CLOSE UP HEART

第12回 後天性血友病について

血友病の専門医(家)に監修の吉岡先生がインタビューし、ひとつのトピックスを掘り下げる「クローズアップハート」。家子先生は10年程前に「北海道後天性血友病診療ネットワーク(※)」を立ち上げ、多くの専門家と共にスムーズな検査体制を整え北海道内における後天性血友病の認知度アップ、診断や治療方法のフォローを行って来られました。そこで後天性血友病はどんな病気なのか、治療や問題点等についてお聞きしました。

※ 北海道後天性血友病診療ネットワーク/家子先生が中心となり10年程前に立ち上げたネットワークで北海道内の専門家・医療関係者が参加

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北海道医療大学歯学部 教授
現)岩手県立中部病院 臨床検査科・血液内科
臨床検査科長
家子 正裕先生
家子 正裕先生 プロフィール
  • ●昭和59年 北海道大学大学院医学研究科 修了
  • ●平成4年 市立小樽病院内科 医長
  • ●平成4年 北海道大学附属病院 助手
  • ●平成5年 アメリカ合衆国インディアナ州立ボール大学凝固研究所およびインディアナ・メソジスト病院移植免疫センターに留学
  • ●平成8年 市立札幌病院内科 副医長(血液アレルギー科)
  • ●平成10年 北海道医療大学歯学部附属病院 中央検査部長
  • ●平成11年 北海道医療大学歯学部内科学講座 教授
  • ●平成12年 北海道医療大学保健管理センター 所長(兼任)
  • ●平成13年 北海道医療大学歯学部附属病院 副病院長
  • ●令和2年 岩手県立中部病院 臨床検査科・血液内科へ異動

後天性血友病はどんな病気?

吉岡先生後天性血友病とはどのような病気でしょうか。また、先天性血友病Aで現れるインヒビターと後天性血友病Aとではどのような違いがありますか。

家子先生後天性血友病は、患者さんがもともと持っている自分の凝固第Ⅷ因子に対して突然自己抗体ができ、凝固第Ⅷ因子活性が低下することにより突発的な出血症状をきたす疾患です。その症状は、主に筋肉内出血や皮下出血です。一方、先天性血友病A患者さんの体内では凝固第Ⅷ因子が完全な形で作れていないので、製剤として投与された第Ⅷ因子が異物と捉えられてしまい、同種抗体(インヒビター)が作られることがあります。

吉岡先生血友病には第Ⅷ因子と第Ⅸ因子の欠乏症があってAとBに分けているのですが、後天性にもAとBは存在するのでしょうか。

家子先生ほとんどがAですが、論文ではBも3~4例あります。最近も、どう考えても第Ⅸ因子に対するインヒビターとしか思えない例が出ていまして、サンプルを希釈して活性を測り希釈倍率をかけ戻して第Ⅷ因子、Ⅸ因子の活性を出すという方法があるのですが、その症例は第Ⅸ因子が希釈しても戻らないため調べているところです。

吉岡先生国内に後天性血友病の患者さんはどれくらいいると見込んでいらっしゃいますか。

家子先生欧米の報告は100万人あたり1.48人でほぼ人種差がないと言われていますので、計算しますと日本では年間188.7人、約200人です。北海道では人口から計算すると年間8名位出る予想ですが、「北海道後天性血友病診療ネットワーク」で見てみると9年間で34名、年間で3.8人出ています。全部は押さえていませんけれど、北海道の1/3~1/2は関連しているのではないかと思います。

吉岡先生大きくは変わらないということですね。しかしこれだけ後天性血友病の発症率があるということはさまざまな分野の医師にも知っていただきたいことですね。命に関わることですから。

家子先生おっしゃるとおりです。ネットワークでアンケートを取ったところ、最初に患者さんが来院される科は実にバラバラで、一番多いのが一般内科、整形外科、脳神経外科が多かったのです。それ以外に腫瘍内科、血液内科、消化器内科、小児科、産婦人科、皮膚科の先生もおられました。そういった科の先生が、この出血はおかしいと思ってくださって、専門家に繋いでくれたので、患者さんは適切な診療を受けることができたのだと思います。しかし、おそらく気が付かずに不幸な結果になった例もあるかと思います。

吉岡先生まずいろいろな科の先生が、後天性血友病という病気があるということを頭の片隅に置いていただきたいですね。

後天性血友病の現状と未来

吉岡先生後天性血友病は、今後増えていくと思われますか?男女、年齢による特性はありますでしょうか。

家子先生増えると思います。10年前、私が後天性血友病の診療をはじめた頃は100万人に1人と言われていたのですが、今では1.5人になっている。その背景には疾患に対する認知度が上がったことが1点目。2点目は検査方法が確立してきていること。3点目は高齢者が増えてきていることが関係していると思われます。

