麻酔科医は
手術室から外へ出ろ
集中治療というフィールドが麻酔科医を磨く
谷口 巧 先生
金沢大学医薬保健研究域医学系
麻酔・集中治療医学
\麻酔科集中治療科医としてのモットー/
For the Patient, For My Family
【現職】(2026年6月時点)
金沢大学医薬保健研究域 麻酔・集中治療医学分野 教授
金沢大学附属病院 副病院長
【資格】
日本集中治療医学会専門医、日本麻酔科学会専門医・指導医、日本救急医学科専門医・指導医
Introduction
麻酔科医へ問う。
自分が麻酔を投与した患者さんの術後に「知らんぷり」でいいですか?
麻酔科医の仕事は、手術室のドアが閉まった瞬間に終わるものなのでしょうか。「術後は主治医にお任せ」というスタイルが定着しつつある今、谷口巧教授は「それでは麻酔科医の本当の力は発揮できない」と断言します。導入回となる今回は、麻酔科医が本来目指すべき「周術期管理医」というあり方、そして手術室の外へ出ることがなぜ医師としての成長に不可欠なのか、その真意を伺います。
麻酔科医の本質は「周術期管理医」。手術室の住人ではない
先生、本日はよろしくお願いします。本連載は「麻酔科医は手術室から外へ出ろ」という、かなり刺激的なタイトルです。これは先生が日頃からおっしゃっているお言葉でもありますが、まずはその真意から伺えますか?
谷口先生 タイトルの意味はね、今の麻酔科医は「手術室の住人」になりすぎていないか、ということ。そもそも、麻酔科医の本質は「周術期管理医」ですから。
周術期管理医、ですか。
谷口先生 そうです。手術だけできればそれでいいわけではない。術前、術中、そして終わってからの術後。これらすべてをこなして初めて「周術期管理医」といえるのです。麻酔科医にとっては手術室がメインステージかもしれませんが、患者さんからすれば、術前術後の数週間、数ヶ月が「周術期」なわけです。その長いスパンの中で、手術室のたった数時間だけを見ていればいいという風潮に、警鐘を鳴らしたいと思っています。
「手術が終わって送り出せば一区切り」と考えてしまう先生も少なくないかもしれませんね。
谷口先生
それは麻酔科医の「驕(おご)り」ではないでしょうか。「麻酔の手技が完璧なら、術後は関係なく予後は良くなる」なんて言う人もいるけど、本当にそうでしょうか。
手術室ほど恵まれた環境はないでしょう。外科医がいて、看護師がいて、機材も揃っている。でも、患者さんが一番アップダウンしやすくて、管理が難しいのは「術後」なのです。
手術室の外の方が、実は過酷な戦場だと。
谷口先生 その通りです。自分の麻酔がその後にどう響いたのか。患者さんがどう回復したのか、それとも苦しんでいるのか。術後を診ないということは、自分の麻酔が正しかったかどうかの「答え合わせ」を放棄しているのと同じではないでしょうか。
耳が痛い先生も多そうです……。ただ、若手の先生方には「手術室の技術を磨くので精一杯」という事情もあるのではないでしょうか?
谷口先生
もちろん、手術室の管理がメインなのは事実です。でも、手術室だけで完結していたら、見識もスキルも広がりませんよ。
うちの病院(金沢大学)では、専門医を取るまでに必ず半年から1年は集中治療をやってもらいます。麻酔科、循環器科、外科、救急科……いろんなスペシャリストが「患者」というピラミッドの頂点のために集まるICUで揉まれてきてほしい、と送り出すのです。
他科の視点に触れることで、麻酔科医としての腕も磨かれるわけですね。
谷口先生 そうですね。だいたい医者になって6年目、7年目あたりが分岐点になるでしょう。手術室から外へ出て、広いフィールドで自分を磨く。それが一人の医師として、劇的に成長する一番の近道だと思います。
手術室の外に出ることで、麻酔科医としての「答え合わせ」ができるということですね。次回は、その「外の世界」である集中治療の現場が、具体的にどう周術期管理の質を変えていくのか、さらに深掘りしていきたいと思います。
術後まで診て初めて、自分の麻酔の正しさがわかる。
(審J2606058)

