Heart Hospital

和歌山県立医科大学附属病院小児科 講師 神波 信次先生

血友病との関わりと地域の診療状況

神波先生はいつ頃から血友病を診療するようになったのですか。

神波先生大学卒業後から血液専門医を目指していたので、研修医時代から先輩に教わりながら血友病患者さんの治療に携わりました。当時はまだ定期補充療法の考え方もない時代だったのですが、何名か血友病患者さんが入院されており、その方たちの診療を通じて血友病を学びました。

和歌山県特有の事情などはありますか。

神波先生当院は県内唯一の大学病院ですので、和歌山県下全域の責任を担っています。しかし、和歌山県は南北に長く地域によっては当院への通院が困難な地域もあります。このため、各地域の中で頼れる主治医をつくり、その先生と連携することが必要だと考え、当科が中心となり「和歌山ヘモフィリアネットワーク」を2008年(平成20年)に結成しました。当時に比べ交通網が整備されましたが、現在も県南部からの通院は車で3時間以上かかるため、地域ごとの頼れる主治医が大切と考えています。

和歌山県での診療状況を教えてください。

神波先生当院に通院されているのは現在8名で、皆さん車で30分程度の地域に住む患者さんです。現在、和歌山県内には定期補充療法が必要な中等症、重症の方が約30名います。血友病Aと血友病Bの割合としては4:1となっています。当院は8名のうち血友病Bが1名です。一方、血友病の類縁疾患であるフォン・ヴィレブランド病については「和歌山ヘモフィリアネットワーク」が現在把握している患者数は3名にすぎず、一般内科で診療を受けていると思われます。今後も患者さんの把握とフォン・ヴィレブランド病の啓発が大切と考えています。

現在の診療体制や課題があれば教えてください。

神波先生私のほか2名の後輩医師が「血液チーム」となり3人で血友病診療を担当しています。最近では血液内科の先生に協力してもらい小児科から内科へのトランジションも始めています。歯科口腔外科とも連携しており、はじめに当院で診察後、以降は患者さんが通院しやすい近医へ紹介しています。現在、標的関節、血友病性関節症を持つ患者さんは少ないのですが、関節エコーを含め整形外科との連携が大切と考えています。

血友病の包括外来についてはいかがでしょうか。

神波先生残念ながら、現在当院では血友病包括外来が実現していません。当院を含め各地域の主治医が患者さんと相談し、必要に応じて血友病診療ブロック拠点病院である奈良県立医科大学附属病院、大阪医療センターの包括外来受診を勧めています。血友病性関節症に対する管理、手術については奈良県立医科大学附属病院に通院される患者さんも多いです。

「和歌山ヘモフィリアネットワーク」がもたらしたもの

患者さん、家族との連携で工夫されていることは。

神波先生現在の患者会「和歌山ヘモフィリア友の会」は「和歌山ヘモフィリアネットワーク」が企画した講演会をきっかけに発足しました。講演会を始めた頃は患者さんも一緒に参加していましたので、講演会終了後に「茶話会」的な患者さん同士の交流が始まりました。病院主体ではなく「和歌山ヘモフィリアネットワーク」から始まった患者会、家族会ということで、和歌山県内の様々な病院の関係者が集まっていることが大切な要素と感じています。

家庭注射や自己注射の指導はどのような方針ですか。

神波先生第Ⅷ因子、Ⅸ因子製剤の家庭注射については、お母さんと相談した上で2歳くらいから練習を始め、3歳になる頃には大多数が達成できています。週1回の通院も大変なことですが、2歳を過ぎると活動量も増え、週1回の補充では出血の心配もある。そうすると、ご家族も家庭注射をやってみようかなという気持ちが強くなるのだと思います。
自己注射は早いケースでは小学校入学時。その子は治療に前向きでした。普通なら小学校4年生以降でしょうか。学校が終わってから週1回外来に来てもらって注射に慣れてもらい、自分でできるまでに半年かからないケースが多いです。患者会などを通じて「先輩」から話を聞いたり教えてもらったりしたことをきっかけに「やってみよう」という気持ちになる子もいます。

製剤についてはどのようにお考えですか。

神波先生私自身は患者さんにすべての製剤を紹介し、相談しながら決めるようにしています。また、これは当院薬剤部の方針でもあります。最近の、第Ⅷ因子製剤の機能を代替する製剤ですと、皮下注射なので、初めて注射するお母さんでも3回ほど練習するとできるようになっていました。

これからの血友病診療

今後の血友病診療で目指すことは。

神波先生血液内科の先生方とは、小児血友病患者さんのトランジションや、成人に多い後天性血友病の診療を通じて連携体制を築いています。小児科医には不慣れな関節エコーの実施など整形外科の先生方との連携が今後大切です。関節の画像評価などは院内外でのコンサルテーションシステムができればと考えています。今後も「和歌山ヘモフィリアネットワーク」を基点に多くの診療科、職種と連携していきたいです。

保因者への診断、検診はどのようにしていますか。

神波先生治療が必要な場合もあるため、保因者に対しては症状の聞き取りを重視しています。保因者診断には遺伝外来の先生にも説明、カウンセリングをお願いし、家系図を確認しながらお話をすることもあります。当院で実施できるのは凝固検査までで、遺伝子診断についてはご家族と相談し、希望があれば遺伝子検査ができる専門施設へ紹介しています。

和歌山医大病院小児科としてのモットーは。

神波先生「和歌山の血友病のこどもはみんな明るい!」がモットーです。病院に行くだけでも辛いし、まして注射の怖さ、病気と向き合うことの不安をどうサポートできるかが大切と考えています。各医師のレベルアップ、院内他科や血友病診療ブロック拠点病院とのスムーズな連携を行いながら中核病院としての責任を果たすとともに、患者さんの生活を最優先に考えられる体制を整えていきます。

(2022年3月記)
審J2203303

神波 信次先生
神波 信次先生
和歌山県立医科大学附属病院
所在地
〒641-8510
和歌山市紀三井寺811番地1
TEL:073-447-2300(代表)
https://www.wakayama-med.ac.jp/hospital/

奈良県立医科大学名誉教授・前学長 吉岡 章先生からひとこと

神波先生は長年に渡って血友病診療に尽くして来られています。患者さんお一人お一人の条件・状況、環境に合わせた丁寧なご診療で、“和歌山の子どもたちはみんな明るい”こと、とてもいいですね。幼児期からの家庭注射の実施や「和歌山ヘモフィリアネットワーク」も先生のご経験やお気持ちが込められていて、患者さんもご両親も安心ですね。