血友病と
生活習慣病
血友病患者の今後を考える
近年、血友病患者に対する定期補充療法の普及と治療薬の進化により、凝固因子活性を高く保つことができるようになった。
その結果、治療が十分でなかった時代には成人することさえ難しいとされた血友病患者の寿命が健常者と同等と言えるところまで延びている。
一方、患者の高齢化は生活習慣病のリスクを高めることから、医療現場での生活習慣病対策の必要性が以前より増している。
ここでは、日本人血友病患者の心血管疾患(cerebral
vascular disorder; CVD)と血栓症の発症率、リスク因子について、2023年に報告されたADVANCE Japan
Studyの内容を紹介するとともに、血友病患者の生活習慣病予防・対策の重要性について解説する。
広島大学病院 輸血部 助教
山﨑 尚也先生
血友病とは
血友病は、血液凝固因子の活性低下または欠乏により止血が困難になる遺伝性疾患である。第VIII因子の量的・質的異常症を血友病A、第IX因子の量的・質的異常症を血友病Bと呼ぶ。厚生労働省委託事業の令和5年度血液凝固異常症全国調査によると、我が国の患者数はそれぞれ5342例および1164例1)であった。
特徴的な出血症状としては、関節内出血や筋肉内出血といった深部出血が挙げられる。その他にも皮下出血や血尿、抜歯などの処置後の止血不良や消化管出血、ときに重篤な後遺症を残す頭蓋内出血を認めることもある。
治療は、凝固因子製剤もしくは凝固因子代替製剤の投与が中心となる。投与方法としては、出血時投与する出血補充療法、出血傾向の抑制として定期的に製剤を投与する定期補充療法、身体的負荷がかかる前に投与する予備的補充療法がある(凝固因子代替製剤においては出血傾向の抑制に限定されるなどの詳記が必要だが本稿では割愛)。
患者の高齢化と生活習慣病リスク
ここ数十年間で、血友病患者の平均寿命は飛躍的に延びた1-3)。図1からも明らかなように、平成15年から令和5年の20年の間に、血友病患者の最も多い年齢層は30代から50代に高齢化した。このように、現在では血友病患者に占める成人患者の割合が多くなり、70代以上の患者も珍しくない。
このような患者の高齢化に伴い、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病などの生活習慣病を有する血友病患者も増加していると考えられる。一般集団における死亡原因の上位に挙がるCVD4)は、生活習慣病の有無によって発症リスクが変わることが知られており5-6)、血友病患者では一般的に血液凝固能が低下しているとはいえ、患者の高齢化に伴い、生活習慣病によるCVD発症リスクの上昇が懸念される。また、虚血性疾患は血友病の重症度に応じて罹患率に差を認めていたが、定期補充療法の普及や半減期延長型製剤、凝固因子代替製剤の登場により、凝固因子活性を以前より高く保てるようになった結果、重症血友病患者であっても非重症血友病患者と同様に虚血性疾患の発症リスクにも意識を向ける必要がでてきている。
そのため、一般集団と同様、生活習慣病予防・対策として、バランスの取れた食事や定期的な運動を心掛ける重要性が高まっている。現在、日本でも血友病患者の合併症に関する前向き研究がおこなわれており4,7)、その結果が明らかとなれば、血友病におけるCVD発症率やその対策立案が可能となるため、一日千秋の思いである。
図1 厚生労働省委託事業血液凝固異常症全国調査 令和5年度報告書1) P4
令和5年5月31日時点 血液凝固異常症生存例の年齢分布
ADVANCE in Japan Studyの報告
本邦では、40歳以上の血友病A・B患者600例を対象に、CVDの発症率を主要評価項目として、血栓性疾患の発症率およびリスク因子などを10年間追跡する前向き多施設共同コホート研究ADVANCE in Japan Study(以下、本研究)が2019年より進行中である。今回、2021年までのデータがまとめられ2023年に発表された4)。
登録された血友病患者の年齢中央値は52歳(40-49歳 252例、50-59歳 194例、60-69歳 100例、70歳以上 54例)であった。このうち、男性が596例(99.3%)、女性が4例(0.7%)で、ほとんどが男性患者であった。また、血友病Aおよび血友病Bは、各499例(83.2%)、101例(16.8%)、重症度については、重症患者が380例(63.3%)、非重症患者が220例(36.7%)であった。
試験登録年またはそれ以前に発現し登録時まで治療が継続された血栓イベントは13例(2.2%)のみに認められ、そのほとんど(12例)が血友病A患者であった。このうち、9例は高血圧、5例は2型糖尿病、6例はヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症を合併しており、複数の患者が複数の合併症を併発していたことが示された。また、13例中10例は重症患者で、5例は40-50代の患者であった。心房細動は11例(1.8%)で報告された。
本研究と、本研究の前段研究でもある日本人成人血友病患者711例を対象とした観察研究(2016年からのデータを2019年に発表)を比較すると、2019年の発表では、血栓症(狭心症のみ)および心房細動の既往歴は、各0.3%(2/711例)、0.7%(5/711例)4,8)と本研究に比べ非常に低かった。
本研究のデータでは、狭心症および心房細動の発症率は各0.8%(5/600例)、1.8%(11/600例)であったことを考えると、これら疾患の有病率はここ数年間で上昇していることになる。しかし、この差異は血友病治療の進歩によるものか、本研究に際して診断率の向上がみられたかは不明であるため、本研究の続報が待たれるところである。
