自己免疫疾患にまつわる知識・情報UPDATE
Vol.5 自己免疫疾患の特徴 ②臓器特異的自己免疫疾患編
※記載されている薬剤の詳細に関しては各製剤の電子化された添付文書をご確認ください。
本パートでは臓器特異的自己免疫疾患の中から、比較的患者数の多い「重症筋無力症(MG)」と「多発性硬化症(MS)」のほか、全国的にも患者数の少ない「慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)」と「天疱瘡/類天疱瘡」の概要や特徴を紹介する。
<重症筋無力症(MG)>
MGは末梢神経と筋肉の接合部で筋肉側の受容体が自己抗体に侵され、神経から筋肉への信号が伝達されなくなる疾患である1)。
国内で指定難病として登録されているMG患者数は約2.6万人であり(2022年度末時点)、50代以降に好発する2)。男女比は、2018年の全国疫学調査によると1:1.15と女性にやや多い3)。
初発症状として約7割で眼瞼下垂、半数近くで複視を認め4)、四肢の症状では骨格筋の易疲労性を伴う筋力低下が特徴的である(図1)1)5)。また、胸腺腫や胸腺過形成など胸腺異常の合併や、バセドウ病、橋本病(慢性甲状腺炎)などの甲状腺疾患、RA、SLEなどの膠原病の合併がみられることがある。
自己抗体検査では、約80~85%が抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性、約5%が抗筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体陽性であるが、残りの約10~15%はいずれも検出されないdouble
seronegative
MGと分類される5)-7)。成人のMGは眼筋型と全身型に分けられ、全身型では自己抗体や胸腺腫の有無、発症年齢によりサブタイプに分類される5)。
治療は副腎皮質ステロイドや血漿交換、免疫グロブリン、免疫抑制剤のほか、難治例では分子標的薬として、補体標的薬や細胞内でIgG抗体が胎児性Fc受容体(FcRn)に結合するのを阻止するFcRn阻害薬などが用いられることもある5)。また、胸腺腫合併例では胸腺摘除が行われることがある。
<参考>難病情報センター. 診断・治療指針(医療従事者向け). 重症筋無力症(指定難病11). https://www.nanbyou.or.jp/entry/272(2024年9月閲覧)
重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン作成委員会 編. 日本神経学会 監修. 重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022. 第1章. 南江堂, 2022年5月.
<多発性硬化症(MS)>
MSの病態は電線を覆うビニールのカバーが剥がれ落ちた状態にたとえられるように、中枢神経の軸索を覆う髄鞘(ミエリン)が剥がれ落ち、神経がむき出しになる(脱髄する)ことで神経の伝達に障害を来す炎症性脱髄疾患である1)。中枢神経のあちこちに病変が多発し、病巣が古くなると瘢痕化して硬くなることからこの病名が付けられた。中枢神経のミエリン蛋白またはオリゴデンドロサイトを標的とした自己免疫的な機序が有力と考えられているが、免疫応答の引き金となる自己抗原は同定されていない8)。
国内のMS患者数は、2017年の全国調査では約1.8万人と推定されている1)9)。男女比は1:2.2~2.4と女性に多く、好発年齢は30歳前後である。
症状は脳や視神経、脊髄など病変が生じる部位によって、視力障害や運動・感覚障害、歩行障害など多様である(図2)1)8)。ウートフ現象や有痛性強直性痙攣、レルミット徴候などの特徴的な症状がみられることもある。
診断ではMRIが重要であり、このほか髄液検査や誘発電位検査などが行われる8)。MSの多くは再発と寛解を繰り返しながら慢性に経過する再発寛解型MS(RRMS)であるが、最初から進行性を示す一次性進行型MS(PPMS)や、初期に再発・寛解を示した後、次第に進行性の経過をとる二次性進行型MS(SPMS)もある1)。
急性増悪期の治療では、副腎皮質ステロイドによるパルス療法を中心に行うが、効果不十分な場合やステロイドが使えない場合は血漿交換が行われることもある8)。再発予防や進行抑制には、グラチラマー酢酸塩、フマル酸ジメチル、S1P受容体阻害薬、インテグリン阻害薬、B細胞阻害薬などの疾患修飾薬(DMD)が用いられる。
<参考>難病情報センター. 診断・治療指針(医療従事者向け). 重症筋無力症(指定難病11). https://www.nanbyou.or.jp/entry/272(2024年9月閲覧)
「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン」作成委員会 編. 日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン 2023. 医学書院, 2023年9月.
<慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)>
CIDPも炎症性脱髄疾患の一つであり、末梢神経のミエリンまたはSchwann細胞を標的とする自己免疫性疾患と考えられているが、疾患特異的な標的抗原はまだ同定されていない10)。
2021年の全国疫学調査によると、国内のCIDP患者数は約4,180人と推定され、発症年齢中央値は52歳、男女比は1.5:1と男性にやや多い11)。
症状は運動障害(四肢の筋力低下)と感覚障害(しびれ、感覚低下など)が主であり、筋萎縮は軽微である。典型的CIDPでは左右対称に症状が現れ、筋力低下が遠位と近位で同程度にみられる。
通常、8週間以上の慢性進行か再発・寛解を繰り返す経過をたどるが、一部の患者は急性発症することがある。そのようなケースではギラン・バレー症候群(GBS)と症状が類似しているため、鑑別が重要である(表1)10)12)。GBSは多くの患者で発症前4週以内に上気道感染や消化器感染などのイベントが先行し、通常は急性進行型の経過をたどる12)。そのため、発症から8週を超え、3回以上の症状増悪がある場合は急性発症CIDPと考えるのが妥当である13)。
CIDPの治療は免疫グロブリン、副腎皮質ステロイド、血漿交換の3者が有効であり、このうち免疫グロブリンと副腎皮質ステロイドが第一選択である10)。なお、GBSでは経静脈的免疫グロブリン療法や血漿浄化療法が有効である12)。
<参考>慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー,多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン作成委員会 編. 日本神経学会 監修. 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー,多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2024. 南江堂, 2024年6月.
ギラン・バレー症候群,フィッシャー症候群診療ガイドライン作成委員会 編. 日本神経学会 監修. ギラン・バレー症候群,フィッシャー症候群診療ガイドライン2024. 南江堂, 2024年6月.
<天疱瘡・類天疱瘡>
天疱瘡と類天疱瘡はいずれも皮膚や粘膜に水疱やびらんが生じる自己免疫性水疱症である14)15)。天疱瘡では上皮の細胞と細胞を接着させる分子に対する自己抗体によって表皮内に水疱を生じるのに対し、類天疱瘡では表皮と真皮の間にある基底膜部の蛋白質に対する自己抗体によって表皮下に水疱を生じる(表2)1)14)15)。類天疱瘡の大部分を占める水疱性類天疱瘡は、DPP-4阻害薬を服用している2型糖尿病患者で発症頻度が高いことが知られている16)。
国内で指定難病として登録されている患者数は天疱瘡が約3,200人、類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)が約3,900人であるが(2022年度末時点)4)、軽症者を含むと実際にはさらに多いと考えられる。好発年齢は天疱瘡が40~60代で女性にやや多く14)、類天疱瘡(水疱性類天疱瘡)は60代以上、特に70代後半以上の高齢者に多い15)。
治療はいずれも副腎皮質ステロイドが主体であり、免疫抑制剤や血漿交換、免疫グロブリンなどが併用されることもある14)15)。天疱瘡、類天疱瘡ともに、治療によって多くの患者が寛解に至るが、一部、治療に抵抗性を示す難治性の患者もいる。難治性の天疱瘡には、B細胞阻害薬が併用されることもある。
<参考>難病情報センター. 病気の解説(一般利用者向け). 天疱瘡(指定難病35). https://www.nanbyou.or.jp/entry/153 および類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む。)(指定難病162). https://www.nanbyou.or.jp/entry/4525(2024年9月閲覧)
天疱瘡診療ガイドライン作成委員会. 天疱瘡診療ガイドライン. 日皮会誌. 2010; 120: 1443-1460.
類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン作成委員会. 類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン. 日皮会誌. 2017; 127: 1483-1521.
- 難病情報センター. 指定難病一覧. https://www.nanbyou.or.jp/entry/5461(2024年9月閲覧).
- 難病情報センター. 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数. https://www.nanbyou.or.jp/entry/5354(2024年9月閲覧).
- Yoshikawa H, et al. PLoS One. 2022; 17: e0274161.
- Murai H, et al. J Neurol Sci. 2011; 305: 97-102.
- 重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン作成委員会 編. 日本神経学会 監修. 重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022. 南江堂, 2022年5月.
- 島智秋, 本村政勝. 日本臨牀. 2015; 73 (増刊号7): 465-471.
- Utsugisawa K, et al. Muscle Nerve. 2017; 55: 794-801.
- 「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン」作成委員会 編. 日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン 2023. 医学書院, 2023年9月.
- 吉良潤一ほか.第5回多発性硬化症・視神経脊髄炎全国臨床疫学調査結果第2報.厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 神経免疫疾患のエビデンスに基づく診断基準・重症度分類・ガイドラインの妥当性と患者 QOL の検証. 令和 2年度 総括・分担研究報告書. 2021; 29-31.
- 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー,多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン作成委員会 編. 日本神経学会 監修. 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー,多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2024. 南江堂, 2024年6月.
- Aotsuka Y, et al. Neurology. 2024; 102: e209130.
- ギラン・バレー症候群,フィッシャー症候群診療ガイドライン作成委員会 編. 日本神経学会 監修. ギラン・バレー症候群,フィッシャー症候群診療ガイドライン2024, 南江堂. 2024年6月.
- Ruts L, et al. Neurology. 2005; 65: 138-140.
- 天疱瘡診療ガイドライン作成委員会. 天疱瘡診療ガイドライン. 日皮会誌. 2010; 120: 1443-1460.
- 類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン作成委員会. 類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン. 日皮会誌. 2017; 127: 1483-1521.
- 日本皮膚科学会類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン策定委員会. 日本皮膚科学会ガイドライン. 類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン 補遺版. 日皮会誌. 2023; 133: 189-193.


