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4.病院

Q

息子も今春から高校生。地元の総合病院を紹介されましたが、息子は病院に行きたがりません。 これまでずっと小児科で全てを診ていただいてきたので、血液内科、整形外科など、いろいろな診療科に回されたり、曜日によって先生が変わったりすると聞いて、不安なようです。 実は親としても小児科の先生を信頼していたので、ちょっと不安です。 皆さんは何を目安に病院を選んでいるのでしょうか。

A

QOL調査(平成22年度厚生労働省科学研究事業「血液凝固異常症のQOLに関する研究報告書」)によれば、16歳以上の血友病患者さんの3割は小児科に通っています。しかも”診てくれるところがないから通っている”などの消極的な理由の方は1割余に過ぎず、ほとんどの方が不満なく小児科に通い続けているようです。今の医療に満足しているのなら、わざわざ別な病院に行きたくない気持ちも分かります。

ただ、”子ども病院”や”小児医療センター”では、受診に年齢制限がある場合もあります。進学・就職や転勤での転居もあるかもしれません。関節障害、肝臓機能や生活習慣病で内科、泌尿器科や整形外科の専門医師に診てもらう必要も生じるかもしれません。そうでなくても日進月歩の領域なので、全く専門医に診てもらっていないのは不安です。

もうひとつ、病院に行きたがらないということに対しては、他に考えたいことがあります。それは前項で述べた思春期という時期です。定期補充の際だけでなく、通院すれば嫌でも病気を意識させられてしまいます。部活やアルバイトでは、他の少年と変わらなくやっているので病気のことはなるべく考えたくないと思い、通院を嫌がっても不思議ではありません。ここは転院先のせいと決めつけないで、そのまま見守ってあげるのもー案です。治療する必要性を自分で認識すれば、また通院するようになります。

実際にどれくらいの方が専門医療機関に通っているかといえば、平成19年度の血液凝固異常症QOL調査では患者さんの87%が何らかの形で、専門の医療機関を受診していることが分かっています。では専門の医療機関を選択するにあたって血友病患者さんは何を大切だと考えているのでしょう。先ほどの調査では病院選びに際して、患者さんは”専門医、救急体制、整形外科医、歯科医、疾患の分かる看護師がいること”を重視し、満足度を上昇させる要因として、”主治医・看護師の対応”、“救急対応”に加えて、”医療機関からいつも十分な医療情報が得られる”、”病院-患者会の連携”、”医師からの十分な説明”が大切と分かりました。さらに薬剤師、ソーシャル・ワー力一、臨床心理士、理学療法士や医療事務など、社会的支援、生活への助言や相談ができるスタッフの存在が、患者さんに安心感を与えていることも分かりました。病院選びはチーム医療体制もポイントになります。

通院頻度で最も多いのが月1回。通院時間は地元の一般的医療機関であれば30分、地域の専門医療機関は45分、地元でない専門医療機関は1時間45分程度が平均の片道通院時間でした(平成22年度血液凝固異常症QOL調査)。また1時間以内の通院時間には、ほとんど不満を持つ人がいませんが、2時間以上となると不満に思う人が増えます。専門医療機関といえども2時間以内の通院時間に収めたいと考えている患者さんの気持ちが表れていますね。

病院に患者会がある、あるいは地域の患者会と連携しているといった点も大切です。患者さん同士が知り合いになり、言葉を交わすことは時として医療者の励まし以上の力を持ちます。先輩の知恵や経験はとても参考になるでしょうし、医療機関の姿勢がオープンで、他の医療機関と気軽に連絡、連携をとりあってくれることも大切です。

ただ相性もあるでしょう。他人には良い先生でも肌の合わない場合もあります。無理するよりは別な所に通ったほうがお互いの幸せかもしれません。これは行ってみるまでは分かりませんね。

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Q

血友病専門医療機関が分かりません。血友病仲間も知りません。見つけても、どうやったら診てもらえるのでしょう?

