患者さんと医師の座談会

◆開催日:2018年12月1日(土)
◆開催場所:一般社団法人日本血液製剤機構本社

重症筋無力症(MG)は全身の易疲労性と筋力低下を主症状とする自己免疫疾患である。MG症状は分布がさまざまで、患者さんの活動負荷や時間によっても変動するため、周囲に認識されず理解が得られないことも多い。
また、MG症状はほぼ生涯続くため、長期にわたる治療やその副作用により、就労や対人関係などで社会的不利益を被ることが少なくないことも明らかになっている。
本座談会では、MG患者さんの実体験をもとに、MG治療における課題とその対策について専門医と話し合っていただいた。

*すべての患者さんが同様の症状や不安感を示すわけではありません。

出席者

  • 村井 弘之 先生の写真
    医師
    国際医療福祉大学
    神経内科
    村井 弘之 先生
  • 長根 百合子 先生の写真
    医師
    総合花巻病院
    神経内科
    長根 百合子 先生
  • 小嶋さん(仮名)の写真
    患者
    小嶋さん(仮名)
  • 高山さん(仮名)の写真
    患者
    高山さん(仮名)

受診のきっかけと現在の状況

小嶋さん
小学校に入る前にも一度診断されたらしいのですが、自分がMGと知ったのは、大学に入学してからです。まぶたが勝手に閉じてくることに気づき、受診して、自分がMGであることを知りました。この時は胸腺の摘出とステロイドで寛解しました。それから10年くらい経過して、今度は全身の脱力感や呼吸苦が現れるようになり、再度病院を受診し、治療を受けています。
高山さん
私はおよそ17年前に発症しました。突然転んだり、腕が上がらなかったり、のみ込みが悪かったりということが1年くらい続いていて、そのまま放置していたのですが、眼瞼下垂の症状を機に病院を受診し、MGと診断されました。受診後、胸腺の摘出と血漿交換を行いました。一旦改善したものの、すぐ眼瞼下垂や易疲労性が悪化し、血漿交換、ステロイドパルス療法を何度も繰り返したため、ステロイドのほかに免疫抑制剤も使うようになりました。最近は、入院回数は減りましたが、症状が悪化したとき速効性治療で治療しています。

日常生活で困ること

小嶋さん
何をするにも疲れやすく、時間がかかります。頭の中で思い描くスピードに体がついていかないような感じがします。ペットボトルも開けられないときがあります。また、声が十分に出せず、全部鼻に抜けていくような感じで喜怒哀楽も十分に表せません。
高山さん
私もやはり疲れやすいです。階段が上れないときもあります。また、握力がないので、包丁を使っていてひっくり返してしまったり、茶碗を洗っていて飛んで行ってしまったりといったことがしょっちゅうあります。また、洗濯物を干しているうちに腕が上がらなくなって嫌になり、途中で諦めて、回復するまで休憩することがあります。それから、普段買い物をするときは、やはり家族と一緒に行かないと荷物が重く、持てなかったりするので、買い物は家族と一緒に行くようにしています。
小嶋さん
座談会の様子私も家族と一緒に買い物へ行くことはもちろんですが、解決策としてネット通販を利用することも多いです。それから、ドライヤーを使うのも歯磨きも一苦労ですね。20分程度ですがドライヤーを持ち続け、髪を乾かす作業をすることができません。ドライヤーを置いたり、肘をついたりして、休み休み乾かします。
高山さん
歯磨きは、5分から10分程度の作業ですが、細かな反復運動を続けると疲れてしまうため、休憩をしながら、肘をついたりして行っています。

ステロイドの副作用について

小嶋さん
ステロイドの服用量が多い時は、訳もなく悲しくなったり、涙を流したりしていました。減量後、あの時は鬱状態だったのだと思い当たることがありました。さらに、ステロイド服用中は容姿が変化するため、人に会いたくない、外に出たくないという気持ちになります。ステロイド服用時は、外出時のマスクと帽子は必須でした。ないときはできるだけ人に会わないようにしていましたが、会ってしまうと、「もっと痩せなさい」と言われ、それでまた、外に出るのが面倒になりネガティブになって外出しなくなるという悪循環になっていました。
高山さん
私もステロイドは服用していましたが、幸いなことにあまり鬱にはなりませんでした。入院時、主治医に患者同士で散歩するよう指導していただいていたので、患者同士で話ができたのも気分転換になったのかもしれません。
ただし、容姿の変化は、子どもの学校行事の時に、同級生のお母さんから尋ねられるのは嫌でしたね。「ああ、来なければよかった」と思うことは多々ありました。買い物に行くことは好きでしたが、外出時にマスクは手放せませんでした。
現在はステロイドの服用を中止できているため、容姿の変化は気にならなくなりました。
長根先生
座談会の様子ステロイドの副作用には鬱症状だけでなく、気分変調もあります。またMGは発症から間もない時期に症状が最も動揺しやすいのですが、患者さんご自身がその状況をうまく理解できず、精神的に不安定になりやすくなります。この時期は呼吸苦などを訴え、救急搬送される患者さんも少なくありません。
村井先生
治療法がステロイドくらいしかなかった頃は、高用量投与は当たり前で、患者さんには、顔が丸くなるのは我慢しましょうとお伝えしていました。今から思うと、罪なことをしていたと思います。

