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リハビリテーション医療

リハビリテーション医療は病気や怪我が原因で心や身体の機能に障害が生じたり、さらにそこから生活上の支障が生じたときに、個人とその人が生活する環境を対象に、多数の専門職種が連携して問題の解決を支援し、機能回復や社会復帰を目指す医療です。血友病では血友病性関節症(以下関節症とします)に対して関節の動きを改善する治療や関節の動きを補助する装具の作製、スポーツの相談、身体づくりのアドバイスなどを行っています。

産業医科大学病院血友病センター

1984年の血友病センター開設時(当時は北部九州血友病センター)からリハビリテーション科はメンバーの一員でした。私が参加するようになったのは2000年に産業医科大学に赴任してからです。当時は血友病性関節症の手術後に受けることはあっても、それ以外では血友病患者さんがリハビリテーション科を受診することがほとんどなかった時代です。血友病センターでは小児期から高齢期まで幅広い年代の患者さんを診療しており、年代ごとに身体状況が異なるだけでなく、抱えている問題が多岐に渡ることに驚きました。そして、一人の患者さんが抱えている多くの問題に、それぞれのエキスパートが関わらなければ十分な医療を提供することができないとも実感しました。
幸い血友病センターの各診療科の医師間はもちろん、各専門職の皆さんとの間の垣根が低く、意思疎通の図りやすい環境にとても助けられました。

血友病治療の変遷とリハビリテーション

血友病の治療目標は出血後の止血から関節症進行を防ぐ意味も含めた出血の予防へと変わり、近年は出血ゼロも夢物語ではなくなりつつあります。こうした治療の変遷とともに、かつては進行した関節症の手術後が中心だったリハビリテーションも、関節症の進行予防や出血しにくい身体づくり、スポーツ参加などが目的となっています。たとえ関節の変化が生じても関節の機能を高めることで出血を減らし進行を止めることができ、進行した関節症でもサポーターなどの導入や関節の動かし方を練習(再学習)することで日常生活での支障を軽くすることができます。
また、成人の患者さんは幼少期から身体を動かすことを避けてきた傾向が強く、本来持っている身体能力を発揮できていない事があります。こうした患者さんが安全に動けるために大切なのは筋力・関節可動域(関節の動ける範囲)・固有感覚(身体を動かす感覚)です。これらを高める治療方法は、リハビリテーションとしては基本的な手技が中心で、特別な器具を必要とするような難しい内容はありません。そして身体能力を十分に発揮できていなかった患者さんが治療を受けると、生活の中で動きやすくなることを実感されます。

そうは言っても、誤ったやり方では関節に過度の負荷をかけ出血などのトラブルにつながることも皆無ではありません。しかし、近年の血友病治療製剤の進歩はめざましく、しっかりと打っていればリハビリテーション治療で出血が増えることはほとんどありません。私の経験からですが、誤ったやり方でトラブルが起きる危険は血友病でない患者さんと変わらないと感じています。治療の進歩により血友病患者さんの生活も変わってきています。幼少期からの定期補充で関節の障害はもちろん、関節出血さえも減り、スポーツなどの参加も広がっています。今後関節症の問題が拡大することはなくなってゆくでしょうが、この進歩はすでに関節症で生活に支障をきたしている患者さんにもより安全なリハビリテーションをもたらしてくれます。これまで出血などで躊躇していた方も、今こそ安心してリハビリテーションに取り組めるようになった時だと思います。

(2018年Vol.59冬号)
審J2005102

牧野 健一郎 医療法人財団はまゆう会 新王子病院 リハビリテーションセンター長