CLOSE UP HEART

第1回 血友病と高齢化

今号から血友病に関する様々なトピックを取り上げて、専門医にインタビューする「もっと知りたい!血友病のこと クローズアップハート」をスタートします。第1回は「血友病と高齢化」について。高齢化によって起こりうる課題や、医療関係者・患者さん及びそのご家族が心がけることなどを、監修の吉岡 章先生がインタビュアーとなり、福山医療センターの齊藤先生にお話を伺いました。

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独立行政法人国立病院機構 福山医療センター
感染症内科/広島県東部地区エイズ治療センター
齊藤 誠司先生
齊藤 誠司先生 プロフィール
  • ●H13年 福井医科大学卒。初期~後期研修(血液内科)は福井医科大学付属病院、福井赤十字病院、倉敷中央病院などで実施
  • ●H18年 広島大学病院 輸血部/エイズ医療対策室勤務
  • ●H22年 同助教となる
  • ●H29年4月 国立病院機構福山医療センター 感染症内科医長(現職)。
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独立行政法人国立病院機構 福山医療センター
〒720-8520
広島県福山市沖野上町4丁目14番17号
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URL:http://www.fukuyama-hosp.go.jp/

吉岡先生血液製剤の開発により、患者さんが天寿を全うできる時代になっています。医療者として、あるいは患者さんやご家族としても、高齢化はこれまでに経験したことがなく、また避けて通れないことと思います。
まずは、年を重ねると出てくる生活習慣病について、特に血友病の患者さんが注意するべきことなどをお話しいただければと思います。

生活習慣病では、高血圧症が多い

齋藤先生血友病患者の生活習慣病で一番問題になるのは高血圧症と考えています。成人で40歳を超えると約40%に高血圧症が出てくると言われており、65歳を超えると半数以上に見られます。治療を怠ると動脈硬化を進展させ、最終的に頭蓋内出血を起こす恐れがあります。それを阻止するためにも血友病患者の高血圧症はしっかりと治療するべき疾患です。
その他の脂質異常や糖尿病に関しては、有病率に血友病の有無で大きな差はないと考えています。腎臓病もそれほど大きな問題になっている人は経験がありません。

吉岡先生全国的に見ても大きな問題とはなっていませんか?

齋藤先生そうですね。慢性腎臓病に関しては、年齢が上がり関節症の痛みを抑える鎮痛剤を常用して腎機能が悪くなるとか、腎臓の出血や尿管結石などが引き金になるケースもあるかもしれません。
腎機能が低下している方には、一般的な高齢者と同じように降圧治療や腎保護に努め進展を予防することが大切だと思います。

がんについて

齋藤先生昨年の報告によると、1年間の血友病患者の死亡原因で多かったのは肝がん等の肝臓関連でした(※)。あとは男性ですので年齢が上がってくると前立腺・泌尿器系の腫瘍があります。血友病患者は喫煙する人が多いというのは昔から言われていますが、喫煙率も25%程度という報告があり、肺がん・咽頭がんのリスクは一般男性と同様に高くなると思います。(※「血液凝固異常症 全国調査 平成二十八年度報告書」)

血友病性関節症とロコモティブシンドローム

吉岡先生高齢者には、若いころの止血管理が不十分で既に関節症を持っている方が多く、二次的に筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板などの運動器障害につながり、立つ、歩くといった運動機能の低下(ロコモティブシンドローム)を引き起こします。

齋藤先生40代の方で、足関節・ひざ関節の障害による運動制限がある場合、定期補充を行うことで関節症の悪化を防ぎ、同時に運動習慣をつけることで筋力の低下を防ぐことが大切です。一番は水泳をおすすめしていますが、最低限の運動としてウォーキングやサイクリングも良いと思います。
50代60代以降の方ですと、関節が固定していれば転倒やそれに伴う骨折を予防するためのリハビリテーションが必要となります。血友病の場合骨密度が低く、転んで骨折してそのまま寝たきりになってしまうケースがあります。それを予防するためには、バランス保持能力の維持を主体としたリハビリを継続する必要があります。

吉岡先生運動習慣をつけることは、先ほどの高血圧や心肺機能にも良い効果が期待できますね。

齋藤先生はい。運動習慣がつけば血圧の低下につながりますし、外で太陽を浴びれば骨密度の改善にもつながります。

頭蓋内出血の止血と脳梗塞

吉岡先生これだけ定期補充が一般的になっても、頭蓋内出血による死亡が多いことが気がかりです。一方、最近の報告では、血友病の患者といえども脳梗塞、心筋梗塞が起こり得るという点について、先生のお考えはいかがでしょうか。

齋藤先生頭蓋内出血は100%防ぐべきでそのためには定期補充しかないです。中等症、重症の患者さんで、高血圧、動脈硬化、その他のリスク因子をお持ちの方は、全員定期補充療法をしてほしいと思います。
軽症であっても60代70代になり突然頭蓋内出血を起こし救急外来に運ばれてくるのを経験し、5%以上の凝固因子活性があったとしてもリスクがあることを痛感しました。60代以上で血圧が高ければ、軽症であっても定期補充を考えた方が良いのではないかと思います。
血栓症については、日本と海外の差はあると思いますが、元々日本は心筋梗塞が少ないので、血友病患者においても起こりにくいのではないかと思います。脳梗塞は、軽症で生活習慣が悪い方だと、一般成人と同じくらいのリスクがあると考えています。重症の方で血栓症は起こりにくいのではないでしょうか。これまでに重症の方の脳梗塞は診たことがありません。

定期補充、自己注射、訪問看護について

吉岡先生これまでに様々なお話を伺ってきましたが、ご老人の血友病患者さんが、今後出血を防止し天寿を全うしていただくために、何を心がければ良いでしょうか。

齋藤先生やはり、年齢が上がっても頭蓋内出血を防ぐという意味で定期補充療法をするべきです。もし関節症で自己注射ができない方がいれば、その時は家族のサポートや訪問看護を利用し週2回程度の在宅注射を行ってもらうことが大切だと思います。
施設に入ったとしても、製剤は包括医療に含まれないので定期補充は続けることができます。頭蓋内出血を起こした後に、リハビリテーション病院でリハビリと定期補充をしていた方がいました。新規製剤が出ている時期でしたが、そちらの病院では医療費を出来るだけ少なくするという考えで、安価な製剤を使用されていたようでした。

吉岡先生今後新しい製剤が出てきたとしても、これまで実績のある凝固因子製剤は血友病の治療に必要となるでしょう。これからもより長く健康的に日常生活を送っていただくため、定期補充療法を行うこと、運動習慣をつけること、また必要に応じて地域の訪問看護を利用することなど、お伺いしました。
齊藤先生、本日は貴重なお話をありがとうございました。

(2017年Vol.54秋号)
審J2005098