A

同じ町内にいる血友病専門医に通っているなんて人のほうがまれです。血友病を専門とする医療機関や医師は大変に少なく、市内どころか県内にも専門医がほとんどいない地域もあります。どうやって頼りになる医療機関を探したらいいのでしょう。もっともこの冊子を病院からもらったという皆さんには必要はないかもしれません。今の病院がこうした情報や冊子を得て、きちんと患者さんに伝えている証しです。とは言え、転居、進学や就職で病院を替える必要がでるかもしれません。

本冊子を製作していた日本血液製剤機構では「もしものために」という専門医療機関ガイドを出しています。他にも病院をリストアップしたガイド冊子はあります。また、現在はインターネットを使って調べることもできますが、注意事項としてインターネットの場合は新旧の情報が入り乱れていますので、日付には十分注意してください。

行ってみたい専門医療機関が見つかったとき、最初にすることは今のかかりつけの医師に話して紹介状を書いてもらうことです。先生に切り出しにくい場合「(診察の問題ではなく)他の患者さんに会って話を聞いてみたいので」というお願いの仕方なら比較的抵抗は少ないと思います。それでも「他所にいくならうちは診ない」と言い出す先生で、しかも近所に他に適当な先生がいない地域だったら…そのときは内緒で行くこともあるでしょう。

その際には行った先の専門医療機関の先生だけにはその辺の事情をしっかりお話ししておいてくださいね。

もし遠くの専門医療機関しかなかったとしても一度はその門を叩くことをお勧めします。そこには、これまで知らなかった情報や知恵があるはずです。うまく行けば患者仲間に出会えるかもしれませんし、戻って地元の良い医療機関の情報を教えてもらえるかもしれません。近所の医療機関が駄目だと言っているのではありません。何かあった時にすぐに力になってもらえるのは身近な医療機関です。普段はそこにかかりながら、半年から1年に1回程度専門医療機関を受診して出血の具合や関節などをチェックしてもらう。これなら不安も、負担も少ないのではないでしょうか。

患者会については「へモフィリア友の会全国ネットワーク」のサイトにアクセスしても、知ることができます。

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Q

複数の機関で診察を受けると生活制限や治療法について、話がくい違うことがあります。その場合、どうしたらいいのでしょうか。

A

専門の医療機関は単に疾患への技術が優れているだけではありません。豊富な情報、患者仲間と出会える機会、生活や就職への知恵を持っています。血液凝固の専門医だけでなく、何より関節障害、肝臓機能や生活習慣病で専門医師に診てもらう必要が生じる場合もあります。そうでなくても日進月歩の領域なので、全く専門医に診てもらっていないのは不安です。

実際の事例として「血液製剤はとても高価なので関節出血で腫れていても痛みがなくなると、地元の先生はもう注射をしてくれない」といったことは今でも聞きます。専門医の判断は痛みではなく、腫れがひくまでしっかり注射しましょうとなったら、どうしましょう。はじめに専門医の先生からかかりつけの先生に情報提供書(あるいは紹介状の御返事という形)を作成してもらってください。「○○病院でこんな御返事をいただきました」と地元の主治医に見せてみましょう。やり方を変えていただけると思います。それでも自分たちの納得できない治療が続くようなら、周囲の患者さんの意見を聞く(今はインターネット上でも訊くことができます)、転院する、別な専門医療機関でさらに意見を聞くなどの方法が考えられます。その上で今後の方針を決めましょう。また家庭輸注を検討するのも打開策のひとつです。

近所のかかりつけは大病院でなくてもよいのです。大切なのは当座の措置をしてくれて、専門医とも連絡をとってくれる柔軟性を持った医師であること。このように対処してくださるのなら、どこの開業医の先生でも十分連携できます。あえて難しい状況を想定しましたが、現在はセカンドオピニオン、インフォームド・コンセントや開かれた医療が叫ばれています。皆さんも上手に医療機関と付き合ってください。専門の先生ならある程度、皆さんが言いたいことや質問をぶつけてもちゃんと聞いてくださるはずです。どうか遠慮なく。

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