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薬剤部長に聞く─大学病院が考える薬学教育千葉大学大学院薬学研究院助教千葉大学医学部附属病院薬剤部石川雅之先生千葉大学大学院薬学研究院助教千葉大学医学部附属病院薬剤部内田雅士先生石井先生や周囲の薬剤師の協力も得て一人ひとりの状況を早めに察知し、指導の機会を逃さないよう心がけています。レジデントも実習生も様々なケースがあり、指導のアプローチの仕方によって結果が変わってきます。こんな考え方をするのか」と勉強になることばかりです。石井先生2人は薬剤師も教員も経験しているので、レジデントや実習生をとてもよく見て理解しています。薬剤師になる人は真面目な人が多いですから、前に進めなくなることがないよう、フォロー体制は教育と同様に力を入れているところです。大学病院のキャリアパスの多様性を活かし新しいロールモデルとなる薬剤師へ―そのほかにこれからの薬剤師に期待することをお聞かせください。石井先生残念なことに、最近の薬剤師はあまり“イレギュラー”な経験をする機会がなく、また、病院薬剤師はどうしても院内ばかりに目が向きがちです。私はそういった状況を変えるためにも、イレギュラーな体験をする機会を院内でつくるようにしています。たとえば、タイからの実習生の受け入れもその1つです。彼らと働いて自分自身を見直したり、新しい刺激をどんどん受けて、今までにはないロールモデルを自分で作っていくことを期待しています。内田先生特に大学病院は新しいキャリアパスを選ぶことができ、そこには多様性があると実感しています。たとえば私は4年制教育の時代で、最初から薬剤師になろうと考えていました。その上で卒後すぐに修士課程から博士課程まで進んだのですが、薬剤師として働きながら乙号で博士の学位を取る薬剤師はいても、私のように甲号で取得してから薬剤師として働く人は周りにはいませんでした。しかし、私の後にはこういったキャリアパスを選ぶ薬剤師もでてくるようになりました。石川先生私の場合は6年制課程の卒業生で、今、乙号で博士の学位取得を目指して研究に力を入れているところです。臨床現場のクリニカルクエスチョンに、基礎薬学を活用して解決策を導き出すことをベースに研究を行っています。そういった考えのきっかけとなったのは、実習で処方提案をする際にエビデンスがほとんどなく、“臨床現場で有用なエビデンスを出す必要がある”と考えたことです。先輩薬剤師から、業務を一生懸命やれば研究は絶対に必要になる」と教えてもらったことにも影響を受けました。しかし、病院薬剤師になってからは薬剤師としてできることがたくさん見えてきたのですが、その一方で仕事がパターン化して限界も感じていました。臨床に活かせる基礎薬学の力をつけて薬剤師として成長しなくてはと思い、いったん距離を置いて視野を広げるために、教員の仕事をしたいと考えました。石井先生薬剤師が自主性を持って方向性を決められるように、当院ではあえて考えを縛り過ぎない育成を心がけています。個々が考えて動くことを重視した囲いすぎない環境は、いわば“放牧”と呼んでもいいかもしれませんね。しかし、そうすると「何を考えればいいかがわからない」という薬剤師もいて、私は非常に危機感を抱いています。もちろん“放牧”と“放置”は違いますから、それぞれの状況をしっかりと判断し、要所要所で適切な指導を行っています。内田先生実はレジデントのプログラムを作っていると、安全な柵で囲っているような過保護なプログラムになってしまうことがあります。考える力を期待しすぎると必要なことが身につかないままになるのではと、あれこれと与えすぎてしまうのです。しかし、与えすぎると、業務は身についても自分では考えなくなる。プログラムづくりのもっとも難しいところです。石井先生そう、教える側も考えなければいけません。2人は悩みながら取り組んでいますが、やはり自分たちで考えて解決しています。「レジデントのときは“考えろ”と言われても意味がわからず、もっと教えてほしいと思ったが、指導する側になってはじめて“考えさせなくてはいけない”と気付いた」という声も中堅薬剤師から聞かれます。日常の業務を見ていると、当院の薬剤師は考えることの重要性をしっかりと理解し、臨床で実践しているようです。これからの薬剤師には、視野を広げ、どんどん外に出て行ってほしいですね。当院で学んだことを「私が世界に広めていこう」─そのぐらいの気概をもった薬剤師であってほしいと思います。当院も、薬剤師という仕事が今以上に魅力あるものになるように、今後も、医療に貢献する薬剤師の育成という大学病院の役割を果たしていきます。