その他の併存疾患では、肝細胞がん27例(4.5%)、胃がん8例(1.3%)、HIV 194例(32.3%)、肝硬変29例(4.8%)、脂肪肝52例(8.7%)、骨粗しょう症37例(6.2%)、睡眠時無呼吸症候群11例(1.8%)、認知症3例(0.5%)、重度精神障害26例(4.3%)、胃食道逆流性疾患77例(12.8%)、慢性胃炎68例(11.3%)が認められた。
CVDのリスク因子を持つ血友病患者の割合を一般集団と比較した結果、LDL高値、慢性腎臓病(CKD)、喫煙患者の割合は一般集団より統計的に有意に低かったものの(各P<0.005:Mantel-Haenszel検定)、高血圧、糖尿病、BMI高値の割合は一般集団と比べて統計的に差はなかった。これらのCVDリスク因子に関して、本研究の結果と2019年の報告で、その傾向に違いはみられなかった4)。
本研究の限界として、対象となる日本の40歳以上の全血友病患者5772例の約10.4%にあたる600例のデータを集計したものの、患者数が限られること、イベントの発症数が少ないことなどが挙げられる。
以上、ADVACE in Japan Studyに関する2023年の報告内容をまとめた。
なお、血友病患者の虚血性疾患発症率が海外での報告に比べて日本人で低いと指摘されていることについて、長尾梓先生の概説7)では、その原因は不明としながら、日本人の遺伝的要素や食生活・生活習慣などの違いによる可能性を挙げている。
前述のADVANCE in Japan Studyの研究計画では10年間の追跡期間が設けられている。今後のデータの蓄積により、日本人血友病患者のCVD、血栓性疾患の発症率およびリスク因子がさらに明らかになっていくことが期待される。
これまでに得られたデータから、40歳以上の血友病患者では、リスク管理のためにも高血圧、LDL高値、CKD、喫煙などの日常的なモニタリングが必須であることが示唆される。
生活習慣病を1つでも少ない状態を目指そう
人間は皆、老いる。血友病患者も治療の進歩により老いることが可能となった。それと同時に、出血しやすい血友病患者は血栓性疾患とは無縁だと考えられていた時代は終焉を迎えつつある。故に、血栓性疾患のリスク因子である生活習慣病を発病しないよう、予防・対策は重要となる。
しかし、その重要度は一般集団と同等ではなく、血友病患者の方がより高いと考える。それはなぜか?CVDなどの血栓性疾患を発症すると、血友病患者であっても抗血栓療法が必要となる。もちろん、出血予防療法の継続も必要である。しかし、その両者のバランスのとり方に関しては、確固たる根拠を基にした明確な基準がなく、これからその検討をしていかなければならない状況である。
よって、そのような状況下に自らの身を投じないよう案ずれば、血友病患者の方が生活習慣病予防・対策の重要度が高くなるのである。血圧測定、栄養指導、体重管理、禁煙、適度な運動などの指導を血友病診療の一環として取り組み、生活習慣病を1つでも少ない状態を目指したケアが重要である。
生活習慣の基礎は成人期ではなく、小児期から構築されることを考えると、これら指導は早ければ早いほど効果的かもしれない。
監修医コメント
監修医:広島大学病院 輸血部 助教 山﨑 尚也 先生
審J2504032
引用文献
- 厚生労働省委託事業血液凝固異常症全国調査 令和5年度報告書(最終閲覧日:4月15日)
https://api-net.jfap.or.jp/image/data/blood/r05_research/r05_research.pdf - Franchini M, Mannucci PM. Co-morbidities and quality of life in elderly persons with haemophilia. Br J Haematol. 2010;148(4):522-533. doi:10.1111/j.1365-2141.2009.08005.x
- 厚生労働省委託事業血液凝固異常症全国調査 平成15年度報告書(最終閲覧日:4月15日)
https://api-net.jfap.or.jp/image/data/blood/h15_research/h15_research.pdf - Nagao A, Chikasawa Y, Sawada A, et al. Haemophilia and cardiovascular disease in Japan: Low incidence rates from ADVANCE Japan baseline data. Haemophilia. 2023;29(6):1519-1528. doi:10.1111/hae.14876
- Kamphuisen PW, ten Cate H. Cardiovascular risk in patients with hemophilia. Blood. 2014;123(9):1297-1301. doi:10.1182/blood-2013-11-453159
- 脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート2019 年版について 脳心血管病協議会 日本内科学会雑誌 108 巻 5 号: 1024-1070
- 血友病と加齢疾患 長尾梓 日本血栓止血学会誌2021:32(1):26-32
- Nagao A, Suzuki N, Takedani H, et al. Ischaemic events are rare, and the prevalence of hypertension is not high in Japanese adults with haemophilia: first multicentre study in Asia. Haemophilia. 2019;25:e223-e230. doi:10.1111/hae.13749

