心臓血管外科手術に伴う
後天性低フィブリノゲン血症
~フィブリノゲン製剤の適正使用~
監修藤田医科大学岡崎医療センター 心臓血管外科 教授
碓氷 章彦 先生
【職歴】
1981年4月 大垣市民病院研修医
1985年4月 名古屋大学大学院医学研究科胸部外科・大学院生
1987年8月〜1989年7月 Toronto General Hospital、Clinical fellow
2001年10月 名古屋大学大学院医学系研究科胸部機能外科 助教授
2002年3月 文部科学省長期在外研究員
〜2003年1月 トロント大学、ベルリン心臓センター留学
2007年4月 名古屋大学大学院医学系研究科 心臓外科学 准教授
2012年11月 名古屋大学大学院医学系研究科 心臓外科学 教授
2022年4月 藤田医科大学岡崎医療センター 心臓血管外科 教授
2023年9月 藤田医科大学岡崎医療センター 副院長
【専門医】
外科専門医、心臓血管外科専門医、不整脈専門医、心臓血管外科修練指導医
日本胸部外科学会指導医、日本外科学会指導医、植込型補助人工心臓実施医
植込み型除細動器/ペーシングによる心不全治療実施医、臨床修練指導医
【学会等】
日本外科学会、日本胸部外科学会、関西胸部外科学会
日本心臓血管外科学会、日本人工臓器学会、日本循環器学会
日本不整脈心電図学会、日本冠動脈外科学会、日本血管外科学会
日本冠疾患学会
Society for Thoracic Surgeon
The Asian Society for Cardiovascular and Thoracic Surgery
European Association of Cardiothoracic Surgery
American Association of Thoracic Surgery
「注意事項等情報」等は電子化された添付文書およびDI頁をご参照ください。
はじめにー日本血液製剤機構からのお願いー
フィブリノゲンHT静注用1g「JB」(以下、「本剤」)については、令和8年3月23日に効能又は効果『産科危機的出血、心臓血管外科手術における出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症に対するフィブリノゲンの補充(以下、「本効能」)』が追加承認されました。本効能の承認に伴い、「後天性低フィブリノゲン血症における乾燥人フィブリノゲンの使用に当たっての留意事項について」(令和8年3月23 日付け医薬薬審発0323 第5号・医薬安発0323 第1号・医薬血発0323第1号)が発出され、本通知に基づき本剤の適正使用を推進する観点から本資材を作成しております。本剤の使用においては電子化された添付文書の記載に加え、関連学会のガイドライン等の最新情報を参考としつつ適切な判断をすることと記載されていることから、下記の留意事項通知及び日本心臓血管外科学会における「フィブリノゲン製剤適正使用の指針」をご確認のもと、適正使用へのご協力をお願い致します。
「心臓血管外科手術における出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症」に対する本剤使用に関する留意事項 参照:「後天性低フィブリノゲン血症における乾燥人フィブリノゲンの使用に当たっての留意事項について」(令和8年3月23 日付け医薬薬審発0323 第5号・医薬安発0323 第1号・医薬血発0323第1号)
<本剤を使用する医療機関について>
本剤の本効能における使用は、産科危機的出血又は心臓血管外科手術における出血を適切に管理できる医療機関において、適切な投与対象に対して行われる必要があります。そのため、本剤投与は、血中フィブリノゲン値の迅速測定が可能で、かつ産科危機的出血又は心臓血管外科手術における出血の管理に精通した医師が常駐するなど、日本産科婦人科学会、日本心臓血管外科学会等が定める使用施設*の条件を満たした医療機関において使用してください。
*日本産科婦人科学会:大学、周産期母子医療センター、日本心臓血管外科学会:フィブリノゲン製剤登録施設
<本剤の投与対象について>
本剤は、人の血液から製造される医薬品であり、血液を原料としていることに由来する感染症伝播等のリスクを完全に排除することができない特定生物由来製品です。そのため、「先天性低フィブリノゲン血症の出血傾向」及び「産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症に対するフィブリノゲンの補充」を効能又は効果として本剤が既に使用されているところ、今般の新たな効能又は効果の承認に伴う使用の拡大により、有用性が確認されていない投与対象に該当する症例に使用されることがないよう、関連学会のガイドライン等の最新の情報を参考に、本剤を適切な投与対象に投与をお願い致します。
