- 特集
CIDP診療の新たな展開~これからの治療の最適化について考える~
本邦では、2021年に15年ぶりとなる慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)の全国調査が実施され、国内のCIDP診療に関する最新の疫学/臨床プロファイルがアップデートされました。第一選択治療に反応しない治療抵抗性CIDPが一定数存在することが明らかとなる一方、病態機序の解明も進み、新たな治療法が登場しています。本講演会では、近畿大学医学部脳神経内科の桑原基先生をお招きし、変わりゆくCIDP診療のなかで最適な治療を決定していくためのポイントについてご講演いただきました。
演者 桑原 基 先生 近畿大学医学部 脳神経内科 講師 (2025年12月当時のご所属)
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【所属】近畿大学医学部 脳神経内科 講師
【略歴】2005年3月 近畿大学医学部卒業
2005年4月 近畿大学医学部附属病院 臨床研修医
2007年4月 国家公務員共済組合連合大手前病院 神経内科
2007年9月 近畿大学医学部 神経内科 助教
2012年3月 近畿大学大学院 医学研究科修了
2012年6月 University of Glasgow, Institute of Infection, Immunity and Inflammation
2012年12月 近畿大学医学部 神経内科 助教
2014年4月 近畿大学医学部 神経内科 医学部講師
2017年4月 近畿大学医学部 脳神経内科 講師
【所属学会】日本内科学会、日本神経学会、日本末梢神経学会、日本神経免疫学会、日本神経治療学会、Peripheral Nerve Society
これまでの変遷
CIDPは8週間以上の経過で進行する、単相性/再発性/慢性進行性の四肢の筋力低下と感覚障害を主徴とする免疫介在性の脱髄性末梢神経障害である。初めて後天性慢性脱髄性末梢神経障害としてまとまった報告がされたのは1958年で、副腎皮質ステロイドに反応する再発性ニューロパチーとしてAustinによる自験例を含む32例のレビューがBrain誌に掲載された1。1975年にはDyckらにより現在のCIDPの疾患概念が報告され、その後、複数のCIDPの診断基準が報告され、その中でも1991年に発表された米国神経学会のAANの診断基準2が普及した。1982年には多巣性感覚運動型CIDP(後にMADSAMと呼称)が報告され、同年にIgM M蛋白関連ニューロパチーにおいてMAG抗体の発見も報告された。2000年には遠位優位型CIDP(DADS)について報告され、欧州神経学連合と国際末梢神経学会による2010年のEFNS/PNS 2010基準3,4において、抗MAGニューロパチーはCIDPから除外され、MADSAMやDADSは「非典型的CIDP」として区別された。本邦の初めてのガイドラインは2013年に発表され、同時期にparanode抗体が初めて同定されている。2021年にはEFNS/PNSのガイドラインが改訂され(EAN/PNS 2021基準5,6)、2024年に改訂された本邦のガイドラインもそれに準じた内容となっている7。
CIDPの疫学
CIDPの有病率は世界的に人口10万人当たり1.6~8.9人、発症率は0.2~1.6人/年と報告されている8。我が国におけるCIDPの有病率は、以前の2004~2005年の調査では10万人当たり1.6人と報告されていたが9、EFNS/PNS 2010基準を用いた最新の2021年の全国調査では、10万人当たり3.3人に更新され、男性にやや多く(男女比1.5:1)、発症率は10万人当たり0.36人/年と報告されている10。
CIDPの病態
CIDPの病態生理は完全には明らかになっていないが、血液神経関門(BNB)の透過性亢進や、神経終末と神経根部における脆弱または解剖学的欠如が病態機序に関与していると考えられている(図1)11。CIDP患者の血清を、BNBを構成する神経内膜内微小血管内皮細胞に作用させると、タイトジャンクションを構成するタンパクの1つであるclaudin-5の発現低下と電気抵抗値の低下を示した報告がある12。
