CAR-T細胞療法後、
二重特異性抗体療法後の
低ガンマグロブリン血症
監修
京都大学医学部附属病院
細胞療法科・検査部・細胞療法センター・血液内科
新井 康之 先生
【略歴】
平成18年 京都大学医学部医学科 卒業
平成27年 京都大学大学院医学研究科 博士課程 修了
平成27年~30年 米国国立衛生研究所 博士研究員
平成30年 京都大学医学部附属病院(輸血細胞治療部)助教
令和元年 同 検査部・細胞療法センター 助教
令和5年 同 細胞療法センター 副センター長
令和6年 同 講師・細胞療法科 診療科長
【所属学会】
日本内科学会、日本血液学会、日本造血・免疫細胞療法学会、日本感染症学会、日本輸血・細胞治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床疫学会
掲載されている薬剤の使用にあたっては、各薬剤の電子化された添付文書をご参照ください。
1. はじめに
長期間にわたる化学療法や免疫抑制剤の投与、あるいは造血幹細胞移植を行う血液内科医にとって、続発性低ガンマグロブリン血症は馴染み深い合併症の一つです。特に、IgG値の低下が持続して感染症を繰り返す症例や、予期せぬ重症感染症を合併し、その際にIgG値の予想外の低下が判明した症例を経験するたびに、定期的なIgG測定と戦略的な補充の重要性を痛感します。
この続発性低ガンマグロブリン血症を引き起こす原因として、近年新たに注目されているのが「がん免疫療法」です。
B細胞性リンパ腫、白血病、さらには多発性骨髄腫の治療では、複数のキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法や二重特異性抗体療法が実用化され、これらの疾患に対する治療戦略が大きく変わりました。同時に、B細胞系の持続的な抑制に伴うIgG値の低下への対応が非常に重要な課題となっています。
こちらの記事では、がん免疫療法に伴う続発性低ガンマグロブリン血症に焦点を当て、その発症リスクや適切な対処戦略について簡潔にまとめました。CAR-T細胞療法や二重特異性抗体療法を実施される先生方、また治療後の患者さんを診療される先生方には、ぜひ本記事をご一読いただきたく存じます。馴染み深い合併症の新たな側面について、知識の更新に少しでもお役に立てば幸いです。
2. CAR-T細胞療法による低ガンマグロブリン血症
CAR-T細胞療法後には、on-target/off-tumor効果によりB細胞および形質細胞が減少し、その結果、低ガンマグロブリン血症を来すことがある。血清IgG値はCAR-T細胞療法後早期から減少し、その状態は長期間(症例によっては1年以上)持続することもある1)。CAR-T細胞療法後の感染症は、生存率の低下と関連することが報告されており2)、その背景には遷延性血球減少や低ガンマグロブリン血症がある。したがって、これらに対する適切な対策を講じることが重要である。
1)吉原哲. 医学のあゆみ. 2021; 277(10): 940-942.2)Zhu F, et al. Cell Transplant. 2021; 30: 1-9.
後藤秀樹: CAR-T細胞療法. 診断と治療 2021; 109: 843-847, 診断と治療社.