<使用実態の確認等について>
本効能の承認に際し、以下の条件が付与されています。
【承認条件】
本剤の使用実態に関する情報を適切に収集し、本剤の適正使用に必要な措置を講じること。
本剤は、関連学会(日本産科婦人科学会、日本心臓血管外科学会)が実施する適正使用に関する実態把握及び調査に加え、上記承認条件に基づき製造販売業者が実施する下記項目における確認を行いつつ使用することとされていることから、本剤を使用する医療機関においては、関連学会による実態把握及び調査、製造販売業者による情報収集にご協力をお願い致します。詳細につきましては、日本血液製剤機構が発行している「承認条件付与に基づく使用実態の情報収集へのご協力のお願い」をご確認ください。
- ①投与目的(疾患名)
- ②投与前の血中フィブリノゲン値
- ③初回投与量
- ④年齢区分(16歳以上/16歳未満)
- ⑤追加投与に関する確認(追加投与前の血中フィブリノゲン値、追加投与量)
- ⑥副作用の有無
副作用をご経験の際は日本血液製剤機構の医薬品情報担当者(MR)まで速やかにご連絡をお願い致します。もしくは独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に適切にご報告ください。
弊機構MRより安定供給のための使用状況及び使用症例の確認があった場合には、ご対応をお願い致します。
日本心臓血管外科学会「フィブリノゲン製剤適正使用の指針」(抜粋) この指針は日本心臓血管外科学会フィブリノゲン製剤登録施設制度規程2 .に基づく「フィブリノゲン製剤適正使用の指針」として定めるものである。フィブリノゲン製剤を使用する際には本指針に沿い、適正使用を行う。
適応病態
大動脈手術、心臓再手術等の人工心肺を用いた心臓血管外科手術における出血により、血中フィブリノゲン値が150mg/dLを下回った低フィブリノゲン血症である症例に限り、フィブリノゲン製剤を使用する。
適正使用
- ①フィブリノゲン製剤の使用目的は、低フィブリノゲン血症の解消ではなく、出血傾向の改善であり、出血量が多く、その原因が低フィブリノゲン血症である症例に限りフィブリノゲン製剤を使用する。
- ②血中フィブリノゲン値が150 mg/dL 未満であることのみに基づく安易なフィブリノゲン製剤の使用は行わない。他の様々な止血治療を試みても止血困難と考えられる場合において、本剤が使用可能である。
- ③フィブリノゲン製剤の使用に際しては必ず血中フィブリノゲン値を測定し、150mg/dLを下回っていることを確認する。
- ④止血効果が得られない場合は、血中フィブリノゲン値を再検し、血中フィブリノゲン値が150mg/dL を下回っている場合は、フィブリノゲン製剤を追加投与できる。
- ⑤ フィブリノゲン製剤の追加投与の適否は、フィブリノゲン以外の因子の出血への関与の可能性も考慮し慎重に判断し、フィブリノゲン製剤を漫然と使用しない。また、追加投与に際しては、血栓塞栓症等のリスクとなる過量投与に注意する。
- ⑥成人例では、通常1回フィブリノゲン製剤3gを静脈内投与する。
- ⑦ フィブリノゲン製剤の添加剤(クエン酸ナトリウム水和物)に起因する副作用に注視するとともに、クエン酸ナトリウムの投与速度/投与量と副作用の関連に注意する。低体重・低体温・肝機能低下・大量輸血併用などクエン酸負荷が増えやすい状況では特に注意が必要あり、投与時のリスク低減策を考慮する。(投与は可能な限り緩徐に行う、投与前後にイオン化カルシウムと心電図・循環動態を確認する、血中カルシウムイオン濃度の低下が確認された場合は速やかにカルシウム補正を行う)。 〔参考〕 フィブリノゲン投与に関連したものではないものの、全身麻酔下下肢静脈瘤結紮抜去術(6例)の報告において、クエン酸ナトリウムの急速かつ大量の投与は、血中カルシウムイオン濃度の低下を来たし、副作用(血圧低下、QT 延長等)の発現に関連する可能性が示唆されている(N Engl J Med. 1962;266:372-377.)。
- ⑧ 先行研究*では、フィブリノゲン製剤3gの投与時間は3-30分、平均12.9分(適用上の注意14.2.4の項参照)であったことから、その投与時間に準拠した投与方法を考慮する。ただし、輸注速度が速すぎるとチアノーゼ、動悸、血管内凝固による塞栓症又は血中カルシウムイオン濃度の低下を起こすおそれがあるので、患者の状態に応じて輸注速度を調整する。 *碓氷章彦, 他. 日本心臓血管外科学会雑誌 2025;54:143-154.