吉岡先生どれも可能性が十分にありますね。高齢者ではがんや肺炎など、いろいろな病気が増えてくる。肺炎は嚥下性、誤飲性によるものが多いですが、それと同じように年をとると免疫力が低下してきます。現在、後天性血友病についてどの程度の方が知っているかというデータはお持ちですか。

家子先生はい。北海道内の先生方120名にアンケートを送り64名の回答がありました。後天性血友病に遭遇したことがある先生は42名で65.6%。またご自身で治療したことがあると答えた先生は42名中28名で66.6%でした。

吉岡先生これは北海道だけですが、算出基準の数字が確かですのでしっかりと診ていただいている印象がありますね。

家子先生後天性血友病発症の一番大きなピークは60歳以降の高齢者です。小さなピークは20~30歳代の女性で、妊娠や分娩に関連してインヒビターができ後天性血友病となる。高齢者の場合、基礎疾患は山程あり糖尿病も基礎疾患になっていて、これは自己免疫的要素があるということだと思います。北海道のネットワークの中では肝細胞癌、原発性骨髄線維症、慢性腎不全、糖尿病、脳梗塞、扁桃腺炎などがきっかけで発症したという例もありました。後は妊婦さんです。

吉岡先生妊娠がきっかけの場合、意外にも出産が終わってから何カ月も後でも起こるんですね。

家子先生はい。1年後という例もあり、体質が変わって自己免疫が少しずつ進むような体質になったのかなと思いながら診ていましたけれど、その理由はわかりません。

こんな症状が出たら病院へ

吉岡先生血友病よりもやや特徴的な後天性血友病の出血について、先生はどのように見ていらっしゃいますか。

家子先生圧倒的に多いのは皮下出血で青黒く広範囲に広がります。悪性の出血かと思うくらいです。歯科では舌の出血もあり口をふさぐくらい大きくなったのを診たことがあります。辺縁ではなく舌全体が腫張して気道をふさぎそうな程でした。しかし血友病によく見られる関節内出血は私は一度も診たことがないのです。皮下出血以外では膀胱出血が2例。多いのは皮下出血、筋肉内出血、その次が消化管外出血です。

吉岡先生そういう症状が出た場合、ご本人や家族はどう対応したらよいのでしょう。最初はちょっとした青あざだと思う可能性が高いですね。

家子先生まず皮下出血はあったけれどそのままにしていたら、貧血でフラつきだしたということが多いです。皮下出血にせよ粘膜出血にせよ出血はこわいので、放っておかずに近くの病院、かかりつけ病院に行くということが大事です。一番良いのは血液内科ですが近くにない場合は一般内科へ。循環器内科に行った方もいます。筋肉内出血は整形外科ですね。アンケートで患者さんが最初何科に行ったかを調査した結論は「症状が出た部分の科」。血尿が出ると泌尿器科、筋肉が痛くなれば整形外科、下血だったら消化器内科というアンケート結果でした。鼻血が止まらなくて耳鼻科というのもありました。

吉岡先生そうしたら全科の先生にこういう病気がありますよと知ってもらうことが大事ですね。検査には末梢血液像、血小板数、PT、APTTをやってもらえば間違いないですね。

後天性血友病の認知度アップを!

吉岡先生後天性血友病の治療はどのようにされるのでしょうか。

家子先生診断が決まったら出血の有無に関わらずまず免疫抑制療法に入ります。免疫抑制療法は、効果が出るまで2~3週間かかりますが、それまで止血療法で抑えるしかありません。軽い出血では止血療法までは必要ありませんが、貧血が進行する場合や頸部圧迫による窒息等の危険が認められる場合には速やかに止血療法を開始します。出血が強くヘモグロビンで2g/dL以上下がった場合や重症の臓器出血、例えば頭蓋内出血、頸部出血、消化管出血などが起こっている場合は止血療法を行います。止血療法にはバイパス止血製剤を使用します。
ガイドラインでは1週間に1回、APTTとインヒビター力価を測定し免疫抑制剤を減らし、日本では最終的にインヒビター活性が1.0ベセスダ単位未満になれば免疫療法は終了の方向に持っていくようになっています。ただ再燃率が高く約20%という報告もあります。治療をやめても半年間は検査を続けなければならないです。現在、致死率は22%位でこれは、とても大きな数字です。

吉岡先生今後、不幸な症例を減らすためにも後天性血友病の認知度アップに力をいれるべきですね。

家子先生血液内科だけではなく、内科学会や整形外科学会などいろいろな診療科の先生方が集まる場所での発信の機会を作り、診断や治療体制のフォローの仕方についても認識していただくように努めたいと思います。

(2020年Vol.65秋号)
審J2010339