントゲンなどで評価をしてもらっています。まだ不十分な面はありますが血液内科、整形外科に加えて、歯科とも計画を立てて治療することもあります。また、診察での連携はまだですが、産科の先生にお願いして、鹿児島県内の産科勉強会で血友病保因者の出産について講演をしました。

鹿児島県という地域性、特色

地域の特徴や離島が多いなど、鹿児島県特有の課題とどのように向き合っていますか。

新小田先生鹿児島県は、薩摩半島と大隅半島に挟まれるように鹿児島市があり、陸続きなのに通院に2時間以上かかる地域もあります。そのため、初診や診療方針の相談を私たちが担当し、普段は患者さんが住む地域の連携施設で診療し、年に数回は当院を受診していただいています。
鹿児島県には26の離島があり、例えば奄美大島の県立病院までは直線距離で約370km、鹿児島市内から広島県へ行くほどの距離があります。今のところ、離島の患者さんは1人だけですが、過去には鹿児島市内に転居してきた患者さんもいました。少しでも負担軽減を目指して、鹿児島県のこどもたちの医療をサポートする目的で「NPO法人こども医療ネットワーク⦆https://kodomoiryo.jp/」を、鹿児島県の小児医療関係者を中心に有志が集まり設立しています。

県内の他病院との協力体制を教えてください。

新小田先生鹿児島大学病院とは、10代後半の血友病患者さんを引き継ぐ際に血液内科と連携しています。小児の血液グループとは、悪性腫瘍等の診療で協力体制を組んでいます。腫瘍性疾患の初診は大学病院にお願いし、非腫瘍性疾患や症状が落ち着いた腫瘍性疾患の患者さんを私たちが診療することで役割分担しています。また開業医を含めた地域の病院との協力体制も不可欠です。

血友病診療の現状について

定期補充療法の導入時期、家庭注射、自己注射の指導方法について教えてください。

新小田先生定期補充の開始は1歳から2歳までを目安にして「できる時にやろう」という感覚です。お近くの方なら週3回ほどの頻度で来院し注射をされています。家庭注射は個人差も大きいのですが早い子なら3、4歳くらいからで、自己注射は中学校入学前には自然にできている感じです。自己注射の練習は私たちだけでは対処できないので、近隣の開業医さんなどが患者さんとともに練習をし、小さなお子さんたちへの対応をなさってくださり、助けられています。

軽症・中等症の患者さんの診療で難しさを感じることがあれば教えてください。

新小田先生中等症の患者さんで最初は予備的補充をしていたのですが、就学し高学年、中学校へと上がると運動量、活動量が増え出血回数も増えたので定期補充療法を導入しました。しかし、ある程度年齢が上がると自分の判断で中断してしまう場合もあり、そこが難しいですね。将来40代や50代になった時、関節機能障害を発症する可能性があるので、軽症・中等症の方でもなるべく出血を起こさないように予備的補充や定期補充療法を行うと良いのではないかと思っています。

製剤について感じていることはありますか。

新小田先生患者さんが普段生活されている地域の病院で製剤を処方されていることが多いので、その患者さんがいつも使用している製剤を当院でも継続することを念頭に置いています。私から患者さんや開業医の先生、薬剤部の先生方に製剤についてご説明する場合もあります。患者さんの生活に合わせて製剤を選択できるよう工夫しています。

これから目指す血友病診療

院内・院外に関わらずどのような診療体制を目指していますか。

新小田先生将来的に九州地区の「連携ブロック拠点病院」である福岡県の産業医科大学病院と連携したいと思っています。他県の病院では、年に1回ほど産業医科大学病院へ行き研修されているところもありますが、私たちは距離や時間的な問題もあり実現できていないのが実情です。これまで治験等での連携はありましたが、今後はより連携を強化していきたいと思います。

新型コロナウイルスが流行している状況ですが、血友病診療でのご苦労はございますか。

新小田先生鹿児島県はまだ首都圏等に比べて医療状況が逼迫してはおりませんので、日常診療についてそれほど苦労はしていません。ご家族から受診の間隔を延ばしたいというご連絡があり、多めに製剤を処方するなど対応しています。

現状の課題や血友病医師の育成についてどのように考えていますか。

新小田先生最大の課題は、マンパワー不足です。鹿児島市立病院は小児血液・がん学会の認定施設のため興味、関心がある医師が来てくれるチャンスもあります。現在、鹿児島で活躍している医師のひとりは、患者でもあるため両方の立場から家族会の立ち上げに尽力してくれましたので、将来的には後を託したいと思っています。育成については患者さんを診る機会を増やすのが何より大切です。当院は小児科の救急指定病院でもあるので救急外来にも血友病患者へのマニュアル、ガイドラインを徹底するなど、育成というよりは地道に知ってもらっています。

最後に、家族会はどのような活動をされていますか。

新小田先生2017年に始まりました。前述の患者でもある医師が、講演会、自己注射練習、交流会を行い、半年後に2回目の家族会を鹿児島市立病院で開催した際には私も講演させていただきました。3回目は昨年(2019年)の2月に行いました。
発足して3年あまりの会ですが、現状、医療者主導の会となっていることが課題点です。まだ試行錯誤の段階ですが、将来的には患者さん主体の会にしていきたいです。

(2020Vol.66冬号)
審J2101502

新小田先生
新小田先生
医療法人 上本町ぼく小児科
所在地
〒890-8760
鹿児島市上荒田町37番1
TEL:099-230-7000(代表)
https://www.kch.kagoshima.jp/

奈良県立医科大学名誉教授・前学長 吉岡 章先生からひとこと

鹿児島県は広く、離島もたくさんあって患者さん・家族はもちろん先生方も大変ですが、市立病院と大学病院を中心に病病、病診連携がうまくいっています。行政の支援もありがたいですね。次世代の血友病専門医の育成が順調に進んでいるとのことで患者さんも安心ですね。