CLOSE UP HEART

第28回 血友病と生活習慣病について

本誌監修の吉岡章先生が専門医(家)にインタビューし、一つのテーマを深く掘り下げる「クローズアップ・ハート」。第28回は、血友病と生活習慣病について、関西医科大学附属病院の長尾梓先生にうかがいます。血友病患者さんの生活習慣病のリスクや、治療の方法などについて話していただきました。

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関西医科大学附属病院
血液腫瘍内科
診療講師
長尾 梓先生
長尾 梓先生 プロフィール
  • ●2009年~2011年 荻窪病院 初期臨床研修医
  • ●2011年4月~2025年 3月 荻窪病院 血液凝固科
  • ●2024年~2025年3月 関西医科大学附属病院 血液内科 医局研究員
  • ●2025年4月 関西医科大学附属病院 血液腫瘍内科 診療講師 ほか 関西医科大学 医学部 講師(診療講師)
病院の写真
関西医科大学附属病院
〒573-1191
大阪府枚方市新町2-3-1
TEL:072-804-0101
URL:https://hp.kmu.ac.jp/

血友病患者さんの高齢化と生活習慣病の問題

吉岡先生定期補充療法の普及や治療薬の進歩によって、血友病患者さんの寿命が健常者と同じくらいまで延び、高齢化が進んでいます。血友病患者さんが生活習慣病などにかかった場合の課題をきかせてください。

長尾先生一番が、やはり血栓症です。患者さんの高齢化が進んだのは最近のことなので、患者さんも医療者も、全員があまり経験のないことです。血栓症が起きたときにどう対処するかという情報が不足しているのが課題です。血栓が起きたときに、血友病でなければ血液をサラサラにする薬を使って治療します。しかしそれを血友病患者さんに使っていいのか、また使った場合はどう血友病の治療をするのか、そのバランスが難しいのです。

吉岡先生そのほかの生活習慣病についてはいかがですか?

長尾先生運動をしない人たちに生活習慣病が増えていくと考えられます。血友病の患者さんは骨密度が低い傾向にあるということも科学的にわかっています。また糖尿病性の腎障害なども増えてきて、透析できるかどうかという問題も出てきています。がんも、一般の方と同じように3分の1ぐらいの人に発生すると思われますが、手術に対応できる病院が限られています。がんで手術をする機会が増えてくると凝固因子製剤を使用する機会や量が増え、インヒビターが発生する問題も出てきます。

吉岡先生血友病患者さんがかかる生活習慣病には何か特徴がありますか。

長尾先生血友病患者さんは健常者より高血圧になりやすいというのは、日本だけでなく海外でも言われています。血圧を測定する機会に気をつけていただきたいと思います。なぜ血圧が高くなるかはあまり解明されていません。それ以外は、40代以上の方を対象にした私の研究では、血友病患者さんは一般の方よりコレステロールも腎障害も少ないことがわかりました。おそらくコレステロールに関しては、採血をする頻度が一般の方より多く、処方箋を受け取る機会も高いために低くなるのではないかと思われます。肥満も、意外ですが少ないのです。

吉岡先生血友病患者さんが脳梗塞や心筋梗塞のような血栓症を発症するリスクは、健常者と比較していかがですか。

長尾先生もちろんなりにくいです。元々血液がサラサラなので。これに関しては研究もけっこう多く、少しずつ増えてはいますが日本人は明らかに少ないです。

吉岡先生血友病の治療が進んで、健常者と同程度の血液凝固因子活性を維持できるようになってきました。そうなれば当然、一般人と同じように血栓症が起こるであろうということが想像はできますね。

長尾先生そうですね。定期補充がしっかりされているから血栓が起きるというようなデータはそれほど多くありません。一方で、患者さんにも医療者の皆さんにもお願いしたいのは、血栓が怖いからといって定期補充の量や回数を減らすことは推奨できません。定期補充をちゃんとしつつ、生活習慣病を予防して血栓を起こさないようにしましょうというのが、大切なメッセージだと思います。

吉岡先生日本と海外、特に欧米の血友病患者さんと比べて、喫煙率、アルコール摂取率、鎮痛薬、それから生活習慣病の罹患率などに、差はありますか。

長尾先生喫煙率に関しては、日本人の血友病患者さんが21.8%で、海外よりは多少低くなっています。一般の日本人の喫煙率と同じくらいです。アルコール摂取率は、海外と変わりありませんでした。鎮痛薬はやはりかなりの人が使っていて40%ぐらい。明らかに一般の方と比べると多いのですが、海外と比較するデータはありません。

血友病治療をしっかりしながら、適切な薬で血栓症の予防・治療を

吉岡先生もし血栓やその疑いがある場合、血液凝固因子製剤は従来通り継続的に使用して問題ないのでしょうか?

長尾先生できれば血液凝固因子製剤をちゃんと使って血友病の治療をしっかり行い、例えばトラフ値(※1)を30%に保った上で、血液をサラサラにする薬を使いましょうというのが私たち研究グループの考え方です。特に動脈硬化などによる心筋梗塞や脳梗塞では、血小板の機能を抑えて血液をサラサラにする薬を使います。なかには、心筋梗塞を起こしているのに、抗血小板薬を使いたくないという理由で治療が行われなかったというお話も聞いたことがあります。これは恐ろしいことです。心臓の血栓は治療していただき、抗血小板薬も使ってもらいます。その分、出血リスクが高くなるので血友病のお薬はしっかり使いましょうと話しています。

※1 トラフ値とは、凝固因子製剤を投与してから次回投与する直前の血液中の凝固因子活性の値のこと

吉岡先生健常者が血栓症を起こした、あるいは起こすかもしれない場合、予防的に血液をサラサラにする薬(抗血小板薬)を使うということがよくありますね。これは血友病患者さんでも必要なのですね。