また、CIDPには細胞性免疫と液性免疫の両方の機序が存在すると考えられている。
細胞性免疫としては、末梢血液中で抗原提示を受けて活性化したT細胞やB細胞がBNBを通過し、炎症シグナルにより活性化したマクロファージが髄鞘を貪食する。さらに、多くの研究でインターロイキン(IL)-6、IL-17、TNF-α、CXCL10(IP10)の上昇が報告されている13。これらのサイトカインやケモカインはT細胞の活性化によって産生亢進され、これらがマクロファージを活性化するという機序が考えられる。
一方、液性免疫としては、B細胞では未知の抗原に対する抗体産生が起こり、BNBを通過して髄鞘やランビエ絞輪に結合することで補体が活性化し、膜侵襲複合体(MAC)が形成され神経損傷を引き起こす。これまでCIDPでは、様々な末梢神経の構成成分に対する抗体が検索され、ガングリオシド、髄鞘タンパク、パラノードの膜タンパクなどに対する抗体が一部の患者で陽性となることが報告されている14。また、CIDP患者の血清をマウスおよびヒトの神経に作用させると、髄鞘に自己抗体(IgG、IgM)および補体(C3d)の沈着が認められたという報告15や、CIDP患者の末梢血中および脳脊髄液では活性化補体の増加が認められたという報告16がある。
図1 CIDPの病態機序
Querol LA, et al. Neurotherapeutics. 2022;19(3):864-873.
© The Author(s) 2022.
本図は、CC BY 4.0(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)のもとに転載が許可されています。
CIDPの診断
CIDPの診断は、臨床基準と電気診断基準によって行われる。まず、臨床基準のいずれかに合致するかを確認する。その際に重要なことは、鑑別診断である。最新のガイドライン5,6,7では、鑑別のための考慮すべき検査やred flagsが提示されている。次に、電気診断基準として、運動神経伝導基準に加え、感覚神経の伝導異常を評価する。さらに、支持基準として、治療反応性、画像検査(神経超音波・MRI)、脳脊髄液検査、神経生検が挙げられている。これらの支持基準は、possible CIDPからCIDP(以前のdefinite CIDP)への格上げに用いられる。
大部分のCIDPは、上肢・下肢の近位筋と遠位筋が対称性に障害される典型的CIDPである。CIDPバリアントとして、遠位筋に限局する遠位型、非対称性の多巣性/局所性、運動症状のみの運動型、感覚症状のみの感覚型がある(図2)17。このほか、運動症状のみの場合でも神経伝導検査で感覚神経に異常が認められるものは運動優位型CIDP、感覚症状のみの場合で運動神経の異常が認められるものは感覚優位型CIDPと呼ばれている。
本邦における臨床病型の割合は、典型的CIDPが全体の52%、多巣性/局所性および遠位型がいずれも17%、感覚型および運動型はそれぞれ5%前後となっている。
CIDPと区別される代表的疾患として、自己免疫性ノドパチーと抗MAGニューロパチーが挙げられる。自己免疫性ノドパチーはパラノードに局在する膜蛋白に対する抗体が陽性となり、標的抗原で最も頻度が高い neurofascin(NF)155のほか、contactin1(CNTN)1、contactin-associated protein(Caspr)1、NF140/186などが確認されている。これらの抗体陽性例では静注用免疫グロブリン製剤(IVIg)に抵抗性を示し、類縁疾患として区別されている5,6,7。MAG抗体陽性の抗MAGニューロパチーは比較的高齢で発症する患者が多く、特にIgM型のM蛋白が陽性の場合は注意が必要である。ただし、初期にはM蛋白が検出されない場合もある。抗MAGニューロパチーは、IVIgや副腎皮質ステロイドなどの治療に抵抗性を示すため一般的に難治性である5,6,7。
図2 CIDPの臨床基準
Lewis RA, et al. J Neurol Sci. 2022;443:120478より改変して転載