(1)CD19標的CAR-T細胞療法
CAR-T細胞療法後、5年以上にわたってIgG値が回復しないケースもある。
感染症予防を目的として、IgG値の定期的なモニタリングおよびIVIG投与を検討することが重要である。
※本試験においてIVIGの投与は行われなかった。
試験概要
目的
CD19標的CAR-T細胞療法後の長期奏効持続性および晩期毒性の発現頻度を評価する。
対象
再発性B細胞悪性腫瘍患者43例[びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)/原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫(PMBCL):28例、低悪性度B細胞リンパ腫:8例、慢性リンパ性白血病(CLL):7例)]に対して2009~2015年に計46回のCAR-T細胞療法が実施された。
試験方法
第I相単群試験。血清IgG値の正常範囲は700~1,600mg/dLとされ、400~500mg/dLを下回った場合には、IVIG投与が検討された。
(2)BCMA標的CAR-T細胞療法
B細胞成熟抗原(BCMA)を標的としたCAR-T細胞療法を受けた再発・難治性多発性骨髄腫(RRMM)患者の70%に低ガンマグロブリン血症(IgG値≦400mg/dL)が認められ、IgG値の中央値は3ヵ月時で373mg/dL、6ヵ月時で504mg/dLであった。
IgG値≦400mg/dLが低ガンマグロブリン血症と定義された。IVIGは62/99例(63%)に少なくとも1回投与され、初回投与の中央値はCAR-T細胞輸注後70日(範囲9~301日)であった。
CAR-T細胞療法後、呼吸器感染症は時間経過とともに増加し、1年後の累積発生率は22%(95% CI:15–32%)に達した。特に100日以降に多くみられ、長期的な感染症リスクが持続することが示唆された。
試験概要
目的
BCMA標的CAR-T細胞療法を受けたRRMM患者における、特に100日以降の呼吸器感染症を中心とした早期および晩期感染症を評価する。
対象
2016年11月~2022年5月にBCMA標的CAR-T細胞療法を初めて受けたRRMMの成人患者99例
試験方法
BCMA標的CAR-T細胞療法後1年間の感染症の発生を、電子カルテを用いて評価した後ろ向きコホート研究
解析方法
感染症の発生率の推定には、競合リスクを考慮した累積発生関数(CIF)を用いた。
3. 二重特異性抗体療法による低ガンマグロブリン血症
二重特異性抗体療法は、B細胞リンパ腫(主にDLBCL)や多発性骨髄腫(MM)などの治療に用いられる。
DLBCLに対する系統的レビューでは、二重特異性抗体療法に伴う低ガンマグロブリン血症の発現頻度は低いことが示唆されている1)。一方で、MMに対する二重特異性抗体療法では、低ガンマグロブリン血症とそれに伴う感染症リスクが課題となる。二重特異性抗体療法はCAR-T細胞療法よりも重症感染症リスクが高く2)、標的抗原別ではBCMA標的で70~80%、CD20標的で20~45%の患者に低ガンマグロブリン血症が認められる3)。
CAR-T細胞療法は、正常なB細胞や形質細胞も標的とするため、比較的早期にIgG値が低下しやすい4)。これに対し、二重特異性抗体療法では、反復投与により免疫抑制が遷延化し、長期的な低ガンマグロブリン血症と感染症のリスクをもたらす可能性がある。
したがって、二重特異性抗体療法においては、投与継続に伴う免疫抑制を考慮し、適切な感染予防策と免疫モニタリングを実施することが重要である。
2)Nath K, et al. Blood Cancer J. 2024; 14(1): 88.
3)Braun A, et al. Am Soc Clin Oncol Educ Book. 2024; 4(43): e433516.
4)Hill JA, et al. Blood. 2018; 13(11): 121-130.
二重特異性抗体療法はCAR-T細胞療法に比べて、感染症リスクが高いことが報告されている(IRR:2.27、95% CI:1.31–3.98、p=0.004、Poisson回帰モデル)
IRR:発生率比
試験概要
目的
BCMA標的療法[CAR-T細胞、二重特異性抗体、抗体薬物複合体(ADC)]を受けたRRMM患者における、感染症の特徴・発生率・リスク因子を後ろ向きに評価する。
対象
2017年3月~2023年2月にBCMAを標的としたCAR-T細胞療法(92例)、二重特異性抗体療法(55例)、ADC療法(109例)のいずれかを受けたRRMM患者256例
試験デザイン
単施設・後ろ向きコホート研究
リミテーション
本研究は後ろ向き解析であり、治験薬と市販薬の両方を含む異質な集団を対象としているため、軽症の感染症の見逃しや呼吸器ウイルスPCR検査の未実施の影響により、感染症の過少報告が生じている可能性がある。
BCMA標的二重特異性抗体療法
「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等については、電子化された添付文書をご参照ください。
試験概要
目的
BCMA標的二重特異性抗体療法を受けたMM患者において、感染症の発生リスクと低ガンマグロブリン血症の関係を明らかにし、IVIG投与の予防効果を評価する。
対象
2019年1月~2022年6月にBCMA標的二重特異性抗体療法の臨床試験に参加したMM患者37例
試験方法
後ろ向き観察研究(臨床試験参加者の電子カルテをレビューし、患者背景、治療内容、疾患反応、低ガンマグロブリン血症の経過、感染症、IVIG投与を含む感染予防方法などについて解析)
- 全ての感染症の発生率
- 重症細菌性感染症の発生率
- 全ての細菌性感染症の発生率