- ⑨フィブリノゲン製剤は血小板機能を改善しないため、低フィブリノゲン血症を改善させた後には、術野における出血傾向を考慮に入れたうえで、必要な場合には血小板輸血を適切に行う。
- ⑩フィブリノゲン製剤の用法・用量を必ず遵守する。
小児に対する適正使用
小児へのフィブリノゲン製剤の投与量は、年齢、体重、症状を考慮して、通常用量である1回3gから適宜減量し、30-50mg/kg(用法及び用量に関連する注意の7.2の項参照)を目安とする。
血中フィブリノゲン値測定
- ①人工心肺からの離脱時に血中フィブリノゲン値を測定することが望ましい。検査に要する時間を考慮して測定時点を決定する。
- ②フィブリノゲン製剤投与後に血中フィブリノゲン値を再測定することが望ましい。
- ③止血効果が得られず、フィブリノゲン製剤の追加投与を考慮する場合は、血中フィブリノゲン値を必ず測定する。
フィブリノゲン製剤の投与のタイミング
- ①ヘパリン中和を行う時点に合わせて、通常用量である1回3gのフィブリノゲン製剤を投与することが望ましい。
- ②大量出血が持続し、FFPによるフィブリノゲン補充速度を出血による損失が上回るような病態が、フィブリノゲン製剤投与の良い適応となる病態である。
- ③血中フィブリノゲン値が100㎎/dLを下回る重度の低フィブリノゲン血症の病態では、フィブリノゲン製剤を投与し、血中フィブリノゲン値を上昇させた後にヘパリン中和を行うことも考慮できる。
6.用法及び用量
〈産科危機的出血、心臓血管外科手術における出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症〉
注射用水に溶解し、通常1回3gを静脈内投与する。投与後に後天性低フィブリノゲン血症が改善されない場合は、同量を追加投与する。なお、年齢・体重により適宜減量する。
7.用法及び用量に関連する注意
〈産科危機的出血、心臓血管外科手術における出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症〉
7.2 年齢・体重による投与量の減量の判断にあたっては、関連学会のガイドライン等、最新の情報を参考とすること。
14.適用上の注意
14.2 薬剤投与時の注意
14.2.4 輸注速度が速すぎるとチアノーゼ、動悸、血管内凝固による塞栓症又は血中カルシウムイオン濃度の低下を起こすおそれがあるので、患者の状態に応じて輸注速度を調整すること。
フィブリノゲン製剤使用例のJCVSD登録
登録施設は、フィブリノゲン製剤を使用した全例をJCVSD*に登録する。フィブリノゲン製剤使用例登録のためのJCVSD項目は次のとおりとする。①血中フィブリノゲン値(投与前、初回(3g)投与後、全追加投与終了後、未測定の場合もその旨記録する) ②フィブリノゲン製剤投与量(初回、総投与量) ③輸血量(RBC,FFP,PC,クリオプレシピテート) ④副作用(血栓塞栓症(動脈系)、血栓塞栓症(静脈系)、薬剤関連性ショック、過敏症、肝機能障害、腎機能障害、その他)
*日本心臓血管外科手術データベース機構フィブリノゲン製剤の適正使用に関する指導
①学会は、JCVSDに登録されたデータを基に、フィブリノゲン製剤の適正使用を監視する。②学会は、適正使用の使用指針に従わずに使用していると認められる登録施設に、個別に指導を行う。
人工心肺を用いる心臓血管外科手術と凝固異常
心臓血管外科手術は人工心肺を必要とすることが多く、凝固異常をきたし、出血傾向を生じやすい。その要因として、以下が挙げられる1。
- ①ヘパリンの使用
- ②人工心肺による各種凝固因子の希釈
- ③血液吸引による外因系活性化に伴う凝固因子の消費
- ④低体温による凝固因子活性、血小板機能の低下
フィブリノゲンは凝固カスケードの最終段階でフィブリンを生成する前駆物質であり、特にフィブリノゲンが低下する低フィブリノゲン血症は、心臓手術で遭遇する出血傾向の原因の一つである。大動脈手術の約半数、心臓弁再手術の約3分の1で血中フィブリノゲン値150㎎/dL未満の後天性低フィブリノゲン血症が報告されている2。フィブリノゲン製剤は血中フィブリノゲン値を速やかに上昇させ、心臓血管外科手術における出血傾向を改善するために使用される。
1碓氷章彦, 他. 日本心臓血管外科学会雑誌 2025;54:143-154.2Nishi T, et al. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2020;68:335-341.
