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自己免疫疾患にまつわる知識・情報UPDATE

自己免疫疾患にまつわる知識・情報UPDATE

2024年11月掲載(審J2409128)

Vol.3 自己免疫疾患の多様性​

抗体と抗原は1対1の関係

自己免疫疾患の治療で使われる生物学的製剤の多くは抗体医薬品である。20世紀半ばから使われてきた免疫グロブリン製剤に始まり、特定の抗原のみを狙い撃ちするモノクローナル抗体に至るまで、現在では多くの抗体医薬品が用いられている。モノクローナル抗体は、1つの抗体(コラム参照)は1種類の抗原しか認識しないという免疫の特異性を利用してつくられた医薬品である。
抗体を産生するのはB細胞であるが、そもそも1つのB細胞は1種類の抗体しかつくることができないため、膨大な種類の病原体や異物に立ち向かうには多種多様な抗体をつくる必要がある。実際、一個人が産生できる特異性の異なる抗体は10億にも上るという1)。それだけバリエーションのある抗体をつくることができるのは、免疫グロブリンの抗原を見分ける部分(Y字型の先端部分)の遺伝子の組み合わせを換えて何通りもの抗体を編み出す「遺伝子再編成」の賜物である。さらにB細胞は抗体の種類を増やすだけでなく、抗体の性能アップにも余念がない。ではB細胞は一体、どのようにして抗体の性能を上げるのだろうか。

コラム:いまさら聞けない免疫の基礎知識「抗体のクラスと働き」​

抗体には5つのクラスがあり、IgMは五量体、IgG、IgE、IgDは単量体、IgAは二量体を形成できる(表11)2)
IgMはB細胞が最初に産生する抗体で、補体を活性化する力が強い。血中に最も多いIgGは中和作用や補体の活性化のほか、食細胞の貪食作用を促進するオプソニン化で強い力を発揮し、ナチュラルキラー(NK)細胞の抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)を促す働きもある。IgAは眼や鼻、喉、消化器などの粘膜組織で分泌され、感染防御や毒素の中和のほか、母乳を介して新生児を感染から守る働きもある。IgEは極めて微量であるが、マスト細胞や好塩基球などの受容体に結合し、寄生虫の排除や、喘息、花粉症などのI型アレルギーに関与することが知られている。なお、IgDの働きについてはよくわかっていない。

表1 血中に占める抗体の割合と主な働き 表1 血中に占める抗体の割合と主な働き <参考>
Peter Parham. 平野俊夫, 村上正晃 監訳. エッセンシャル免疫学 第4版. 第1章, 第4章. メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2023年8月.
西村尚子. 安部良 監修. いちばんやさしい 免疫学. 3-4章. 成美堂出版, 2022年4月.

抗体の性能をパワーアップするための2つの秘策

B細胞とT細胞はそれぞれの名称の由来となっている骨髄(bone marrow)と胸腺(thymus)で分化し、さらにふるいにかけられた後、生き残った細胞だけが脾臓やリンパ節などの二次リンパ組織へと移動する(Vol.1「本来、免疫は自己に優しい」参照)。​
二次リンパ組織ではB細胞とT細胞はそれぞれの居場所(領域)に存在しており、B細胞が抗体を産生するには、同じ抗原を認識できるT細胞と出会う必要がある。そのため、B細胞は病原体などの抗原を取り込むと、B細胞とT細胞の境界領域(T-B境界領域)へと移動する(図1-①2)3)。そこでヘルパーT細胞(Th)と出会い、活性化したB細胞は、まずIgM抗体を産生する(図1-②)。その後、免疫反応が進むにつれ、B細胞は抗体の性能を上げるために胚中心という反応の場に移り、ある秘策を持ち出す。その一つが「クラススイッチ(アイソタイプスイッチ)」である(図1-③)。クラススイッチとは、IgM抗体の抗原に対する特異性は保ったまま、IgGなど異なるクラスの抗体につくり替えることである。ここからさらに多様な抗原に対応しようと、濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh)の助けを受け、通常より高頻度の突然変異を起こすB細胞が現れる(図1-④)。その結果、もう一つの秘策である「親和性成熟」が起こる(図1-⑤)。親和性成熟では、抗原との結合力が弱い(親和性が低い)B細胞はアポトーシスし、より強力に結合できる(親和性が高い)B細胞が形質細胞(抗体産生細胞)となって大量の抗体をつくり出すしくみである。また、B細胞の一部はメモリーB細胞となり、抗原の情報を記憶して次の病原体の侵入に備える(図1-⑥)。​
B細胞が抗体の性能をパワーアップして量産できるのは、こうしたクラススイッチや親和性成熟といったしくみのおかげである。

