目次

10.職業生活

Q

就職しましたが、会社にはまだ伝えていません。今後、出血などで入院することになったら、どうしようかと迷っています。皆さん、会社には伝えていますか? 出血のときはどうしているのでしょうか?

A

前項で書いた通り2/3の人は職場に病気を伝えています(血液凝固異常症のQOLに関する研究・平成20年度調査報告書より)。これには個人営業の人も、家業を継いだ人も、就職後に伝えた人も含む数ですので、どの就職後、どれくらいの期間で、どのように伝えたかはわかりません。ただ当然の結果ですが、伝えていた人の方が、勤務中の出血にも早く対応できるという結果が報告されています。震災時に一部の作業(土砂清掃、水運搬等)を免除してもらって、出血を避けられた例もあります。このように通院や入院時だけでなく、職場に理解してもらうことはいろいろな意味で安心です(本項で会社と記した場合、公務員の勤務先なども含まれるとお考えください)。しかし、病名を言えばいいというものではありません。さすがに血友病を入社時に黙っていたために正規職員が解雇されるような例は、最近、聞きませんが、入院後に仕事継続は無理と職場に言われた例、病名を知られて契約を更新してもらえなかった派遣社員はいます。また、解雇には至らないまでも、意図せず出世コースや責任ある部署から外されることもかつては散見されました。

前に書いたことと重複いたしますが、原則として健康保険組合から病名が会社に知られることはありません。法律でも個人情報を漏らすことは厳重に禁止されています。ただ現実として全く漏れませんと言いきれないのが、本当のところです。もしも病気によって不当な差別を受けるおそれを感じている場合は、上司に「病気を知られている」らしいことを匂わされても、自分からは告白しないでください。本人から申告を受けない限り、会社や上司が公に取りざたすることはできないはずです。なお健康保険組合を介さないように、自費で凝固因子製剤費用を支払うことも、年収が数千万円もある方なら可能ですが、ほとんどの方にとっては夢物語ですね。

それでは、伝えた人はどういうタイミングで会社に伝えたのでしょうか。やはり多いのは出血して入院したり、頻繁に通院しなくてはならなかったりした時ですが、他にも関節状態が悪化、あるいは転勤・海外赴任を命じられた時などもあります。いずれも本人が希望して伝えたというよりは状況的に伝えざるを得なくなった場合と言えます。しかし、そこで進退問題に発展することは意外なほど少なく、ほとんど会社の理解を得て、療養しつつ勤務を継続できています。やはり大切なのは会社員としての勤務態度と勤務成績で、病気があろうとなかろうと、それまできちんと働いていた人に対して職場は本人の回復を待ってくれています。また伝えるにしても全ての人に言う必要はなく、上司、総務や人事の一部、信頼できる同僚だけでもよいかもしれません。その際は「個人情報に関わることなので」と事前に釘をさすこと、業務に問題がなければ「今までの仕事は支障なく続けられる」ことも伝えることを忘れないでください。

最後に製剤の準備について、従来は職場に置いていた人はほとんどいませんでしたが、2011年3月の震災以降、帰宅難民、計画停電などの事態に直面した患者さんたちは、製剤を職場に置くことを検討し始めています。常温保存ができるようになったから可能になったことでもあります。注意点はやはり温度管理と薬の交換です。人が快適に過ごせる温度を目安に保存し、可能なら週1回程度、最低でも月1回は薬を交換して、自宅で優先して使用するといった配慮が不可欠です。