審J2003397

重症筋無力症とは

重症筋無力症は、手足を動かすと筋肉がすぐに疲れて、力が入らなくなる病気です。全身の筋力が弱くなったり、疲れやすくなったりします。また、まぶたが下がってくる眼瞼下垂(がんけんかすい)と、ものが二重に見える複視(ふくし)などの眼の症状を起こしやすい特徴があります。

神経から筋肉への指令が伝わらなくなります。

アセチルコリンは、神経と筋肉が接する場所(神経筋接合部)において、神経の末端から筋肉に向けて放出され、脳からの指令を伝える役割をしています。重症筋無力症では、その指令を受け取るアセチルコリン受容体の働きを妨げる抗体(抗アセチルコリン受容体抗体*1)が体内で作られて、脳からの指令が筋肉に伝わりにくくなることが原因とされています。この抗体がみられない患者さんの一部の方に、アセチルコリン受容体の集合に重要な働きをする筋特異的チロシンキナーゼ(マスク*2)に対する抗体をもつ人がいます。

*1 抗アセチルコリン受容体抗体
アセチルコリン受容体のある膜を壊したり、受容体の数を減らしたり、アセチルコリンが受容体に結合するのを阻止します。
*2 抗マスク抗体
マスクの働きを抑えて、アセチルコリン受容体の数を減らすと考えられています。特に女性に多い傾向があり、嚥下困難(えんげこんなん)や呼吸筋麻痺症状が出やすい特徴があります(嚥下困難についてはどんな症状?をご覧ください)。

神経筋接合部正常時と重症筋無力症発症時

正常時の挿絵
重症筋無力症発症時の挿絵重症筋無力症発症時の挿絵
アセチルコリン
受容体
アセチルコリン
筋特異的
チロシンキナーゼ(マスク)
抗アセチルコリン
受容体抗体
抗マスク抗体

20〜50歳代の女性に多く、近年では男女ともに50歳以上で発症する
患者さんが増加しています。

発症年齢の線グラフMurai H et al., J Neurol Sci 305:
97-102, 2011より改変
患者数 *22,000*[*2014年度 *特定疾患医療受給者証交付件数より推定]
有病率 人口10万人あたり11.8人[2006年 全国臨床疫学調査]
男女比 女性は男性の1.7倍[2006年 全国臨床疫学調査]
胸腺腫合併率 32.0%[2006年 全国臨床疫学調査]

自己免疫異常が原因であるため、感染や遺伝することはありません。

神経と筋肉が接する場所の筋肉側にあるアセチルコリンの受容体が、自分の免疫異常( 自己抗体) によって、減少するために筋無力症状がみられます。なぜ、自己抗体が作られるかはわかっていません。他人に感染したり、遺伝する病気ではありません。

多くの患者さんの胸腺に異常(胸腺腫、胸腺肥大)がみられます。

胸腺異常の挿絵 胸腺は、心臓の前方にある免疫に関係する器官です。成人以降は小さくしぼんでいきます。 しかし、若年~成人発症の抗アセチルコリン受容体抗体が陽性の多くの全身型重症筋無力症の患者さんの胸腺は、肥大(過形成)してリンパ球が多く含まれています。抗マスク抗体が陽性の場合は、胸腺異常が少ないことが知られています。胸腺腫を合併したり胸腺肥大がある場合には、胸腺(腫)摘除が考慮されます(どんな検査?をご覧ください)。