フィブリノゲンHTの作用機序:フィブリノゲンがたん白分解酵素トロンビンに対する基質として働き、トロンビンの作用を受けてフィブリノペプタイドを遊離し、フィブリン(フィブリン・モノマー)に変わる。このフィブリン・モノマーが更にポリマーとなり、XIII因子、Ca2+の存在下でフィブリン塊を作り血液凝固を促進させる。
Nishi T, et al. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2020;68:335-341より作図
試験概要
目的
心臓血管外科手術中の後天性低フィブリノゲン血症の発生頻度と危険因子を明らかにする。
対象
名古屋大学医学部附属病院で2013年7月〜2016年11月に人工心肺を用いて心血管手術を受けた872例
試験デザイン
単施設・後向き観察研究
リミテーション
本研究は症例数は多いものの、背景が揃っていない。後向き研究であるため交絡因子は完全には除外できていないことに加え、単施設の結果であるため、一般化に限界がある。また、術者や麻酔の担当が統一されていないため、その差が結果に影響している可能性がある。
大動脈手術患者におけるフィブリノゲン製剤の有用性評価に関する研究(承認時評価資料)
碓氷章彦, 他. 日本心臓血管外科学会雑誌 2025;54:143-154.利益相反:本研究は、日本血液製剤機構の製剤提供を受けている
研究概要
研究プロトコール
人工心肺を用いて胸部または胸腹部大動脈手術を施行し、人工心肺離脱後に通常の止血操作を行った。硫酸プロタミンによるヘパリン中和を行い、3分間出血量を測定した後、止血操作を制限してフィブリノゲン製剤3gを投与した。再度3分間出血量を測定し、血中フィブリノゲン値が150mg/dL 未満かつ3分間出血量が30g以上の場合は、さらにフィブリノゲン製剤3gを追加投与した。
患者背景
- 32例(男性23例、女性9例)の患者を対象とした。平均年齢は64.3±15.0歳であった。
- フィブリノゲン製剤の使用量は3g(30例)、追加投与を含めて合計6g(2例)、3gの平均投与時間は12.9±7.6分であった。
血中フィブリノゲン値(検証的解析結果)
POCT(Point of Care Testing)により測定した手術開始時の血中フィブリノゲン値は平均231±43 mg/dLであったが、人工心肺終了時は109±26mg/dLに低下した。フィブリノゲン製剤(3g、2例はさらに3gを追加)の投与により、平均231±38mg/dLと有意に上昇した(p<0.0001、t検定)。
3分間出血量
3分間出血量はヘパリン中和後(平均144±88mL)と比較して、フィブリノゲン製剤投与(平均85±74mL)後に有意に減少した(p=0.00007、t検定:名目上のp値)。ただし、6例では3分間出血量が増加した。
血液凝固能
トロンボエラストメトリーを用いた血液粘弾性検査では、硫酸プロタミン投与によるヘパリン中和後と比較して、フィブリノゲン製剤投与後にFIBTEM A10(図4右)、EXTEM A10(図5右)およびINTEM A10(図6右)が有意に上昇した(p≦0.0001、t検定:名目上のp値)。
安全性(副作用)
32例に死亡例はなかった。血栓塞栓症を否定できない症例が3例(9%)認められた。なお、合併症の原因には複数の要因が想定されるため、フィブリノゲン製剤投与との因果関係は明らかではなかった。
症例1:David手術時に再建した右冠動脈の閉塞による心筋梗塞
症例2:Bentall手術時に再建した右冠動脈の閉塞による心筋梗塞
