• 腰痛3

Training 11腰痛3

今回は重量物を取り扱う作業前に行う腰痛予防の準備運動についてのお話です。はじめに、体幹の筋活動についての運動生理学的な説明です。脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)や腹直筋(ふうちょくきん)などの表層の筋肉を「グローバル筋」と呼び、脊柱に近い腹横筋(ふくおうきん)や多裂筋(たれつきん)などの体幹部の深層の筋肉を「ローカル筋」と呼びます。グローバル筋は、大きな筋肉で、大きな力を生み出します。これに対してローカル筋は比較的小さな筋肉が多く、あまり大きな力は出ませんが、主に脊柱の構成(アライメント)が崩れないように調整の為に働きます。例えば、2リットルのペットボトルを持ち上げようとするとき、準備段階で頭の中ではこれまで経験したことのある「重さ」を想像して全身的に筋活動が始まります。次に手を伸ばして腕を動かしますが、じつは腕を動かす前にローカル筋が働きます。これは腕を動かすときに連動して脊柱が動くので、脊柱の構成(アライメント)が崩れないように、脳が記憶している運動経験から次の動きを予測して無意識下でローカル筋の筋活動が起こると考えられています。そして実際に物を把持(はじ)すると、今度はグローバル筋が働き出します。グローバル筋が働くと脊柱にはさらに負荷がかかるので、アライメントを維持するためにたくさんのローカル筋が働きます。このローカル筋活動の連動のタイミングが遅れると、脊柱にかかる力に耐えきれず、椎間関節や椎間板にダメージを生じます。腰痛症のある方は、特にこのローカル筋の初期の予測活動がうまく働かず、脊柱のアライメントが崩れやすいことがわかっています。

グローバル筋とローカル筋

  • グローバル筋とローカル筋がバランス良く脊柱のアライメントを保っている状態
  • グローバル筋とローカル筋の連動不良で脊柱のアライメントが崩れてしまった状態

重量物を持ち上げる、引く、押す、運搬する動作はいずれも腰部に大きな負担が生じます。身体を曲げた状態で作業する場合やひねる動きが加わる作業では、さらに負担が増加します。食事、更衣、整容、トイレ、入浴などの普段の生活動作ではあまり使わない筋力や動きが必要となるので、筋・筋膜がダメージを受けて腰痛を生じるリスクが高まります。そこで、普段使わない筋肉に賦活刺激(ふかつしげき)を与え、脳へ準備を促し、筋活動の連動が起こりやすくなる状態に導くために準備運動がとても役に立ちます。

準備運動の実例

  • 取り扱う物の重さ、持ち上げ動作を頭でイメージします。

    身体の反応が始まり、 力が出しやすくなります。

  • 何も持たずに実際に行う動きを2~3回繰り返します。

    グローバル筋とローカル筋の連動がスムーズになります。

ストレッチ運動を行います。

各動作とも左右行い、反動をつけずに各ポーズを20秒間維持します。

時間がほとんど無いという場合でも、①と②は最低でも行うことを推奨します。特に一度でも腰を痛めた経験がある方は、腰痛再発予防のために作業前にしっかりと準備体操を行っていきましょう。(厚生労働省の腰痛予防対策指針抜粋)