薬剤師のハートトーク

海外渡航と薬

今年5月の日本人出国者数は131万7,742人(注1)で、人気の方面は、1位台湾、2位ハワイ、3位シンガポール(注2)でした。国際化に伴って、長期休暇などを利用して海外旅行に出かける方が多いようです。

注1:法務省 出入国管理統計統計表より
注2:日本旅行業協会 ゴールデンウィーク旅行動向調査(2017.4.6)より

血友病などを含め疾病治療中の方々も、薬物療法などにより、疾病コントロールがついていれば、健常人同様に海外旅行を楽しむことができます。しかしながら、常用している薬物、特に麻薬や向精神薬および覚せい剤原料、あるいは血液製剤やインスリン製剤などの自己注射剤と、それを適用するための注射器や注射針については、きちんとした準備をして出入国に備えることが必要です。準備不足のために、現地で逮捕、勾留され、せっかくの楽しい旅行が台無しになるケースも少なくないと聞きます。

今回は出入国時の審査や現地での無用なトラブルを避けるための準備を一緒にしてみましょう。

国内法による規制をクリアする

血液製剤・インスリン製剤(および注射器や注射針など)

特段の手続きを経ることなく、携帯輸出入が可能。(法規制なし)

麻薬

住所地の地方厚生局に許可申請手続きを行い、麻薬携帯輸出入許可証を携帯して出入国できる。(麻薬および向精神薬取締法13条、17条)

覚せい剤原料

覚せい剤取締法の規定により、いかなる場合も、携帯による輸出入はできません。(覚せい剤取締法13条)

向精神薬

携帯する向精神薬が注射剤以外(経口剤、坐剤など)の場合で、かつ、その薬に含まれる成分の総量が一定量以下の場合には特段の手続きをすることなく、携帯輸出入が可能。ただし、携帯する向精神薬が注射薬である場合や、一定量(右上の表)を超える場合には、医師の証明書を携帯する必要があります。(麻薬および向精神薬取締法50条、施行規則30条)。一定量とは概ね1ヵ月分程度にあたる量です。なお、平成28年10月14日より、エチゾラム製剤とゾピクロン製剤も向精神薬として規制を受けるので注意が必要です。

日本における規制医薬品の一例
成分名主な商品名一定量
麻薬モルヒネMSコンチン錠、オプソ内用液
覚せい剤原料セレギリンエフピーOD錠
向精神薬 (第1種)メチルフェニデートコンサータ錠、リタリン錠2.16g
向精神薬 (第2種)フルニトラゼパムサイレース錠、ロヒプノール錠60mg
向精神薬 (第3種)エチゾラムデパス錠30mg
ゾピクロンアモバン錠300mg

英文薬剤証明書を手配する

上記規制医薬品に限らず、現在使用中の薬剤や医療材料(注射器や注射針)が、自己のために使用するものであること、他人に譲り渡す目的がないことを証明する文書を携帯するのが安全です。英文の薬剤証明書を携行することは世界のスタンダードルールになっています。
公的に規定された形式はありませんが、英文の公用文書の要件を備えた書類であれば問題ありません。処方医や調剤した薬剤師が作成し、署名サインにて正式な文書となります。患者氏名、病名、薬剤名、含有量、用法用量、医師名、数量、病院名、病院の連絡先などが記載されます。

念のため在外公館に問い合わせる

渡航先の国情により、医薬品の日本から当該国への持ち込みについての法規制が異なるため、渡航前に在外公館に問い合わせることをお勧めします。例えば、上述の第2種向精神薬であるフルニトラゼパム製剤は、米国(含ハワイ、グアム)等への持ち込みが禁止されています。また日本で市販されている風邪薬や咳止めなども、含有されている成分や量によっては米国で麻薬指定されるものもあります。

いずれに致しましても、かかりつけ医師や薬剤師に、事前に余裕をもって、海外渡航する旨を申し出て、適切な準備をすることで安心、安全な海外旅行を楽しんでください。充実した時間を過ごして心身のリフレッシュを図り、健康な身体を維持しましょう。僕たち薬剤師も応援しています。

(2017年Vol.54秋号)
審J2005098

石橋 大克 枝幸町 国民健康保険病院 薬剤師