症例3:弓部置換術後の新規脳梗塞
本研究の限界
本研究では、人工心肺終了時の血中フィブリノゲン値が150mg/dL未満であり、ヘパリン中和後の3分間出血量が30g以上である症例を対象とした。しかし、出血が軽微な症例、血小板減少が軽度な症例も含まれており、臨床的にフィブリノゲン製剤が最も有用と考えられる病態を十分に反映できていない可能性がある。
人工心肺を用いた胸部大動脈手術に際し、低フィブリノゲン血症を呈し、出血傾向を認める患者へフィブリノゲン製剤を投与した。硫酸プロタミン投与によるヘパリン中和後と比較し、フィブリノゲン製剤の投与後は、以下の点が確認された。
- 血中フィブリノゲン値が有意に上昇した。(p<0.0001、t検定:検証的解析結果)
- 3分間出血量が有意に減少した。(p=0.00007、t検定:名目上のp値)
- 血液凝固能(FIBTEM A10、EXTEM A10、INTEM A10)が有意に上昇した。(p≦0.0001、t検定:名目上のp値)
監修医コメント
1980年代に加熱未処理フィブリノゲン製剤により多数のC型肝炎感染を生み出した経緯から、1998年にフィブリノゲン製剤の適応は先天性低フィブリノゲン血症の出血傾向に限定された。学会、患者会、行政など多方面の努力により、2021年9月に産科危機的出血が適応となったが、心臓血管外科領域への適応拡大は、日本心臓血管外科学会が行う調査により医療現場で適正使用可能と判断できるまで延期となった。フィブリノゲン製剤の実態調査、有効性評価に関する研究、適正使用の周知を進めた結果、2026
年3月23日に心臓血管外科領域への適応拡大を実現することができた。改めて関係された多方面の方々のご努力に感謝を申し上げる。
適応拡大に際しては、先天性低フィブリノゲン血症の患者への安定供給を確保したうえで、投与対象、用法・用量等の適正使用を遵守することが強く求められている。日本心臓血管外科学会は「フィブリノゲン製剤登録施設制度」を設定し、本剤の適正使用を推進している。登録施設の基準は、心臓血管外科専門医認定機構の基幹又は関連施設(「血管領域」のみは除く)、血中フィブリノゲン値の迅速測定が24時間実施可能、使用全例のJCVSD*登録、本剤の適正使用に関する学会指導の受諾である。
心臓血管外科領域における本剤の適応は、大動脈手術、心臓再手術等の人工心肺を用いた心臓血管外科手術において、血中フィブリノゲン値が150mg/dL
を下回った病態であり、出血量が多く、その原因が低フィブリノゲン血症である症例に限定される。成人例では、通常1回フィブリノゲン製剤3gを静脈内投与する。本剤の使用に際しては血中フィブリノゲン値を測定し、150mg/dL
未満であることを必ず確認する。血中フィブリノゲン値が150mg/dL未満であることのみに基づく安易な投与は行わない。止血効果が得られない場合は、血中フィブリノゲン値を再検し、150mg/dL
未満の場合は追加投与できる。しかし、本剤は血小板機能を改善しないため、低フィブリノゲン血症を改善させた後に血小板輸血を適切に行うことが重要である。
フィブリノゲン製剤を使用した全例はJCVSD*に登録しなくてはならない。学会はJCVSD*データを基に本剤の適正使用を監視し、個別指導を行うとともに、使用実態をモニタリングする。
フィブリノゲン製剤を使用するためには、フィブリノゲン製剤登録施設の認定を受け、適正使用の指針を遵守し、使用全例をJCVSD*に登録しなくてはならない。私たち心臓血管外科医は、本剤の歴史的経緯を胸に留め、常に真摯な態度で適正使用を遂行しなくてはならない。

