風の音~輝く星たち~

私の血友病診療の素懐 ー診療と経験を通しての思いー

<追悼と血友病診療の原点>

先日の春の日、40年以上にわたり共に歩んできた患者さんが、脳出血のため亡くなられました。事故による頭部外傷が原因であり、避けがたい出来事ではありましたが、胸が深く痛みました。白く咲くカラタチの花が、まるでその方の魂のように静かに咲き誇っていました。

私が本格的に血友病患者さんの診療に携わるようになったのは、1986年頃でした。1984年、私は文部省(現:文部科学省)の招待を受け、徳島大学で1年間の研修を行いました。当時、そこでは血友病患者さんに対して精製された血漿凝固因子製剤が使用されており、非常にうらやましく感じました。

その年の秋には、獨協医科大学主催の日本小児科学会が栃木県で開催され、韓国から参加された教授方と血友病診療について語り合いました。その後、帰国して血友病センターを開設し、本格的な診療を開始することとなりました。

<制度改善と財団設立への歩み>

1988年頃には韓国血友病リハビリテーション協会を設立し、それまで一部保険適用、あるいは部分的な政府支援にとどまっていた血液凝固因子製剤について、保健福祉部との協議を重ね、患者さんの自己負担を20%とする制度の実現という大きな成果を収めました。

それ以前の治療は、輸血や凍結血漿を中心としたものでしたが、1989年には第VIII因子製剤、1990年には第IX因子製剤が、韓国国内の製薬会社によって生産・供給されるようになりました。

しかし、薬は高額であったため、経済的な理由から十分な治療を受けられない患者さんも多く、痛ましい状況が続いていました。また、専門的な治療体制の必要性も提起されるようになり、許永燮(ホ・ヨンソプ)会長の提案により、韓国血友病財団が設立されました。

専門医と多職種による包括的治療が始まったことで、患者さんたちの生活には大きな変化がもたらされました。長い間、孤独な道を歩んできた患者さんとご家族は希望を抱き、もはや社会から疎外されることなく、社会の一員として堂々と生きていくための第一歩を踏み出したのです。こうして、血友病患者さんと財団による新たな歩みが始まりました。

<学術交流と東アジアの連携>

財団の設立を機に、診療だけでなく学術活動も活性化しました。2001年には、血友病国際学術大会がソウルで開催され、吉岡章教授による「血友病の遺伝子治療」の講演をはじめ、世界的に著名な教授陣による講演が行われました。

これを契機として、2008年には吉岡教授らとの協議のもと、第1回東アジア血友病フォーラム(EAHF:East Asia Hemophilia Forum)がソウルで開催され、次いで2015年には奈良で開催されました。その後も、台湾や中国との強い連携関係を築きながら、互いの経験や知見を共有し続けています。

<財団での実践と包括的治療の大切さ>

私は全南大学校医科大学を退職した後も、そのご縁により韓国血友病財団で活動を続け財団が患者さんに寄り添う存在となれるよう、今も努めています。

定期補充療法や個別化治療のための薬物動態検査、自己注射などについて積極的に広報・教育を行った結果、定期補充療法を実施する患者さんは大きく増加しました。一方で、いまだ適切な治療が十分に行えていない患者さんも少なくなく、継続的に説明や教育を続けています。

全ての治療、とりわけ血友病治療においては、多分野の専門家が連携する包括的治療が不可欠であると考えます。そのため、財団医院と総合病院との有機的連携を維持することが重要であり、心理療法や作業療法なども必要となることから、可能な限り各分野の専門家に患者治療へ関わっていただいています。

<感謝と患者さんへの願い>

これまで助けてくださり、今も惜しみなく支援してくださっている皆様に、この場を借りて深く感謝申し上げます。

また、毎月、保護者向け教育や子ども向け体験プログラム、新規患者さんご家族への教育、中高年患者さんを対象とした心理教育・相談プログラムなどを実施し、さまざまな年代の血友病患者さんとそのご家族の情緒的な安定に努めています。

哲学者フリードリヒ・ニーチェは「身体を軽蔑する者は尊敬されることはない」と語っています。

最も大切なのは、患者さんが自分自身を愛することです。自分を愛さなければ、日々の生活の中で健康を維持することはできません。常に自分自身を愛し、自分を愛する人であってこそ、他者を愛することができます。そして重要なのは、今を大切にし、常に希望を持って生きることです。また、自分が信じてきたものへの信頼を持ち続けることであると考えています。私は、そのような思いが人生において大切であると考えながら、患者さんの診療にあたっています。


東アジア血友病フォーラム2025 in奈良にて撮影(左より)吉岡 章先生、ファン・テジュ先生

東アジア血友病フォーラム2025 in奈良にて撮影
(左より)吉岡 章先生、ファン・テジュ先生

(2026年Vol.82)
審J2608105

黃 泰周さん 全南大学校医科大学名誉教授
前韓国血友病財団理事長