「警告、禁忌を含む注意事項等情報」等は電子添文およびDIをご参照ください。
CIDPの治療
現在のCIDPの第一選択治療は、IVIgと副腎皮質ステロイド、次に血漿浄化療法である7。1つの治療が無効の場合は、診断の見直しを行いながら別の治療法へと切り替えていく流れになる(図3)5,6。難治性の患者では免疫抑制薬を用いる場合もあるが、保険適用外である。
本邦におけるCIDP治療では、1999年に寛解導入療法に対するIVIgが承認され、2016年には維持療法に対しても承認された。その後、2019年には維持療法に対して皮下注用免疫グロブリン製剤(SCIg)が使用可能となり、2024年には胎児性Fc受容体阻害薬(FcRn阻害薬)が承認され、寛解導入療法と維持療法の新たな選択肢として使用可能になった。
図3 治療のフローチャート
Van den Bergh PYK, et al. Eur J Neurol. 2021;28(11):3556-3583. /Van den Bergh PYK, et al. J Peripher Nerv Syst. 2021;26(3):242-268より改変して転載
IVIgのエビデンス
導入療法としてのIVIgの有効性は、複数のランダム化対照試験(RCT)により示されている18-21。維持療法としてのIVIgの有効性はRCTのICE study22で示されており、プラセボと比べて再発までの期間が有意に延長した[p=0.011(Kaplan-Meier推定値をlog-rank検定で比較)](副次評価項目)。しかしながら、プラセボ群においても5割ほどが無再発であったことには、注意が必要である。
維持治療の中止
したがって、維持療法の中心となっている免疫グロブリン製剤については、寛解状態が6ヵ月継続した場合、減量や中止を検討していく必要がある7。IVIgを中止する際に、漸減して中止した場合と漸減せずに中止した場合の再燃までの期間は、それぞれ8.8ヵ月と3.5ヵ月であったことが示されている。いずれの場合も、3分の1の患者は寛解し、2年以上寛解が維持されたが、3分の2の患者は再燃した23。しかし、IVIgを中止して再燃した場合も、再度寛解導入療法を行うことにより、94%の患者で再安定化することが報告されている24。
IVIgの作用機序
IVIgには大きく分けて、自然免疫に対する作用と獲得免疫に対する作用がある(図4)25。自然免疫としては、ナチュラルキラー(NK)細胞、樹状細胞、好中球およびマクロファージなどの活性化や阻害に関わっている。獲得免疫としては、自己抗体の中和、ヘルパーT(Th)細胞の分化の調整、制御性T細胞の活性化などが挙げられる。
また、免疫グロブリンはFab領域とFc領域で構成され、それぞれが異なる作用を発揮する(図5)26。Fab領域は、細胞表面の受容体に結合することによって相互作用を遮断するほか、免疫グロブリン製剤に含まれる抗イディオタイプ抗体は、サイトカイン、活性化補体および自己抗体に対する中和作用を有する。Fc領域は、マクロファージなどに発現するFcγ受容体に結合して活性化を阻害するほか、免疫グロブリン製剤の大量投与により胎児性Fc受容体(FcRn)が飽和し、IgGを分解すると考えられている26。
図4 IVIgの自然免疫・獲得免疫に対する作用
Galeotti C, et al. Int Immunol. 2017;29(11):491-498.
図5 IVIgのFab依存性作用とFc依存性作用
Lünemann JD, et al. Nat Rev Neurol. 2015;11(2):80-89.
国内CIDP患者における診療実態
商用データベースを用いた国内CIDP患者の診療実態の調査27は、新規にCIDPの診断コードが付された1,227例の患者のうち、何らかの治療介入を受けた患者の割合は74.0%であった。治療を受けた患者の初期治療のうち、最も多く使用されたのはIVIg(54.3%)であり、次いで副腎皮質ステロイド(45.4%)であった(図6)。
図6 CIDP患者の診療実態
Kuwahara M, et al. Clin Exp Neuroimmunol. 2025;16(2):98-107.