長尾先生もちろんです。無駄には使って欲しくないですが、血栓症や心筋梗塞を起こした方の、その後の予防には使っていただきたいです。

吉岡先生血友病の止血薬はきちんと使用して、一定の基準以上に近い止血状態を保ちつつ、血栓をつくる血小板についてはその機能を抑えるということですね。「血液をサラサラにする薬」には、動脈系の血栓症を予防・治療する「抗血小板薬」のほかに、静脈系での血栓形成を予防・治療する「抗凝固薬」がありますね。

長尾先生はい。それはきちんと分けて考えなければなりません。静脈系の抗凝固薬の血友病患者さんへの使用は難しいものがあり、薬によっては使えないものもあります。一方、心房細動などではある種の抗凝固薬は一時的には必要になります。一般の方には「血液をサラサラにする薬」というと同じもののように思われていますが、医師がきちんと使い分けることが必要です。

定期的な健診をきちんと受けましょう

吉岡先生生活習慣病にならないために、血友病患者さんが日ごろから気をつけた方が良いことはありますか。

長尾先生これは健常者と同じじゃないでしょうか。運動ができそうでしたら、散歩でも自転車でも水泳でもいいのでほんの少しずつ取り入れていただき、食事に気をつけて、健診で指摘があったら治療を受ける。血友病患者さんでよくみられるのが、普段血友病の診療で採血しているから健診を受けていないという方です。生活習慣病や、特にがんなどは普段の血友病の検査ではわからないので、健診をぜひ受けていただきたいです。

吉岡先生職場や地域の住民健診も含めて、積極的に健診は受ける必要がありますね。

長尾先生血友病の診療に、年に一度ほど大学病院を受診するという患者さんも多いのですが、それが人間ドックに代わるように患者さんに思われては困りますね。きちんと会社の健診や人間ドックなどは受けてほしいものです。

吉岡先生血友病患者さんは割と、小児科の医師が成人になってもそのまま診ていることが多いのですが、小児科医は生活習慣病を診る経験がほとんどないというのが一般的です。一方で内科医も、大人になって内科で診るようになる以前の状態や子どもの成長に関してはあまりご存知ありません。お互いに興味を持っていただきたいですね。

長尾先生そうですね、当院では最近は包括医療体制をひいておりまして、小児科から内科への移行期には、小児科医と内科医の私とで、一つの診察室で同じ患者さんを診て、お互いがどういうことをしているかを見るようにしています。その後も患者さんに両科に来ていただいて、少しずつ小児科から内科へ移動していくようにしています。最近は包括医療体制を作ろうという気運が高まっていますので、小児科、内科をチームとして骨密度も測るようになりました。可能であれば骨密度測定だけではなく、頸動脈エコー(※2)や脈波(※3)なども含めて管理できると、私たちもさらにいい包括医療が提供できると考えています。そういうのを全国に広められるといいですね。

※2 頸動脈エコー検査は、首にエコーを当てて、頸動脈(大動脈から脳へ血液を送る血管)の詰まりや狭窄の有無、動脈硬化の程度を測定する検査。 ※3 脈波は、心臓の収縮によって送り出された血液の圧力変化が動脈を通じて全身に伝わる拍動のことで、脳梗塞や心筋梗塞等のリスク評価に使われる。

吉岡先生それは素晴らしいことですね。

長尾先生海外では一人の患者さんを、内科、小児科、整形外科などで囲む包括医療の報告が多くみられます。医師同士も患者さんも得るところが大きいと思います。

追跡調査で患者さんのこれからを予測し備える

吉岡先生長尾先生が中心となって進められているADVANCE Japan Studyについて、研究の目的、調査、具体的な内容を教えてください。

長尾先生裏付けに基づいたデータを発表してガイドラインに結びつけたいというのが一番の目的で始めました。日本全国の成人施設に登録されている40歳以上の血友病の患者さん600人を10年間追跡調査し、主に心血管疾患の発生率を調査します。それ以外にも、抗凝固薬、抗血小板薬など血液をサラサラにする薬の使用や心血管疾患、血友病も含めた治療の詳細を集め、一般集団との比較をしています。初年度に使用薬品の情報や吹田スコア(今後10年間の冠動脈疾患の発症率)など様々な情報を登録しているので、それと5年目、10年目の比較をするなど、いろいろな角度からデータを集めている研究です。今、半分の5年ほどがたちました。

吉岡先生その研究によって、患者さんと医療者にはどのようなメリットがありますか。

長尾先生まず一番は、それらのデータを反映してガイドラインを作りたいと思っています。ガイドラインができると、さきほどお話ししたような、血友病とほかの疾病を同時に治療する場合にも、どのような薬をどのように使って治療するのがよいといったメッセージを全国に届けることができます。そうすることで患者さんもどこにお住まいでも同じ治療が受けられるようになります。血友病以外に、生活習慣病やがんとか、いろいろな発症データを収集しているので、血友病ではこれが起こりやすいんだと知ってもらうことで、予め気をつけようと意識していただけるかと思います。例えば高血圧になりやすいならば塩分に気をつけようとか、そういうことができると思っています。

吉岡先生今後も血友病患者さんの高齢化が進むことが予想されますが、長尾先生が目指す血友病治療の方向性についてお聞かせください。

長尾先生できれば患者さんが病院にも来ずに血友病を忘れて生活していただくというのが一番の目標です。患者さんの幸せを達成するためにどうするかを一緒に考えていこうというのが私のテーマです。

(2026年Vol.81)
審J2603276