図1 B細胞が多様な抗体をつくり出すしくみ(クラススイッチと親和性成熟) 図1 B細胞が多様な抗体をつくり出すしくみ(クラススイッチと親和性成熟) <参考>
西村尚子. 安部良 監修. いちばんやさしい 免疫学. 4章.成美堂出版, 2022年4月.
山下政克 編. 基礎から学ぶ免疫学. 4章. 羊土社, 2023年11月.

診断の手がかりとなる自己抗体​

自己免疫疾患では、自己抗体の存在が診断の手がかりとなる。ただし、抗体検査で陽性とならないケースもあれば、陽性であっても必ずしもその疾患ではないケースもある。膠原病のスクリーニング検査で測定されるリウマトイド因子(RF)は、関節リウマチ(RA)の約70%、シェーグレン症候群の約75~95%で検出されるが、肝炎や肝硬変、結核などのほか、健常人でも約5~25%で陽性になることがある4)。また、抗核抗体(ANA)*は全身性エリテマトーデス(SLE)のほぼ100%、全身性強皮症の90%以上で検出されるが、健康な若い女性でも約5~10%で陽性になることがある5)6)
自己抗体を持っているからといって必ず発症するわけではなく、遺伝要因や環境要因(Vol.2参照)などのリスク因子が積み重なった結果、抗体が過剰に産生され、発症に至るケースも少なくない。​ *真核細胞の核に結合する抗体群の総称​ 各疾患の確定診断には、疾患標識抗体と呼ばれるより特異的な抗体(表27)8)を測定し、臨床症状やその他必要な所見もあわせて診断する。ただし、多発性硬化症のように特異的な自己抗体が特定されていない疾患もあることに留意が必要である。

表2 自己免疫疾患の診断で用いる抗体検査​ 表2 自己免疫疾患の診断で用いる抗体検査 <参考>
厚生労働科学研究費補助金 免疫・アレルギー疾患政策研究事業「ライフステージに応じた関節リウマチ患者支援に関する研究」研究班 編. メディカルスタッフのためのライフステージに応じた関節リウマチ患者支援ガイド. 第1部 I. 羊土社, 2021年12月.
厚生労働省. 指定難病の概要、診断基準等、臨床調査個人票(告示番号1~341). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36011.html(2024年9月閲覧).
【参考資料】
  1. Peter Parham. 平野俊夫, 村上正晃 監訳. エッセンシャル免疫学 第4版. メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2023年8月
  2. 西村尚子. 安部良 監修. いちばんやさしい 免疫学. 成美堂出版, 2022年4月.
  3. 山下政克 編. 基礎から学ぶ免疫学. 羊土社, 2023年11月.
  4. Suresh E. Cleve Clin J Med. 2019; 86: 198-210.
  5. 難病情報センター. 指定難病一覧. https://www.nanbyou.or.jp/entry/5461(2024年9月閲覧).
  6. 日本皮膚科学会. 皮膚科Q&A. 膠原病と類縁疾患. https://www.dermatol.or.jp/qa/qa7/index.html(2024年9月閲覧).
  7. 厚生労働科学研究費補助金 免疫・アレルギー疾患政策研究事業「ライフステージに応じた関節リウマチ患者支援に関する研究」研究班 編. メディカルスタッフのためのライフステージに応じた関節リウマチ患者支援ガイド. 第1部 I. 羊土社, 2021年12月.
  8. 厚生労働省. 指定難病の概要、診断基準等、臨床調査個人票(告示番号1~341). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36011.html(2024年9月閲覧).

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