安全性
本調査における安全性の分析では、IVIg単独療法を受けた患者における500日および1,000日時点の有害事象の発生率は、それぞれ7.2%および10.0%であった(感染症:5.1%および7.8%、血栓塞栓症:1.0%および1.9%、悪性腫瘍:1.8%および1.8%、急性腎不全:0.6%および1.3%、無菌性髄膜炎:0.0%および0.0%)。一方、副腎皮質ステロイド単剤治療群における500日および1,000日時点の有害事象の発生率は、それぞれ23.1%および28.3%であった(感染症:15.3%および17.0%、糖尿病:8.0%および9.2%、悪性腫瘍:2.2%および4.0%、骨関連有害事象:0.8%および0.8%、消化性潰瘍:0.5%および0.5%)。本分析は比較を目的としないため群間調整をしていないが、治療が長期に及ぶ場合は、副作用への注意が必要である。
臨床病型による治療反応性の違い
2021年の全国調査10により、治療に対する反応率(ONLSが1以上改善)はIVIgが83%(880/1,061名)、副腎皮質ステロイドが80%(497/625名)、血漿浄化療法が69%(89/129名)であり、全体の14%が第一選択治療に抵抗性であることが示された。この反応性の違いの一部には、CIDPの臨床病型が関与している可能性がある。
臨床病型による治療反応性の違いについては様々な報告あるが10,28-30、典型的CIDPのほうが多巣性CIDPよりも全体的に治療反応性が高く、多巣性CIDPではIVIgより副腎皮質ステロイドにより反応するという報告がある28,29。これは、典型的CIDPでは液性免疫の影響をより強く受け、多巣性CIDPでは細胞性免疫の影響をより強く受けているという病態の違いによるものと推察されている。
新規治療の開発状況
CIDPの新規治療法として、2024年に承認されたFcRn阻害薬のほか、B細胞枯渇療法(CD20抗体)および補体阻害薬(C1s抗体)が挙げられる(いずれも本邦未承認)。FcRn阻害薬は、承認の基となったADHERE試験31において66.5%の患者で臨床的改善のエビデンス(主要評価項目)が認められ、再発率はプラセボ群と比べて有意に低いことが示されている[ハザード比:0.394(95%信頼区間:0.253~0.614、p<0.0001、投与群を固定効果としたCox比例ハザードモデル]。治療を継続した場合も、血中IgG値は7~8割の低下を維持した。臨床的改善が認められた後にプラセボに移行した患者では、速やかにIgG値が回復した。FcRn阻害薬は既存の治療が有効であっても頻回に再燃する患者、併存疾患や副作用のためにIVIgや副腎皮質ステロイドの治療が困難である場合や第一選択治療に抵抗性である場合などに検討できると考えられる。CD20抗体のリツキシマブは、IVIgおよび副腎皮質ステロイドに抵抗性の症例において、12ヵ月時点で93%の患者が改善したことが報告されている32。C1s抗体のriliprubartは、第Ⅱ相臨床試験で標準治療(IVIgまたは副腎皮質ステロイド)からriliprubartに切り替えた群の88%で改善または病勢が安定し、標準治療に抵抗性であった群の50%で治療反応がみられた33。現在第Ⅲ相臨床試験が進行中である。
まとめ
CIDPの第一選択治療はおよそ8割で治療反応性が示されている一方、14%が第一選択治療に抵抗性である10。これらの患者に対しては、今後の新規治療薬の登場が期待される。IVIgの維持療法の中止後は3分の1で長期寛解となるが、3分の2の患者は再燃するため、長期の治療継続が必要になる場合がある23。
CIDPの治療の最適化を考えるうえで、有効性と安全性はもちろん重要であるが、治療の継続を考慮すると、利便性も重要な要素である。患者の年齢、臨床病型、重症度、併存疾患、ライフスタイルなどを十分に考慮し、患者の特徴に応じた治療選択が重要となる。
CIDPの治療選択肢は拡大しつつあり、患者との協働的意思決定(シェアード・ディシジョン・メイキング)により、最適な治療法を決定していくことが大切である。
開催日:2025年7月18日(金)
主催:一般社団法人 日本血液製剤機構
2025年12月作成
審J2512217
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