MGに対する社会の理解

小嶋さん
私は神経内科で診てもらっていますが、神経内科と心療内科を混同している人が多いです。「私は神経の病気です」と言うと、妙な雰囲気になるので、「私は筋肉の病気です」と説明するようにしています。また、外からは症状がわかりにくいため、つらさをわかってもらえません。病名に“重症”とついているので、物々しく聞こえるのですが、まったく理解されません。
村井先生
医師側としては、精神科、心療内科との混同を避けるために、神経内科という診療科名を変えようとしています。脳神経外科のように、“脳”をつけて、“脳神経内科”に変えつつあります。いろいろな地域で市民公開講座などを行い、疾患を広めていく努力はまだまだ必要ですね。

MGと就労状況

高山さん
MGと診断された時、職場に相談したのですが、「難病ということであれば、いつ退院できるかわからないだろう。次の人の補充が必要なのかどうかもわからないのであれば辞めてください」と言われました。結局、通常使える有給休暇も使えず、退職することになりました。
長根先生
上司や同僚に病気のことを伝えられずにいる人も多いですね。
小嶋さん
私は、会社勤務は無理だと考えて資格を取り、自宅で仕事をしています。病気のことは隠さず、周りに伝えるようにすると、協力が得られることも多いです。
高山さん
患者会では、就職するときは病気を隠さないように、今、隠して働いている人でも折を見て上司に話すように勧めています。伝えておかないと、突然クリーゼになったときや症状が悪くなったときに、対処が遅れ危険となる場合もあるからです。

もっと患者の声に耳を傾けて

高山さん
他のMG患者さんからお話を伺うと、担当医から「自分はMGの専門じゃないから」と言われ、突き放されたように感じたことのある患者さんも少なくないようです。神経内科は難病が多く、何らかの疾患を専門とされている先生が多いとは思いますが、患者の前でそれは言ってほしくないと思います。
小嶋さん
治療に関してもそうですが、あれも駄目、これも駄目ではなく、いろいろ提案していただけると、患者は非常に気が楽になります。以前、入院中にご飯が食べられなくなった時に、主治医が一緒にいろいろ考えてくれたのはとてもよかったです。

MGと治療によって被る社会的不利益

長根先生
日本MGレジストリー(国内13施設)で実施した、2015年調査の対象となったMG連続例に対するアンケート調査の結果は、今日のお二人の経験が反映されていると思います。患者さんご自身が感じる社会的不利益の原因についての検討では、失職、配置転換にはMG症状のコントロール不良が強く影響していましたが、そのほかにも長期にわたる入院や、何年も続く通院といった治療スタイルも影響していることがわかりました。難病に対する周囲からの偏見も関連していました。収入減少についても同様です。また、社会的積極性低下には、ステロイド内服による抑うつや気分・性格の変化、ステロイド内服による容姿の変化、難病に対する周囲からの偏見が有意に関連していました(表)。
表 患者自身が感じる社会的不利益の要因

社会的不利益各項目への有意関連因子

:Spearman rank correlation(p < 0.001 and r ≥0.15)
:多変量解析

失職または配置転換

  • MG症状のコントロール不良
  • 長期(>1カ月)にわたる入院治療
  • 何年も続く外来通院
  • 難病に対する周囲からの偏見

収入減少

  • 長期(>1カ月)にわたる入院治療
  • 何年も続く外来通院
  • 糖尿病、骨粗鬆症などの併発、悪化

社会的積極性低下

  • ステロイド内服後に生じた抑うつや気分・性格の変化
  • ステロイド内服による容姿の変化
  • 難病に対する周囲からの偏見

対象・方法:日本MGレジストリー(国内13施設)2015年調査の対象となったMG連続例923例にアンケート調査を行い、917例から有効回答を得た。その結果を客観的臨床パラメータと併せて解析した。
Nagane Y, et al. BMJ Open 2017;7:e013278.

まとめ

村井先生
私は普段の診療でどういう点に困っているかを聞くようにしていますが、今日お二人が話されたことは、実際の病勢を知るために、MGの治療をされている先生方にぜひ知っていただきたいことが含まれていたと思います。今日の内容にあるようなことに気をつけて問診していただけると、より診断や病勢の評価につながると思います。
長根先生
患者さんの社会的不利益を避けるためには、症状の早期改善とステロイドの減量の両立を図っていくことが重要ですが、それに加えて、職場や生活環境の調整、周囲の理解、患者会などの支援ネットワークの活用も重要になってくると思います(図)。
図 MG患者の社会的不利益を避けるために MG患者の社会的不利益を避けるためにの図

*MM or better-5mg:minimal manifestations(軽微症状)の改善度、かつ経口プレドニゾロン服用量が5mg/日以下である状態[重症筋無力症診療ガイドライン作成委員会編集:重症筋無力症診療ガイドライン2014(日本神経学会監修)、2014、南江堂]

提供:長根 百合子 先生