風の音~輝く星たち~

血友病患者さんの関節保護とより良い生活のために

関節保護のために大事なこと

・スポーツ ・定期健診 ・出血後の対応

スポーツ

スポーツといってもいくつもの種類があり、血友病患者さんにはどのスポーツがよくて、どれが悪いというのは一概には言えないのも事実です。個人の生活環境や血友病重症度、それまでの出血回数や関節障害の度合いにより行わない方がよいスポーツもあるでしょう。しかし、どのような状態でもしっかりとした止血管理さえできていれば行えるスポーツはあります。National Hemophilia FoundationのPlaying it Safeを参考にいくつか例を挙げています(表1)。最近の研究による凝固因子活性の目安値も参考にしてください(図1)。ただし、これらの値はあくまでも目安値であり実際の運動時の投与に関しては主治医の先生とよく相談したうえで行うようにしてください。

表1 スポーツと出血リスク 表1 スポーツと出血リスク National Hemophilia Foundation「Playing it Safe」より抜粋

定期健診

血友病性関節症はレントゲンで明らかな所見がみられる頃には既に関節破壊が進んでいるため、レントゲンで所見がみられる前に治療することが重要になっています。エコーを用いた関節評価では微小出血によって生じた血腫や軟骨や滑膜などのレントゲンでは評価できない初期の変化を観察することが可能です。また出血は人によっては違和感のみで終わるような軽微な出血の方もおられます。そのため、年に1回でもよいのでエコーなどの画像診断装置を使用して自分の関節をチェックすることがお勧めです。少しでも変化があれば製剤の検討や生活状況の見直しなどが出来ることからより良い関節保護のための行動が取れるという利点があります。エコーは高価な機械で、かつ測定するためには熟練した技術が必要となるためどこの病院にでも置いてあるわけではありませんが、近年血友病患者の関節評価のためのエコーの使用が広く普及され始めていますので、一度主治医の先生に相談してみてもよいかもしれません。

図1 関節症のない患者の活動時の最低限の因子活性値()と理想的な因子活性値()(文献1より改変) 図1 関節症のない患者の活動時の最低限の因子活性値(-)と理想的な因子活性値
文献1.Haemophilia 26(4):711-717. 2020
関節出血を繰り返し、関節障害を起こし筋肉が萎縮して最終的に人工膝関節となった血友病患者の下肢
関節出血を繰り返し、関節障害を起こし筋肉が萎縮して最終的に人工膝関節となった血友病患者の下肢

出血後の対応

血友病出血後の処置としてはRICE処置が有名ですが、RICEとはRest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(患肢挙上)の4つの処置のことを言います。もともとはスポーツ現場での応急処置として行われる処置の原則ですが、その後Protection(保護)を加えたPRICEが提唱され2012年には更にPOLICEという概念が提唱されました。POLICEはProtection、Optimal Loading(適切な負荷)、Ice、Compression、Elevationの頭文字からなります。Optimal Loadingとは、必要以上に安静、固定をすると筋肉の萎縮や関節の拘縮などの弊害が生じることがあるため早期から適度な運動を行うことで、筋肉の萎縮を予防し組織修復の質を改善することが期待されます。このPOLICEという考え方については血友病の出血後にも応用できる考え方だと思われます。出血直後でまだ腫脹や熱感が残っている状態では疼痛もあるためRICE処置の考え方で対応することは間違いないのですが、過度な安静は筋委縮を引き起こすことで関節の可動性と安定性を低下させ、ターゲットジョイントと呼ばれる出血しやすい関節になる可能性が高まります。これを避けるためにも適切な止血が得られ、疼痛や腫脹などの症状の軽減が得られた段階では安静にするのではなく、適切な負荷をかけながらゆっくりと関節を動かしていく必要があります。

(2021年Vol.69冬号)
審J2111180

岩城 大介 広島大学病院
診療支援部 リハビリテーション部門
理学療法士