主要評価項目および副次評価項目については、自己対照ケースシリーズ(SCCS)モデルを用いて、同一患者内でのOn-IVIGとOff-IVIGにおける感染症の発生率を比較した。統計学的有意性の評価にはz検定を用い、感度分析として治療開始後30日以内のデータを除外して再解析を行った。
重症感染症の発生率は、On-IVIGはOff-IVIGに比べて低く、IRRは0.10(95% CI:0.01~0.81)であった(名目上のp=0.03、z検定)。
感度分析:治療開始後30日以内のデータを除外して再解析IRR:発生率比
副次評価項目である、全ての感染症、重症細菌性感染症、全ての細菌性感染症について、On-IVIGとOff-IVIGの間でIRRに有意差は認められなかった(z検定)。
二重特異性抗体療法の奏効群では、IgG値が持続的に低下し、全例で200mg/dL未満の重度低ガンマグロブリン血症を呈した。重度低ガンマグロブリン血症に至るまでの期間の中央値は2.9カ月であった。一方、非奏効群ではIgG値の明らかな低下は認められなかった。
※IVIGが投与された患者の投与以降のIgG値はデータから除外された。
安全性
本論文にはIVIGの安全性に関する詳細な記載はない。
安全性については電子化された添付文書をご参照ください。
Limitaions
本研究は後ろ向き研究であり、IVIG投与が非ランダムであったこと、一部の患者が非BCMA標的二重特異性抗体の既治療例であったこと、症例数が少なく感染リスク因子の解析には不十分であったことなどの限界がある。
Lancman G, et al. Blood Cancer Discov. 2023;4(6): 440-451.4. ガイドライン等におけるIVIG投与に関する記載
献血ヴェノグロブリンIH10%静注の低並びに無ガンマグロブリン血症に関する効能又は効果、用法及び用量、用法及び用量に関連する注意
(電子添文2025年10月改訂より一部抜粋)
4.
効能又は効果
○低並びに無ガンマグロブリン血症
6.
用法及び用量
<低並びに無ガンマグロブリン血症>
通常、1回人免疫グロブリンGとして200〜600mg(2〜6mL)/kg体重を3〜4週間隔で点滴静注又は直接静注する。患者の状態によって適宜増減する。
7.
用法及び用量に関連する注意
<低並びに無ガンマグロブリン血症>
7.4
用法及び用量は、血清IgGトラフ値を参考に、基礎疾患や感染症などの臨床症状に応じて、投与量、投与間隔を調節する必要があることを考慮すること。
2)Guideline on core SmPC for human normal immunoglobulin for intravenous administration (IVIg): Committee for Medicinal Products for Human Use (CHMP), EMA/CHMP/BPWP/94038/2007 Rev. 5, 28 June 2018,
3)Clinical Commissioning Policy for the use of therapeutic immunoglobulin (Ig) England (2025). Publication date: March 2025 version number: 2.0,
4)Shahid Z, et al. Transplant Cell Ther. 2024; 30(10): 955-969,
5)Mohan M, et al. Br J Haematol. 2023; 203(5): 736-746, 6)Braun A, et al. Am Soc Clin Oncol Educ Book. 2024; 44(3): e433516,
(3)CAR-T細胞療法後の感染症管理におけるIVIG投与
ACN:絶対好中球数、PS:パフォーマンスステータス、PJP:ニューモシスチス肺炎、CRS:サイトカイン放出症候群、ICANS:免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群、IEC-HS:免疫エフェクター細胞関連血球貪食症候群
Shahid Z, et al. Transplant Cell Ther. 2024; 30(10): 955-969.https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
Hill JA, Seo SK. Blood. 2020; 136(8): 925-935より一部改変
5. 低ガンマグロブリン血症の適応を有する免疫グロブリン製剤一覧
静注用人免疫グロブリン製剤
皮下注用人免疫グロブリン製剤
(https://www.mhlw.go.jp/topics/2025/04/tp20250401-01.html)
参考
血液内科における続発性低ガンマグロブリン血症の原因(一部)
続発性低ガンマグロブリン血症には疾患由来のものと治療由来のものなどがある。
* 非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、バーキットリンパ腫を含む(2025年8月現在) Copyright © 2019 Patel, Carbone and Jolles. This is an open-access article distributed under the terms of the Creative Commons Attribution License(CC BY). Patel SY, et al. Front Immunol. 2019; 10: 33.より作成
血液毒性・免疫不全に関連する主な検査
臨床検査データブック 2025-2026, 2025, 医学書院より作成
(審J2510191)

