ギラン・バレー症候群(GBS) 関連製剤:ヴェノグロブリンIH

ギラン・バレー症候群の診断

千葉大学大学院医学研究院
神経内科学 教授
桑原 聡 先生

2018年1月掲載
(審J2006211)

―はじめに千葉大学神経内科の特色についてお聞かせください。

桑原先生:
当教室は1978年に設立され、重症筋無力症(Myasthenia Gravis:MG)の治療を当時のテーマとして扱ってきた歴史があります。そのため、日本では脳卒中、アルツハイマー病、てんかん、パーキンソン病が神経内科領域の4大疾患ですが、当院ではこれらに加えて神経免疫疾患も主流です。現在、ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS)、多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)、MGなどの神経免疫疾患が入院患者の約3分の1から半分を占めます。神経免疫専門外来は5人並列体制で行っており、患者さんは関東一円からの紹介が多くなっています。患者数はMSが約300人、MGが約400人、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP)が約50人といずれも全国で最も多い施設のひとつになります。

GBSの疾患概念について

―GBSの疾患概念について簡単に解説いただけますか。

桑原先生:
GBSは先行感染を伴う急性四肢麻痺が中核症状で、免疫介在性の末梢神経障害です。急性四肢麻痺の原因としては、かつてはポリオ(急性灰白髄炎)が圧倒的に多かったのですが、先進国ではワクチンの普及で激減し、現在はGBSが世界的に最も多い原因です。
GBSの発症率は年間で10万人に対して1.15人と推定され1)、日本全国での年間発症者は約1,400人となります。単相性の急性疾患ですので、年間は1,400人の発症でも10年間には約1万4,000人が罹患する計算となります。発症年齢は思春期あたりの若年者と高齢者にピークがありますが、基本的には乳幼児から超高齢者まで全年齢層で罹患します。

―先行感染にはどのようなものがあるのでしょうか。

桑原先生:
先行感染の病歴は約70%でとれますが、GBSは感染のトリガーがないと発症しないため、残りの約30%は不顕性感染と考えられ、症状は目立たなくても何らかの感染があった可能性は高いと思われます。感染症の病歴のある患者のうち約70%が胃腸炎(下痢)と上気道炎で、多数を占めます。
感染源は細菌とウイルスがあります。その中でもキャンピロバクター(C. jejuni)感染が多く、夏と冬にピークがあります。その他にサイトメガロウイルス、伝染性単核球症(EBウイルス)なども比較的多い先行感染因子です。最近話題になっているジカウイルスもGBSを発症しやすいウイルスであり、ジカウイルス流行後に一定の確率でGBSの発症率が上昇し、流行が終焉するとGBSの発症率も減少します。

―先行感染後にGBSが発症するのはなぜでしょうか。

桑原先生:
キャンピロバクターは神経軸索にあるガングリオシドと同じ構造を持つ糖脂質を菌膜上に発現していることが分かっており、その糖脂質に対する抗体(抗ガングリオシド抗体)が産生され、その抗体が交叉免疫により、神経を攻撃することでGBSが発症すると考えられています。おそらくサイトメガロウイルスやEBウイルスも細胞膜表面にヒトの神経系と共通する抗原を持っていると推定されています。
日本におけるキャンピロバクター腸炎の罹患数は毎年数十万人と言われていますが、GBSは100万人あたり10人の罹患率ですので、キャンピロバクター腸炎に罹った人の極一部しかGBSを発症しないことになります。これはヒト神経と似た構造の糖脂質を表面に発現するかどうかという菌株側の問題と、感染した際にそれを認識する抗体を産生するかという個体側の問題との両方が揃わないと発症しないためと推察できます。

GBSの診断・治療の流れ、予後について

―GBSの診断・治療の流れについて簡単に解説いただけますか。

桑原先生:
診断では病歴聴取が最も重要です。約7割は上気道炎か胃腸炎が先行し、約1週間後に急性四肢麻痺が進行しますので、この段階でGBSを疑います。腱反射は一般に消失しますが、軸索型の一部では亢進することがあり注意を要します。次に電気生理学的検査で症状に見合う異常所見が確認できればGBSと診断できます。髄液検査のタンパク上昇も所見としてあげられますが、発症初期では上昇しないことが半数近くあります。また血液検査で抗ガングリオシド抗体の検出を試みますが、来院当日に測定結果がでないため、のちに診断を確認する位置付けとなります。
急性四肢麻痺が起こる疾患との主要な鑑別診断は、前述のポリオとポリオに似たエンテロウイルスなど一部のウイルス感染による脊髄前角炎と、下痢が先行した場合の脱水による低カリウム性四肢麻痺です。当科では病歴所見から神経伝導検査までを約1時間で行い早期診断に努めています。その後、免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)を開始しますが、治療開始が早いほど効果も高く、後遺症も少ないことが分かっています。

―GBSの予後についてお聞かせいただけますか。

桑原先生:
GBSは急性発症して約2~3週の間にピークに達し、その後は自然経過で回復するため、予後良好な疾患と考えられています。しかし実際には死亡率が約5%2)、残り95%の中でも疾病前の状態に戻れる方は4割程度です。人工呼吸管理を要する重症例が約25%1)、さらに治療を行っても発症1年後に重度の歩行障害が残る方が約15~20%1) と、何らかの生活制限が残る方は約60%と言われており、決して予後良好な疾患とは言えません。
死亡原因の大半は呼吸筋の完全麻痺による喀痰排出困難からくる肺炎、敗血症です。残りは四肢筋麻痺による静脈血栓症からくる肺塞栓症です。
最大の予後決定因子は年齢と急性期の重症度で、高齢者(60歳以上)であり、急性期の重症度と進行スピードが速い方は予後不良と言われています。その他、下痢の先行感染、キャンピロバクター感染、電気生理学的所見での複合筋活動電位(CMAP)の低振幅などが予後不良を示唆するとされています。
最重症のGBSの方では随意運動は完全に消失して脳神経から四肢まで麻痺し、外見では脳死と区別がつかなくなります。急性期の時点で少なくとも四肢が完全麻痺になると、6割の方は1年後に歩行障害が残ることが分かっています。

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